ホトトケ村
「何か匂うな」
黒薔薇ギルドトップ、西園寺豪は清水からの報告に頭を抱えていた。3番隊として期待を寄せていた徳仁チームによるダンジョン内抗争。
普段から温厚で人情深い徳仁による班員の虐殺。初めてそれを聞かされた時、西園寺は耳を疑った。そんなことある筈が無いと、何かの間違いであると信じたかった。
だが俺が呼び出された先には清水1人しかいなかった。そして彼女は徳仁3番隊がこれまでにも常習的に犯行を行ってきたと話した。清水が居ない時を狙って募集枠を潰していたと言うのだ。
俺は部下に取り寄せるよう頼んだ3番隊のダンジョン活動記録を目にして愕然とした。そこには確かに清水がいない日に限って死傷者が出ていた。しかも死傷者の全員が募集枠の人間であった。
俺が3番隊のダンジョン活動記録を監督していた2番隊副リーダー久本嵐に事の次第を問い詰めたところあっさり自分もグルであったことを認めた。金に目が眩んでの犯行だったそうだ。これで3番隊の不祥事が確定した。ハンター統括本部と警察との協議の上、久本嵐にはハンター資格の永久剥奪と無期懲役の処罰が課された。
殺人の間接的関与にしては重すぎる処罰だ。だがダンジョン内での殺人は問答無用で重罰が課される傾向がある。日本で唯一の無法地帯と言っていいゲート内での殺人は至極残虐性の高いものとして基本的に無期懲役か死刑のどちらかである。
判明することは少ないが判明した場合はより重い処罰が課されるということだ。恐らく見つかっていないだけでゲート内での犯罪は行われているのだろう。
俺は再び3番隊のダンジョン活動記録に目を通して1つの疑問について考える。俺はこの事件を聞いた時からひとつどうしても分からないことがある。
それは何故ヒーラ―である清水が徳仁達から生還することができたのか。普通に考えてヒーラー1人対近接13人でヒーラーである清水に勝ち目はない。だが事実清水だけが俺の前に現れた。
そして彼女から事情を聞いていく中で分かったこと。それはあの場にはもう1人のハンターがいたということだ。俺は活動記録の事件当日の参加者名簿の一番下に募集枠として名を連ねるその男の名前を見る。
「綾小路傑か」
聞いたことの無い名前だ。しかも等級はEときた。清水曰く徳仁達はボス戦で消耗仕切ったいたので自分とE級ハンターだけでも倒すことができたそうだ。
だが本当にそうだろうか。どれだけ消耗していようと徳仁がE級相手に負けるとは思えない。俺はハンター統括本部が公開するハンター活動記録で綾小路傑という男の活動履歴を探る。
ハンター統括本部が運営している全ハンターの活動を一般に公開するサイト、それがこのハンター活動記録だ。
黒薔薇が独自に作成しているハンター活動記録と違い全ハンターが載っているのでギルドに参加していないハンターの戦績を調べることも可能である。
そして綾小路の戦績を下にスクロールしていくとあることに気が付く。
「これは………………レバル正教会事件!?」
それは西園寺の記憶にも新しいE級ゲートでの最多死者数を更新したあの事件。複数人のD級ハンターがいたにも関わらず生き残ったのはE級だけという不可解な事件だったのを覚えている。しかしまさか彼がその生存者だったとは…………
報道では生存者の存在については言及されずE級ゲートの最多死傷者が更新されたことだけに焦点が当てられていた。
しかし当時ゲート内から意識の無い男性が救急車に運び込まれていくのを見たという情報が出回っていた。しかし信憑性に欠けるものだったのですぐに人々の記憶から薄れていった訳だが、まさか本当にいたとは………
「何かあるな」
西園寺の疑惑は確信へと変わる。
「早瀬、中堂市周辺のゲートに綾小路傑という男の参加予約が入っていないか調べてくれ」
「かしこまりました」
数的有利の状況で徳仁達B級ハンターがE級ハンターに負けるとは考えられない。だが今は兎にも角にも情報が欲しい。些細な事から見えてくる真実も存在するのだ。
翌日、黒薔薇ギルド殺人事件は大々的に報道された。五大ギルドでの殺人事件は今回が初めての事で、日本中に激震が走った。
