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芽吹き

その日は響子さんと美琴さんとでお茶をしていた。芳しい紅茶の香りと香ばしい茶菓子の香りが部屋に充満していた。


「うっ…」


「大丈夫!?薫子さん」


響子さんは私が嘔吐くのを見て驚いて慌てはじめた。美琴さんは顔色を変えた。


「お義母様、大丈夫です。最近体調が優れないだけですので」


「今日は無理して来たの?体調管理が出来ないなんて…!」


響子さんの説教が始まりそうになった時、美琴さんが口を開いた。


「もしかして妊娠しているんじゃない?私と症状が似ていたから。早く産院で見てもらって」


その時、響子さんの顔がパァッと明るくなる。


「まぁ、妊娠!?それはおめでたいわ」


「お義母様…まだ決まったわけじゃ無いですよ」


お茶会は中止になり急遽美琴さん同伴で産院へ行く事となった。


「おめでとうございます」


お医者様からその言葉を聞いた時、私のお腹には新しい命が宿っているのだと実感した。


「あ…庵司さんにどう伝えたらいいのでしょう」


「確かに緊張するわよね。だけど喜んでくれるだろうから安心して言うといいわ」


美琴さんの笑顔が眩しかった。なんと切り出そうか。庵司さんは喜んでくださるだろうか。幸福と不安が入り混じる。何より、親から愛されなかった私がちゃんと子供を愛せるだろうか。


家に帰ってすぐに私は部屋に引っ込んだ。そして安静にしながら庵司さんの帰りを待った。いつも家事を手伝う私が急に部屋に引っ込んだので女中さん達は心配したが、一番最初に報告するのは庵司さんが良かったので黙っていた。


「お帰りなさい、庵司さん」


言いたくて堪らなくてお帰りなさいの声が少し上擦ってしまった。


「ただいま」


「あの、庵司さん。お話があります」


私がそう切り出すと庵司さんも真剣な面持ちに変わった。私も緊張してしまう。


「お部屋で…お話しできませんか?」


「わかった」


疲れているだろうにそんな素振りを見せずに庵司さんは私が言い出すのを待ってくれた。早く言いたい気持ちと拒絶されないだろうかと言う不安に挟まれて、私から話があると言ったのに話し始めるまでしばらくかかってしまった。部屋に入り向かい合って座布団に座った。


「庵司さん、私妊娠しました」


どんな反応が返ってくるのか不安だったが最後まで言葉を紡ぐ前に妊娠という単語を言った時点で抱きしめられた。


「庵司…さん」


「ありがとう、薫子。嬉しい」


たったそれだけだったけど嬉しさが伝わってきて安心した私は泣き出してしまった。


「これからは二人を守っていくんだな」


私を抱きしめながら庵司さんはそう呟いた。


「庵司さん。私、いい母親になれるでしょうか」


良妻賢母の教育は一通り受けた。しかし愛されなかった私が愛せるのか不安しか無かった。


「私も父親になるのは初めてだ。二人で頑張っていくしか無い」


しばらくずっと抱き合った後、私達は女中さん達にも妊娠を伝えた。皆、泣いて喜んでくれて私も釣られてまた泣いてしまった。


ずっと不安だった。私はもしかしたら石女では無いかと。栄養が足りず、痩せ細っていた私は回復するまで月のものがなかったからだ。ここに来て沢山美味しいものを食べさせてもらって暖かい布団で寝れてやっと回復したのだ。


「私、母親になれるんですね」


私が愛されなかった分まで、愛されたかった分まで沢山愛すよ。私はそう心の中で呟いてお腹を撫でた。

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