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中堅層初日

徳仁は清水の髪を吊し上げ、意識がないことを確認した。犯行を知られてしまったら生かしてはおけない。徳仁は手持ちの双剣を抜き、首元に狙いを定める。しかし腕が動かない。決して迷いなどではない、物理的に動かないのだ。


「使えない奴等だ」


振り向いた徳仁は俺の後ろで息絶えた仲間達を見て、そう呟いた。俺は魔力の締め上げを強くしていき、徳仁の腕が悲鳴を上げる。


「雑魚共を倒したくらいで調子に乗るなよ!」


締め上げられた腕を双剣で切断し、俺に強襲を仕掛ける。恐らく俺を殺したあと清水に治して貰おうとでも考えているのだろう。


俺は奴の突きをかわし、背後を取る。そのまま壁まで蹴り跳ばし、洞窟の壁に亀裂が入る。魔力の籠った蹴りは徳仁の背骨をへし折った。俺は吹き飛んだ徳仁の方向に歩きながら奴に語り掛けた。


「なぁ知ってるか徳仁、ヒールってのはな細胞が生きてる箇所にしか効果がないらしいんだ」


俺は起き上がろうとする徳仁の顔面を足で壁に押さえ付けて切断された腕を持ち上げる。その断面は生々しく骨の周りに赤黒い筋肉が張り付いていた。


「ま……まさか………や…やめてくれ!わかった俺が…………俺が」


俺は右手掌に魔力を集約させ、微量な炎を灯した。それを断面にかざして炙り始める。


「いギャアァぁぁぁぁぁぁぁ」


徳仁の悲痛の叫びが洞窟内に木霊する。血と油が音を立てて蒸発し筋肉の色が次第に黒くなっていく。双剣使いにおいて片腕の損失は死に等しい。細胞は全焼し徳仁忠士のハンター生命がここで潰えた。


最も奴にはハンター生命だけでなく人としての生命活動の終わりも味わっていただく訳だが。どうしても殺す前に死というものを味わわせたかった。


奴は痛みで気絶したようで、白目を向いて口から涎を垂らしていた。俺は頬を思い切り叩き強制的に意識を覚醒させる。


「起きろ徳仁、死ぬ前に言い残したことはあるか」


徳仁は声を発することなく此方を睨み付ける。言葉はなくてもその瞳には激しい恐怖感を宿していた。どうやら死を前にして初めて恐怖心を抱いたようだ。


当たり前のことだが、こいつが死んでも死んだ人間は戻ってこない。ではなぜこいつを殺すのか


二度とこんなことが起きないように?

いや、そんなことはどうでもいい。俺の知らないところで何をやっていても一向に構わない。


では、俺の為か?

それも違う。こいつを殺しても俺の憤りが完全に消えるわけではない。


では何故こいつを殺すのか。


それは、それが秩序だからだ。殺しをする人間はその瞬間から殺される権利を持つのだ。そして自分が相手より弱者である時、その権利は強制力を持ち、義務へと変わる。ただそれだけだ


俺は雪陽花を徳仁の首に当て思い切り横に振り抜く。一瞬で絶命した徳仁が地面に崩れ落ちた。俺はこの瞬間、人殺しになった。計13人の死体が転がる中5人はB級。魔力的にはあの魍魎達と同じくらいだが、この外道達を従える気にもなれない。俺は死体を放置し、男達の荷物を漁った後、清水のところへ歩み寄る。


「清水さん、起きてください………清水さん」


俺は片手で軽く頬を叩き、清水を起こす。焦点が定まらないようでしばらく朦朧としていたが突然何か思い出したように両手を前に突きだす


「ストライプウォーター!」


清水の突然の奇行に俺は反射的に退くが特に何も起こらない。未だ状況をつかめない清水は辺りを見渡して呆けてしまった。


どうやら彼女は気絶した後も意識の中で男達と戦っていたようだ。そして突然の覚醒により頭が混乱状態に陥ってしまったのだ。


「清水さん、終わりましたよ」


「………………そうですか」


清水は仲間達の死体を見つめながらそうポツリと呟く。嘆き悲しむでも、安堵するでもなく、ただただ現実を受け入れていた。


その後俺と清水は特に会話を交わすことなくゲートを出た。薄暗く、静まりかえった洞窟を松明も持たずに歩く俺達は洞窟内を吹き抜ける風の音だけを聞いていた。何を思うでもなく、ただただ聞いていた。


