雪降る時、水仙は咲く
ダンジョンボスは大きく二つに分類することが出来る。
1つ目はボス部屋の中で待つ、常駐型ボスだ。これらはE~C級ゲートに多く見られ、ゲートブレイクが起こらない限り中からボスが出てくることはありえない。
そして2つ目は徘徊型ボスである。この型のボスはB~A(S)級ゲートでよく見られる。ボスが神出鬼没で攻略難易度が高く、見つからないときは本当に見つからない。
しかも徘徊型のボスは遭遇時にボスだと断定できないため、ゲート外の波動計と連動してある腕時計がB級以上のゲートでは必須アイテムなのである。
この腕時計型アイテムはチャームと呼ばれていて其なりに高価な品である。大型ギルド等ではギルド入隊時に無料配布されるらしいが上級ハンターの証でもあるのだ。
チャームはボスが撃破されたあとのゲートの縮小による魔力の波動の変化を捉え、それをチャーム着用者に音声通知という形で知らせる。
二つの系統のボス。
今回の樹海の主は一匹狼であった。
一匹狼は群れることを嫌い、何かに囚われることを嫌う。 今日も一人で森をさ迷い歩く。
まさに唯我独尊
時に子孫を助け
時に子孫すらも食らう
故に奴に近づくものはいなくなり、樹海の放浪者として悪魔からも恐れられていた。
名を「ホワイトアウト」という
名前通りの純白の毛並みを持つ獣型の悪魔は
見た目は狼で2mほどの巨体を持つ。
ハンターの真横を通ってそのまま過ぎ去っていくこともあれば、血の臭いを嗅ぎ付けて遠くからでも襲ってくる。全ては奴の気まぐれ次第なのだ。
そして何よりも特徴的なのが奴の通った後に必ずは雪が降るのだ。例えそこがマグマ吹き出す灼熱のエリアでも、洞窟内であっても、樹海であってもだ。
故に一部のハンターからは冬の到来を知らせる「水仙」の異名で知られている。
そして水仙の花言葉は
「自己愛」と「うぬぼれ」
今日もこの樹海のどこかで雪を降らせているのだろう
「なんだ…………季節外れの雪?」
上からは太陽が俺たちを照らしている。なのにパラパラと雪が降っている様子は本当に幻想的だった。
そしてそれに気づいたのは俺たちだけではないようで。キキの群れが大将を先頭に俺たちから離れていく。
「皆!辺りを警戒しろ!ホワイトアウトが近くにいるぞ!」
灰崎が班員に注意を飛ばす。そして遠くの木陰よりこちらを覗く1つの視線から誰1人として逃れることが出来ない。そして奴も微動だにしない。
先にこの均衡を崩したのはホワイトアウトだった。どうやら今日は機嫌が悪いようだ
体長2mの狼が木を巧みに使いながらこちらへジリジリと接近してくる。
「総員中央に集まれ!魔術師は詠唱準備!ガーディアンは前に出ろ!」
灰崎が戦況の指揮を執る。数多のC、B級ゲートを攻略してきた灰崎にとってホワイトアウトは決して強敵ではない。
しかしステージが樹林であれば話は違ってくる。障害物が多いステージであの手の獣の素早さは最大の武器となる。
しかもこのゲートはBよりのC級ゲートである。灰崎の先ほどまでちらつかせていた余裕が消える。
魔力消費の多い重力操作魔術を序盤の敵に使ったのは奴のミスだ。上級ゲートならば常に徘徊型ボスを警戒して極力、力を温存すべきだ。
俺は眼前に雪陽花を構え、ホワイトアウトを視界に捉え続ける。
次の瞬間、俺たちの周りを旋回しながらジワジワ迫ってきていたホワイトアウトが急に角度を変え猛スピードで俺達に突進してきた。
しかし、選りすぐりの攻略班がそう簡単に崩れる筈もなくガーディアンがしっかり役目を果たす。
「続くぞ!」
ガーディアンとホワイトアウトが激突したのを見て、魔術師達が詠唱を終わらせてその莫大な魔力を地面に向けて放つ。
『プリズンスタンプ』
魔術師達の声が樹海に響き渡りこだまする。そして突如地面が割れ、中から出てきた太い木の根っこが暴れだした。
それはホワイトアウトに絡み付くと、脈を打ち始めた。敵の魔力を吸い取っているのだ。
この魔法は敵から奪った魔力量によって拘束時間も変化するという敵に依存する珍しい形の魔術である。
この森の主が激しく抵抗するが太く絡み付いた根がその巨体を離すことはない。しかしここでホワイトアウトが身を震えさせ始めた。
灰崎は今まで数回ホワイトアウトとの戦闘経験があるが、このモーションを見たことは一度もなかった。
「ウオォォォォォォォォォン」
一匹狼の遠吠えは木々の狭間を抜けこの樹海を抜け、天すらも突き抜ける。そしてさらにホワイトアウト周辺の天候が変わり始めた。
「ここに来てまだ寒くなるか!」
体感温度は-20℃くらいだ。流石にここまでだと動きに影響が出てくる。
「足を止めると一気に凍るぞ!兎に角動け!止まるな!」
皆に指示を出す灰崎
しかしその表情はどこか笑っていた。
「いいこと教えてやるよ。俺とお前の相性は最悪なんだぜ。勿論お前にとってだがな」
そう言った灰崎は大剣を両手で握り綺麗な構えを執ってその名を謳う。
『炎舞 一蓮』
みるみる内に炎が刀身と灰崎自身の両方に広がっていく。しかし灰崎に纏わりつく炎は足元から昇る氷結と相殺される。
「おら!」
灰崎が剣を一降りするだけで冷やされた空間が瞬間的に熱せられ水蒸気爆発が起こる。
こちらまで飛ばされそうになる凄まじい爆風は熱を籠らせホワイトアウトを晴らす。
「おらおらおらおら!」
純白だった毛並みは見る影もなく、丸焦げになった。
どうやら灰崎の『炎舞 一蓮』は本来その爆発的な威力によって己すら傷付けてしまう諸刃の剣だったようだ。
しかしその自傷を相殺してくれるホワイトアウトの気候変動は彼にとって相性最高。ホワイトアウトにとって相性最悪だった。
「ふぅー片付きましたね。おっ!今のがボスだったみたいです。時間はまだまだありますがキキの群れが帰ってくるかもしれないので急いで素材回収して帰りましょう。」
チャームがボス撃破を知らせる
俺はグラりたい気持ちをグッと押さえた。俺の手柄じゃないのに喰ってしまうのも申し訳ないからな
「傑!俺たちの出番だぞ!」
「そうだな、ちゃちゃっと終わらせるか」
秀と二人で背負ってきたバックにホワイトアウトの死体を角切りにして詰め込んでいく。
本来はこの素材が金や装備になっていくが俺の場合は食べて消えるので手元には骨しか残らないのだ。
「では、回収班の作業も終わったので戻りましょう!」
俺は回収班の最後尾について進む。死んだ筈のホワイトアウトの降雪効果は未だ続いている。恐らく魔核自体が持っている能力なのだろう。
俺は降りしきる雪の中足元を見ながら進む。
だから気付かなかった。
俺が通った大木の間が不自然に歪んでいたこと
世界から音が消えたこと
そして全てが止まったことに




