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決別

私は今時分が目にしている光景を理解することができなかった。信じていた徳仁たちに唐突に裏切られ、目の前には見たことのない悪魔の群れ。


そしてそれに立ち向かうのは1人のE級ハンターと1人のヒーラー。この絶望的な場面に直面しても彼は諦めようとはしなかった。


そして彼の背後に突如現れた巨躯の悪魔。あの悪魔が放つ魔力に身体が身震いを起こすのを止めることができない。そしてあろうことか彼はこれを召喚魔術であると言った。


四大魔術の1つである召喚魔術はその莫大な魔力消費故、使えるものは魔術師と相場が決まっている。にも関わらず彼は双剣を振るう剣士であった。


よくよく考えれば初めから疑わしい点はあったのだ。E級でありながら単独でヘルハウンドを倒し、異空間へ収納可能の魔道具を所持していた。


そして目の前では一体の悪魔による一方的虐殺が行われていた。彼は自分で手を加えることなく悪魔達を葬っていく。


思えばいつからだろうか。私は徳仁に疎まれるようになってしまった。2人同じダンジョンに潜入することは減り、会話もなくなった。


それでも私は彼を尊敬していた。一緒に加入した彼は絶え間ない努力の末、黒薔薇3番隊のリーダーの座まで上り詰めた。


そんな彼を誇りに思うと同時にいつか肩を並べられるような存在になりたいと思うようになった。でもその思いは一方的に断ち切られ、駒として利用された。


余りの情けなさとよく分からない感情が入り交じり、瞳から涙が溢れてきた。止めようと思うほどに止まらなくなってしまう。


何処で間違えてしまったのだろうか。最早自分が間違っていたとさえ思えてきた。もう私は立ち直れないだろう。人前で泣くのなんて何時ぶりだろうか。


あぁ、思い出した。あれは初めて悪魔と遭遇したときだった。余りの動揺に足を震わせ動けなくなったところに徳仁が助けに来てくれたんだった。それに安堵して、思わず涙が溢れてきてしまったのだ。


何という皮肉だろうか。



その時、彼が悪魔を全て倒したようで此方に歩み寄ってきた。そして私に言ったその一言。その一言を私は受け入れることができなかった。















「平伏せよ」



亡骸となった亡霊たちに鎖が伸びる。胴の中心が穿たれ、頭部が吹き飛び、四肢を引きちぎられた三十の死兵と死王が一様に立ち上がる。




【呪楔残り29枠】


【呪楔を結ぶ悪魔を選択してください】




俺の脳内に突如流れた通知。予想通り呪楔の契約には制限数が存在していた。残り29枠ということはバベルを入れて30体の悪魔と呪楔を結べるようだ。


俺は亡霊達の選別を始める。

必然的に剣持の亡霊を28体の選ぶことになるのだが、問題はあの二頭四腕の亡霊だ。


見た限り奴は下僕を召喚した以降、魔術を打ったり、直接攻撃をしたりせず、ただただ傍観していただけだった。


恐らく召喚魔術しか使えないで、戦闘は下僕頼みだったのだろう。となると1つの軍に頭は2人いらない。


俺は二頭の亡霊と一体の下僕を無に還し、残りの29体の下僕の主を上書きした。





【魍魎に主君の魔力が付与されます】




突如流れる通知に頭にハテナを浮かべた。魍魎というのは悪魔の分類の1つだ。通常の悪魔と違い、生命体の怨念や憤り、畏怖などから生まれる悪魔のことを指している。


火山で遭遇したアルルスカーレットも魍魎に分類される悪魔だ。そして、バベルと呪楔を結んだ時には俺の魔力付与が無かったことから魍魎特有の効果だと推測される。


俺の魔力が減った感覚はない。要するに魍魎は己を形成する負情に比例した魔力を得るということだろう。


そして今回は元々あの二頭の亡霊が主君だったこの魍魎は俺を主君に据えることで俺の負情に比例した魔力を獲得したようだ。明らかに倒す前よりも魍魎達の魔力量が増えているのを感じる。フードを被る29の死兵は俺に頭を垂れて跪く。


今回のことで分かったのは呪楔の制限が30体までであること、そして魍魎と呪楔を結ぶと俺の魔力に比例したバフが付与されるということだ。後は俺自身がどれだけ魔力を扱えるのかだ。


残念ながら呪楔を結んだ従僕が死んだ場合どうなるのかは検証できなかったがバベルが死んで貰っても困るので、今後29の魍魎を使って試すとしよう。これだけいるならもし復活させられなくても支障はないだろう。


俺は魍魎達にマテライト鉱石の回収を命令する。全て回収したら清水さんと2人で分けてここを出よう。そう "2人で" 







奴等を生かすつもりはない


ここで男達は全員殺す


俺は魍魎が集めてきたマテライト鉱石を零門に放り、端で踞ったままの清水さんに歩み寄る。どうやら泣いていたようだ


「清水さん、ボスは片付きました。ここを出ましょう」


彼女は泣きじゃくる顔を拭き、顔を上げて答える


「ありがとうございます………でも黒薔薇のみんなが外に………」




「全員殺します」





非情に、冷徹に、余りに端的な言葉を清水に告げる。それを聞いた彼女の顔が戸惑いを滲ませ、曇っていく。再び俯いた彼女の瞳から涙が零れる。


「本当にそれしか無いんですか………」


仲間に裏切られた結果死にそうな経験をしても尚、彼女は仲間を信じたかった。そんな慈悲深い、それでいて愚かな彼女に現実を叩きつける。


「貴女のその涙の理由、それはあなたが今、仲間に裏切られて死にそうになったからです。弱者は強者に一方的に淘汰されるだけです。このまま奴等を殺さなかったら俺たちは殺されます。」


「分かってる…………でも」


彼女の中では未だ仲間の影が燻っている。


「ここで彼らを許すことは彼らに対する慈悲ではありません。貴女が手を下すことの出来ない臆病者だというだけです。手を汚すか、ここで死ぬか、自分で選んでください。」


ここで優しく慰めるような言動はいらない。同情は彼女を脆くして、今回の裏切りが心の傷として永遠に残り続けてしまう。


再び同じことが起きた時、それを乗り越える原動力となるのは己の心の在り方だけだ。


必要なのはこのトラウマを今乗り越えること。今決断することで彼女の心はより強固な物へと変わるだろう。




だから今、過去の自分と決別する必要がある










「わたし、やります」













そう言い切った彼女の目にもう涙はない




この時、彼女は初めてハンターになった

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