宝と敵はセット
難波山はこの大都市である京都府に唯一ある山で、既にその活動を終えた死火山である。
66年前の悪魔の大災害で壊滅状態に陥った元首都東京は現在人口が激減し昔の賑わいを失っていた。
東京の代わりとして日本の首都となった京都府は人口が爆発的に増え、過密状態になっている。
高層ビルが次々と新設され、昔の日本の和を調和したような街並みは消え失せ、コンクリートに覆われてしまった。
そんな街並みをただただ傍観している死火山は今日もその威厳ある姿を見せる。
「やっと着いたぞ」
俺は京都府中堂市に住んでおり、9時集合の場合朝6時には出ないといけない。寝ぼけ眼を擦りながら集合場所に到着した俺だったがまだ1人しか来ていないようだ。
「おはようございます」
「おはようございます!募集枠の方ですね」
「はい、綾小路傑です。本日はよろしくお願いします」
俺の挨拶に笑顔で答えた女性。何故俺が募集枠だと分かったのだろうか………
「私、清水明日香、ヒーラーです。」
彼女がヒーラーだったか。俺の勝手な想像だがヒーラーは女性のイメージがある。しかし何故時間になっても集まらないんだ?
「すいません………他の皆さんは私の知り合いなのですが、いつもこんな感じなんです」
「そうなんですか」
清水は困ったような表情をして頭を抱える。しかしいつも遅刻とは如何なものか。今までのパーティーはそういうことに厳格だったが改めて大切なことなんだと実感する。
その時、俺の後ろからぞろぞろと男達がのんびり歩いてやってきた。
「今日も早いね明日香ちゃん!」
「あなた方が遅いんです。今日は私たちだけではないんですから時間厳守と伝えましたよね?」
「おー、忘れてたわ。てか募集枠はそこのお前か?」
リーダーらしき男が俺に声をかける
「はい。今日はよろしくお願いします」
男は俺を品定めでもするような視線でなめ回す。そして笑みを崩さずフレンドリーに握手を求めてきた。
「俺は徳仁忠士、B級だ!よろしくな!」
「綾小路傑、E級です。こちらこそよろしくお願いします。」
「よくE級がCゲート以上の募集要項クリアしたな」
「危なかったけど何とか………」
「すげぇな、いやぁ、というかごめんな遅刻しちまって………仲間が寝坊したみたいでさ」
「そうだったんですか、俺なら大丈夫ですよ」
「皆さん、遅れてきているんですよ。直ぐにゲートに潜りましょう」
「分かってるよ明日香ちゃん、お前らいくぞ」
俺は今までE級だというだけでバカにされることがよくあった。上位のハンターは自分より格下のハンターを見て自分の優位性を実感するのだ。
お陰様で今はもう気にすることは無くなったが、この人達は俺を見下すこともせず対等に会話をしてくれた。
「綾小路さんごめんなさいね。でも徳仁さんを筆頭に腕の立つハンターばかりです。あとは遅刻が改善されれば言うことはないんですけどね」
「いいえ、大丈夫ですよ」
後から俺と清水はゲートに続く。
「暗いな」
俺たちが出たのは洞窟内。上から水が滴っており、"ポチャン"という音が洞窟の奥まで響く。
リーダーの徳仁が松明を取り出し、辺りを照らす。奥から風が吹き抜けてきて、時折その風に悪魔らしき呻き声がのってくる。
「おっ!マテライト鉱石じゃんか!?」
「ほんとっすね!取りましょ取りましょ」
洞窟の壁と地面の境目から生える瑠璃色の鉱石。このマテライト鉱石は洞窟内でしか見ることができず、希少性が他の鉱石より高い。なので高値で取引されることが多く、洞窟のダンジョンはハンターから当たりダンジョンと呼ばれている。
マテライト鉱石の用途は主に武器防具の素材として用いられる。内から放つ青色の煌めきの濃さには違いがあり、濃いほど魔力純度が高い。そしてその中でも変異型のマテライト鉱石が存在するのだがその特徴は………
「徳仁さん!白マテライト鉱石です!」
そう、瑠璃色の輝きが純白に変わっているのだ。この変異型マテライト鉱石の特筆すべき点は含有する魔力にある。
一般的に鉱石はエリアの環境に合わせて利用されることが殆どである。
例えば溶岩エリアで取れた鉱石は炎の魔操術を発現させる武器に用いられることが多い。
しかしこの純白のマテライト鉱石はどんな魔操術の発現にも適している。この白は何色にも染めることができるのだ。
それだけで値段は通常型の5倍もする。
徳仁は仲間から変異型マテライト鉱石を受け取り仲間に持たせたリュックに積める。
俺だって金に余裕があるわけではない。というか今は困っているくらいだ。先日のCゲートで多少いつもより高い報酬を貰ったがそれでも足りない。
俺も壁に沿うように鉱石を探す。すると………
「えっ…………あんじゃん」
純白の輝きを放つマテライト鉱石を発見してしまった。壁の亀裂部分をよく見てみたらあった。今日はかなりついてるな………
俺は零門を開き見つけた白マテライト鉱石を放り込む。
「え!綾小路さん今の何ですか………」
「え?…………あ」
うっかりしていた。人前で使うべきではなかった。見つけた嬉しさの余り、普通に使ってしまった。
「ええと………最近はこのくらいの簡易空間を作る魔道具は出回ってますよ。でも希少性は高いみたいなので清水さんが知らないのも当然ですよ」
デタラメが次々に出てきた。
魔道具は魔術師以外でも特定の魔術を使うことができるアイテムで、基本的に使い捨てアイテムである。一部例外はあるが高値で店頭に並ぶことが殆どだ。
しかし魔術を使えないハンターからしてみればそれだけの価値がある。魔道具の多くは支援魔術や索敵魔術しか使えないが、本当に一部の超一流魔道具にもなると攻撃魔術が使える物も存在している。
このように一流魔道具は一般ハンターからしてみれば無縁の品なのだ。俺の出任せの嘘も説得力はあっただろう。
「そうなんですか。私も今度探してみましょう」
ふぅ、なんとか乗り切った。未だ男達は此方に視線を送っているが奴らは近接。疑う知識すら無いだろう。
近場の鉱石を粗方取り終えて先に進もうとしたその時、洞窟の奥から荒い鼻息が漏れた。そしてその鋭利な牙が松明の灯火に照らされヘルハウンドが姿を現す。
しかし口から溢れる地獄は赤ではなく青かった。恐らくここのマテライト鉱石から魔力を得て成長した個体なのだろう。
「いくぞおめーら!」
徳仁を皮切りに近接の男達がヘルハウンドへ飛びかかる。
「明日香!」
「分かっています!」
清水の周りにガーディアンが集まり、彼女がヒールの詠唱を始めた。そのうちにもヘルハウンドの口から放たれた業火に男達が悲鳴をあげる。
しかし流石はB級ハンター。5人だけは陣形を崩さず、誰かにヘイトが向けば誰かがフリーになるようにヘルハウンドを囲い込んでいる。
その時、ヘルハウンドが遠吠えを洞窟内に響かせた。男達は一瞬攻撃を止め距離を取る。そして辺りを見渡しその異変に気づいた。
「仲間を呼んだのか!面倒くせぇ!」
闇から無数の視線が俺たちを睨んでいた。




