変わりゆく者と変わらないもの
一度目のアブソルゲートを58年前から8年前に訂正しました。申し訳ないです。
因みに不知火失踪の二度目のアブソルゲートは3年前です
「タンタンタンタンタン」
「……」
「タンタンタンタンタン」
「……」
非常に気まずい雰囲気の中、早瀬の耳には西園寺の貧乏揺すりだけが聞こえてくる。到着してからかれこれ2時間。一向に奴が来る気配はない。
西園寺は腕時計を確認して落胆する。既にゲートの集合時間だ。西園寺はもう何度目になるか分からないため息を付く。
どうやら俺は勘違いをしていたようだ。奴はE級成らざる特別な力を持っていて、圧倒的不利な状況で徳仁達を蹴散らしたと勝手に想像していた。だが結果この様だ。
時間になっても奴が現れることはなかった。遅刻など最早論外。ハンター以前の問題だ。一日にゲート予約を3つも受けるからこういうことになるのだ。自分の予定すら立てられない、そんな人間が命を懸けた戦いで勝ち残れるわけがない。
清水の言う通り、ボス戦で瀕死になった徳仁達を二人で倒した。これで決まりだ。余りに拍子抜けすぎて一気に気が抜けてしまった。
「早瀬帰るぞ、車を出してくれ」
西園寺は足早に車へ向かう。そして西園寺が助手席の扉に手を掛けたその時、早瀬が俺の肩を叩いた。
「どうした」
「これを見てください」
「あ?」
俺に手渡されたタブレットの画面に映っていたものは
「カフェの割引クーポン?」
カフェの割引券だった。隣の早瀬を見ると捨てられた子犬のような潤む瞳で此方を覗き込んでいた。どこまでもいじらしい奴だ。
しかし丁度時間も空いて暇になったところだ。この落ちきったテンションはコーヒーでも飲んであげることにしよう。
「車を出してくれ、このカフェに向かうぞ」
それを聞いた途端、早瀬は満全の笑みを浮かべた。二人で車に乗り込み目的地のカフェへと向かう。
車に揺られること15分、何の気なしにタブレットに表示された綾小路の参加予約済みゲートを眺めているとあることに気が付く。いや、気づくのが遅すぎた
「ホトトケ村!?」
「どうしたんですか会長!?」
俺はなぜ最初これを見落としていたのだ。
ホトトケ村
一般人がその単語を聞いたとしても何の感情も抱かないだろう。そういう村があるのか、で終わりだ。
だがハンター統括本部より選別されし人物達、具体的には日本五大ギルドのトップ。彼らにこの単語を聞かせた場合、皆一様に同じ人物を思い出すことだろう。
不知火千景
彼女の失踪は日本国内の全ハンター、いや全世界のハンターに衝撃を与えた。
様々なところで様々な憶測が飛び交う中、混乱を招く恐れがあるため、俺達五人と不知火千景の家族だけがハンター統括本部に召集された。そして事の真実を伝えられる。
ホトトケ村という村にD級ゲートが出現したこと、不知火が同ギルド内の2人とそのゲートに挑んだこと、そしてその後の消息が不明であること。
ホトトケ村の村長より不知火がゲートから出てきたことが証言されたので死亡ではなく失踪という形で俺達に伝えられたのだ。
当時の天断ギルドのトップの失踪、それを誰よりも悲しんだのは当時の天断ギルド準トップ、不知火凛
彼女の妹だった。妹は姉を敬愛し、姉もその期待に応え続けた。姉と同じ魔術師を志し、姉と同じ美しい黒髪を伸ばし続けた。これからも一生同じなんだと思っていた。
だがそんな幻は一瞬にして崩れ落ちた。彼女は後に天断ギルドのトップの座に付き、新任式ではその腰まで伸びていた長髪をバッサリと切った姿で現れた。
それは彼女の覚悟の現れであり、姉との決別だった。
「早瀬、予定変更だ!至急ホトトケ村へ行く!最寄り駅に向かってくれ!」
失踪した不知火が最後にいた場所に綾小路がゲート攻略に向かった。まるであの時と同じように
そして彼女が失踪してから今日で丁度三年。
これが単なる偶然であるはずがない
「どこですかそこ!?というか私とのカフェはどうなるんですか」
「今度必ず埋め合わせる」
「会長の奢りなら」
「何でも買ってやる」
「カフェやめて高級レストランにしますか」
「最寄りは端山駅だ」
「…………………了解です」
早瀬は渋々といった様子で目的地を変更した。
「着いた………………」
村を囲む山々、緑が生み出す純然な空気、そしてそこにひっそりと暮らす人々。西園寺の目に映ったホトトケ村は三年前と何も変わっていなかった。
「会長そろそろここがどこで何故ここに来たのか教えてくださいよ」
「事が済んだらな」
俺はあの時と同じ道を歩く。小川がちょろちょろ流れ、虫の音が聞こえる。そして3つ目の曲がり角を曲がると村長の家があった。
そしてその家の前にしゃがみこむある人物の姿があった。
「不知火どうしてここに………」
「西園寺さん、こんにちは」
妹の凛であった。
その手には小さな花束が握られていた。どうやら毎年この日には姉が消えたこの場所で姉へ花を手向けていたようだ。
俺は彼女の横に並び手向けられた花を見つめる。彼女はまだ死んでいないはずだ、だから合掌は要らないだろう。
「では、私はこれで」
彼女が帰路に着く。その後ろ姿は短髪であるにも関わらず姉そっくりだった。
「不知火、少し付き合ってくれ」
彼女にとってこれから起こることは特別な意味をもつかもしれない、そんな風に思った。