マテライト鉱石を二人で分けた後、別れ際に清水が此方を向いて呟いた


「今日はありがとうございました」


一言そう言った清水は閉じられたゲートに背を向けて1人で歩いていった。歩いていく彼女が後ろを振り向くことはなかった。










俺は彼女と別れた後、そのままの足でハンター統括本部まで行った。換金所は民間のところもあるが俺はいつもハンター統括本部の換金所まで行っている。


民間は狡い店が多いのだ。一度行った時に代金をちょろまかされた経験がありそれ以降国営の換金所を利用するようになった。


俺は3時間程かけてようやくハンター統括本部に到着した。換金所はこのビルの三階に位置している。階段を上がる途中ふと目にした森羅万象の時辰儀は前回来た時から少しも動いていなかった。世界の終焉はまだ先のようだ。


換金所についた俺はリュックの内側に零門を繋げ、あたかもリュックの中からマテライト鉱石が出てきたように細工した。


最初はその量に驚いていたが、一向にリュックから出され続けるマテライト鉱石を見て換金所の店員が次第に俺に怪しい目を向けてくる。


机に置けなくなってしまい、とうとう床に並べ始めた。そして全てのマテライト鉱石を出し終わり、店員が換金額を計算し出す。


「えぇー…………マテライト鉱石が3kgと白マテライト鉱石が860gになりますので…………7300万円になります。」


「え?………7300万円?」


「はい」


「730万円じゃなくて?」


「はい7300万円です」


何ということだ。男性サラリーマンの生涯年収の約5分の1を半日で稼いでしまった。


「口座の方へ振り込んでおきますね」


「お願いします」


人は一度に大金を手にしたらどうなってしまうのか。恐らく貯金する者もいれば豪遊する者もいるだろう。そんな中俺は前者だ。自分が変わってしまうのが怖い。何かに成功すると次に待つ失敗を想像してしまう、そんな性格なのだ。だから俺は財布の口を固く塞ぐ決意をした。



「あ、武器屋だ」



俺の決意は3歩で消し飛んだ。無意識に身体が武器屋へ吸い込まれて行く。そもそも、換金所の隣に武器屋を置く方が悪いのだ。見て見ぬふりなど出きる筈がない。


俺は目の前に並ぶ神々しい武器達を見て衝動を押さえられなくなっていた。そして一際俺の気を引くこいつ。双剣が買って欲しそうに此方を見ている。


「すいません、これいくらですか」


「あぁ、そいつはビリオン武器だな」


「何ですかそれ」


「10億円以上する武器ってことだ」


「10億円!?」


何てことだ。大金を手にした俺でさえ足元にも及ばない。こんなの誰が買えるって言うんだ。

その時、横から1人の男が現れた。


「おっちゃん、これくれ!」


「おお、マーボーか!了解!」


男はさっきまで俺を見つめていた双剣を手にとって感触を確かめた後、何食わぬ顔でその双剣を購入した。まさか10億円する武器なんてそう珍しくないのか。確かにここに置いている時点で買い手がいるということだ。売れる見込みが無いものを店に置くわけがない。


俺は諦めて他の武器を物色する。そして何ともボロい双剣を見つけた。試しに値段を聞いてみることにする。


「これはいくらですか」


「それは5万円だ」


店員は興味の無さそうな声で俺にそう告げた。どうやらこの店は0か100の武器しか置いていないようだ。俺のような中堅層(五分前まで下位層だったが)を相手にするつもりは端から無いのだ。


再び貯金する決意を固め、俺はハンター統括本部を後にした。

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