会見で黒薔薇トップ西園寺豪は深々と頭を下げ、遺族と全国民に謝罪した。部下の失態は上司の失態である。それが3番隊リーダーともなれば責任追及は黒薔薇トップの西園寺にまで及ぶ。
だが日本の柱であるS級ハンターを追放するようなことはなく、監視体制の強化ということでその場は収まった。
俺はその会見を他人事のように流し見して、朝飯を食い終える。スマホの口座残高画面に羅列された8桁の数字を見て俺は頬を緩めた。
これからは金曜の特売日に買い溜めしたり、昼飯を抜いたりする必要がなくなったのだ。これで奨学金も返済できる。俺の生活にようやく彩りがついてきた。
俺は身だしなみを整えこれから向かう目的地を再度スマホで確認する。今日向かうのはホトトケ村という小さな村だ。
俺の住む中堂市から電車で揺られること1時間。終点駅から更に私鉄に乗り換えて2時間のところにその村はある。町外れにあるその村は人口約300人程しかいない。
そんな村に先日ゲートが出現した。勿論そんな過疎化した村にハンターがいる筈もなく、昨日、事件があった日の内に次の募集を探していたところ偶然この募集を見つけた。
しかもこのゲートの編成は攻略班のみの計3人だけ。ゲートの攻略依頼を受けたハンター統括本部は受注からハンターの募集までの過程を全て行う。直接ギルドに持ちかけられた依頼でも一度ハンター統括本部にゲートの受注をしないといけない規則が設けられている。
よってハンターの編成数はハンター統括本部がゲートの等級によって独自に判断するのだ。そしてこのゲートは募集欄に記載された通りE級ゲート。3人だけで攻略可能と踏んだのだろう。 特に等級の制限もなく誰でも参加できるような募集だった。
では何故今更俺がこんなゲートに行くのか。ようやくC級、B級ゲートを攻略し始めてきた俺が今更E級ゲートに潜るメリット。
それは俺が前回のゲートで味を占めてしまったからだ。上級ゲートに行くよりも下級ゲートに行ってダンジョン資源を取るほうが効率的なのだ。そして回収班より今回のような少人数での攻略が望ましい。
俺は零門を獲得したことで無限に資源を持ち帰ることが可能となった。そんな今の俺にしてみれば回収班では得られる恩恵がむしろ減ってしまうのだ。得た資源を人数で当分するという暗黙の了解が有る限り、少人数での攻略に勝るコストパフォーマンスはないだろう。
午前10時、予定どおりホトトケ村に到着した。3時間の長旅で既にヘトヘトだが目の前に広がる緑を見て長旅の疲労は一瞬で消し飛んだ。
山々に囲まれたこの村は1日に3本しかない電車に乗る以外に訪れる方法はない。喉かな雰囲気に包まれながら俺は道なりに進む。
道路の脇には小川がちょろちょろと流れており、水は透き通っていた。鳥のさえずりや虫の合唱が聞こえてくる中、俺は音に歩幅を合わせながら歩く。
3つ目の角を曲がったところで1人の老夫が出迎えていた。
「ようこそおいでくれました」
「今日はよろしくお願いします」
老夫はくしゃくしゃな笑顔で俺と挨拶を交わした。既に残りの2人は来ていたようで2人の待つ部屋へ通される。
「いやぁ、皆さんに来ていただいて本当に助かりました」
「それが仕事ですから」
そんな会話をしながら渡り廊下を進むと1番奥の部屋の戸が開かれた。
「よろしくお願いします」
「よろしくっす」
「こちらこそ」
俺の挨拶にそれぞれが答える。
「俺、須藤栄之助B級っす」
「私は友瀬美久B級です」
「俺は綾小路傑E級だ、よろしく」
自己紹介を済ませ早速本題に入る。 ハンターに世間話は不要だ
「じいさん、ゲートはどこにあるんすか?」
「此方になります」
そう言って老夫が奥の襖を開く。すると部屋の真ん中にゲートがポツンと出現していた。
確かにそこから感じる魔力は極微小なものでE級3人でもどうにかなりそうな程だ。
俺達は老夫に導かれるままゲートを潜る。どうか洞窟エリアでありますようにと願いを込めて
ゲートを潜る瞬間
ゲートにブロックノイズが掛かるのに気づいたのは老夫だけであった
ブロックノイズとはテレビがバグった時とかに現れる所々モザイクがかかる現象です。




