面汚し
「ざっと10匹くらいか」
前から迫るヘルハウンドの群れにジリジリと後ろへ追い詰められる。このままでは壁とヘルハウンドに挟まれてしまう。
「これくらいならいける!いくぞ!」
男達は防御すること無く特攻を仕掛ける。ヒーラーがいるからかその瞳に迷いや不安はない。
C級の1人がヘルハウンドに飛びかかった隙に横から別の奴に噛みつかれる。腕に牙を突き立てたままヘルハウンドは頭を左右に振り回す。
「うぁぁぁぁぁぁやめぇぇぇ!!」
男の悲鳴が洞窟内を駆け巡った。すぐさま仲間のハンマー持ちが噛まれた腕ごとヘルハウンドの頭を叩き潰した。
「いぎゃぁぁぁぁぁなにすんだよぉぉぉ!!」
「清水がいるから問題ねぇよ!こっちだ清水!」
穴が貫通しており、おまけに骨までぺちゃんこだった腕がみるみる内に元の形に戻っていく。それと同じように男の面に生気が戻る。
「2体終わったぞ!」
徳仁が2体のヘルハウンドを討伐し終え仲間の加勢に向かう。やはり徳仁はこの中でも群を抜いて強い。他のB級でさえ2人がかりで1匹のヘルハウンドと戦っているのに、徳仁は1人で2匹のヘルハウンドを討伐したのだ。
因みに俺は雪陽花で一体のヘルハウンドを倒した。魔力で色々と試したい所だが、ここでやるのは良くないだろう。先程の二の舞になってしまうかもしれない。
雪陽花と肘宛はエンストを起こしたバベル戦の2時間後くらいに元通りになった。一時的というクールタイムは2時間程度だったようだ。
魔力の調整を加え、微量の魔力を雪陽花に流し込む。魔操双術とはまた別に刀身が黒い魔力を纏った。
正面から飛び掛かってきたヘルハウンドの下顎を貫くように下から振り抜く。豆腐を切ったような最早無いに等しい手応えが返ってきた。魔力を纏わせるとこうも変化があるのか
俺たちは清水のヒールと合わせて次々とヘルハウンドの群れを殲滅していく。重傷者が出てもすぐさま治癒され、その姿はまるでゾンビのようだ。
俺たちは倒しきった10匹のヘルハウンドを角切りにして次々とリュックに積める。ばれてもう隠す理由がないので俺は普通に零門に自分で倒したヘルハウンドを放り込む。
「お前、けっこうやるじゃん」
「はは、ありがとうございます」
徳仁は俺がヘルハウンドを仕留めるところを見ていたようで俺の手際を誉めた。
「ところでよ、お前のそれ!どこで買ったんだよ」
徳仁は俺の零門の入手元を聞いてくる。適当に答えてもいいが後々嘘がばれた時、かなり面倒だ。
「実は貰い物でして、自分もどこで買ったものなのか分からなくて………」
「そうなのか、じゃあよ……………………
それ高値で買うから譲ってくれねぇか」
徳仁は俺に零門の買い取りを求めてきた。俺は驚き、呆れつつもそれを必死に隠した。
「ごめんなさい、それは出来ません」
勿論譲るつもりはない
「冗談だよ冗談!」
そう言った徳仁の顔は笑顔だったが、俺には張り付けたような、内心は少しも笑っていないような、そんな笑顔に見えた。
その後も道中で更に数匹のヘルハウンドとサークルセネピードと遭遇したが難なく撃破。潜入開始から一時間程でボス部屋まで辿り着いた。
巨大な扉を前に俺はあの時のことを思い出していた。
「今度は虫以外にして欲しいもんだ」
「なにがですか?」
「いえ、独り言です」
サークルセネピードの進化が報道で世に出回って以来、頻繁に悪魔の進化が報告されていると東堂御門は言っていた。
何がきっかけかは分からないが、人類だけで無く、悪魔も日々生きるために成長しているようだ。
「ではこれからボス戦になります。綾小路さんは引き続き前衛で戦ってください。明日香はヒール頼むぞ」
「はい」
「分かりました!」
パーティー内の方針が決まったところで徳仁がその分厚い扉を両手でこじ開ける。
「マジかよ…………………」
俺達の眼前に広がるのはマテライト鉱石の山。その輝きは互いに反射し合って、部屋を青に染め上げている。遠目から見ても白マテライト鉱石が幾つか見える。
徳仁に群れる男達も清水も俺でさえこの幻想的な海の中のような空間に見惚れてしまった。一瞬徳仁と他の男達が目配せをしたように見えたが気のせいだろうか。
そして宝の奥に直立する怪しすぎる1つの棺。棺の蓋には人の全身が型どられており、まるで現界のツタンカーメンのようだ。
そう考えると棺に眠っているのは王であり、王に忠誠を誓う下僕がいる筈なのだが他に怪しいものは何もない。そんなことを考えていると徳仁が此方に近寄ってきた。
「傑、俺達扉の外にリュックとか置いてきちゃったから取りに行ってくるわ。先にこのマテライト鉱石の山を取り尽くしてからあの棺野郎を叩こう」
「分かった」
「私も置いてきちゃったから取りに行きますね」
どうやら清水も荷物を全て扉前に置いてきてしまったようだ。しかしここで徳仁が妙なことを言い出した。
「いや、俺達が全部集めてきてやるから心配すんな。明日香はヒーラーなんだから少しでも体力を残しておいてくれ!」
基本的に1つのダンジョンで取れた物資は全員で分配が基本だ。その中でもレアアイテムが取れた場合のみ見つけた本人の物となる。
第一優先事項はダンジョンの攻略。ここで明日香に断る理由は無く、徳仁の親切心に甘えることにした。
俺と明日香が二人ボス部屋に取り残された形になり俺達は男達が戻るまで世間話を始めた
「ねぇ、綾小路さんは何処かギルドに所属してたりしますか?」
「俺は無所属ですね。入れてくれるところがあるならお願いしたいくらいですよ」
「そうなんですね!私達は黒薔薇ギルドの一員なんですが話してみましょうか」
「皆さん黒薔薇ギルドなんですか!?」
「そうですよ!これでも徳仁さんは3番隊のリーダーをやってるんです!」
これは驚いた…………
黒薔薇ギルドと言えば日本五大ギルドの1つであり、頭はあのS級ハンター西園寺豪。西園寺家の長男である。五大ギルドの中では4番手だがその規模は凄まじく、ハンターの数で言えば一番だ
そんなギルドの3番隊リーダーとはかなりの凄腕ハンターだったようだ。
「私も彼と同時期に黒薔薇に入って彼とはかれこれ6年の付き合いなんですよ。だからきっと」
その時後ろでなにかを引きずるような音が聞こえ、俺と清水は同時に振り返える。
「え?何してるんですか………」
俺達の目に映ったのは閉じられていく扉と
その隙間から覗く徳仁のニヤケ面だった。
扉が閉じられる音がボス部屋に響いた。




