初仕事
「これで開けられませんね」
仲間の1人が形状記憶合金アイテムを使用し、扉が完全に固定された。
「徳仁さん、本当に清水さんも一緒に閉じ込めちゃって大丈夫だったんですか」
急に不安に刈られ始めたB級ハンターの細谷が徳仁にそう訴える。
「なに、気にすることはねぇ。アイツとは長い付き合いだが今回のことを容認するような奴じゃなかった。しかたねぇことなんだよ」
徳仁は細谷が密かに清水に対して想いを寄せていたことに気づいていた。だが細谷は黒薔薇3番隊リーダーである徳仁に逆らうことは出来ないのだ。
逆らったら自分があそこに閉じ込められていただろう。結果、細谷は己の保身を優先したのだ。
そんな後悔とやるせなさに顔を歪ませる細谷を見て徳仁は込み上げてくる笑いを必死で抑えていた。
徳仁率いる3番隊は今までに何回も同じような募集枠潰しを行ってきた。
奴の表の顔は人当たりの良いフレンドリーなマッチョ。しかし本当は油断しきった奴を一瞬にして絶望に叩き落とすのが生き甲斐のサイコパス野郎だった。
「死に顔を拝むのが楽しみだなぁ………」
時には、悪魔を誘き出す餌にしたり、崖から蹴り飛ばしたり、蜘蛛型の悪魔の巣穴に蹴り飛ばした時なんかは最高に興奮した。
今回は清水が同行するということで殺るつもりは無かったが、募集枠のガキが劇レア魔道具を持ってたり、白マテライト鉱石をゲットしたりと今までで一番の優良株。
そして極め付けはあのボス部屋の宝の山だ。あの量のマテライト鉱石をゲットできたら当分金に困ることは無いだろう。ガキの取り分だけでもかなりの額になる。
しかもあのレア魔道具はいくらで売れるかすら見当がつかねぇ。非売品だったりしてな。ガキを殺した後奪う算段だ。
清水とは長い付き合いになるが、正直邪魔なだけだ。口煩い女。俺にとってそれ以上の認識はない。上にはそれとなく報告すれば問題ないだろう。
ダンジョンは言わば無法地帯なのだ。例え、徳仁が何人殺そうとそれを証言する人がいなければ殺っていないことと同義。
例えメンバー達が途中で足を洗おうとしても自分自身が黙認、又は手を下した事実は消えない。この時点でメンバーが徳仁を裏切るという選択肢は無いのだ。
「後30分くらいしたら行くか」
徳仁達を縛るものはここには何もなかった。
「ちょっとどういうことですか!何故閉めるんですか!」
清水は未だに現状を理解できないでいる。今まで共にダンジョン攻略をしてきた仲間達に唐突に裏切られたのだ、理解できなくて当然だ。
恐らく俺の巻き添えを食らってしまったって所だろう。俺はようやく徳仁の無機質な笑顔と仲間との目配せの意味を理解する。
これが一度目ではないだろう。チーム内で合図を決めていたということは常習的に犯行を繰り返していたに違いない。
扉を無理やりこじ開けることは可能だが、用意された舞台は悪くない。一目が少なく思い切り暴れられる広い空間。俺以外に清水さんが1人いるだけでこの人なら口も固そうだし何とか丸め込めるだろう。
強く閉じられた扉の振動で棺の蓋が地面に倒れる。中にはミイラでも入っているのかと思っていたが、そうではなかった。
棺の縁に手をかけそいつは現れた。フードを被り顔は暗くて何も見えない。亡霊のような見た目のそいつは胴から頭が2つ生えていて下半身がない。それに比例して肩から1本ずつと胸から2本、合計4本の腕が生えている。
「見たことがない悪魔だ…………」
その複数の腕を見て、脳裏にどこぞの岩の集合体が浮かんでは消えていく。その見た目は明らかに魔術系の悪魔だ。
「………………………」
清水さんは地面に座り込んで戦意喪失してしまっている。当たり前だ、仲間に裏切られた直後目の前には死が迫ってきている。
この場に残るのはE級ハンター1人と戦闘能力のないヒーラー1人。どうやら死を確信してしまったようだ。
こんな絶望を一度に経験すれば自我を保てなくなるのも理解できる。信じていた仲間に裏切られたショックは大きいだろう。自分自身の何かが内から瓦壊してしまったのかもしれない。
そんな彼女に追い討ちをかけるように奴の4本腕が天に向けて伸ばされる。その瞬間、奴の周りから無数の黒煙が立ち込めた。
黒煙は蠢き、黒が闇に変わる。そして闇から奴に似た無数の亡霊が現れた。奴と違い頭が1つだけで腕は2本だけ、手には剣を握っている近接型の亡霊。やはりそのフードの中は闇が広がっていて素顔は覗けない。
計30体の悪魔の群れが2頭型を守るように配置される。やはりあの2頭型は魔術系の悪魔だったようだ。
呪楔を結ぶ前後で強さに変化があるのかどうかがようやく確認できる。
「さぁ、初仕事だ」
俺の後ろに何処からともなくコウモリの大群が渦を巻くように群がっていく。その立ち振舞いは威厳すら感じさせ、捻れた角は歴戦の時代の覇者であるという圧倒的貫禄を滲ませている。
永遠の夢から覚醒したバベルは2度目の永眠についても尚俺に絶対服従を誓うという形の覚醒を余儀なくされた。
「あれを始末してくれ」
「オオセ……ノ……ママ……ニ」
バベルは二股の槍を両手に顕現させ、主に集る羽虫を散らしに行く。奴等とバベルでは体格差、魔力共に雲泥の差があり、一撃も貰うことなく確実に一体一体葬り去っていく。
その動きにムラはなく、俺が戦った時と同じだった。呪楔によるバフ、デバフ効果はどうやら無いようだ。
「あ、綾小路さん………あれは………」
顔をあげた清水が更なる悪魔を見たようなか細い声で俺に問いかけた。
「あれは召喚魔術です。くれぐれもこの事は秘密でお願いしますね」
「わ、分かりました」
バベルは剣持の亡霊30体を殲滅し、今まさに2頭型の頭部に槍を貫こうとしていた。
「バベル、そいつは俺がやる」
魔力上昇でどんなことができるようになったのかを試す良い機会だ。俺は腕に力を込めて呪縛の魔神の動きを見様見真似で再現する。
奴の身体が浮き上がり片方の頭が軋みながら徐々に変形していく。ついには汚い音を出して頭が潰された。
「バベル、後は頼む」
もう片方の頭を残し、バベルに引き渡す。
今ので魔力操作の感覚はほぼ掴めた。感覚的には液体を手で掴む感覚に近い。
バベルは微笑んでおり殺戮を楽しんでいた。呪楔する前と性格は変わらないようだ。
ボスを倒しきったバベルを鎖で戻し、本日のメインディッシュを始める
「平伏せよ」




