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第四話 立場を超えた関係

 いい匂い漂う食堂で、休憩中のシオンが本を読んでいた。それに気が付いたアイカがそっと声をかける。


「シオン様。そちらの本は何ですか?」


 この二人は、よく隙間時間に本の感想交換会をするほど愛読者である。シオンは目線を上げると、アイカに小さく微笑んだ。


「パンの香りと恋心という物語です。」

「ああ、いいですよね。パン屋さんの娘さんと、常連客との恋物語。」


 気が付けばアイカは近くの席に腰を下ろして意見交換を待ちわびていた。シオンはこくりとうなずく。


「作者の情景描写がとにかく美しいですよね。」

「わかります。特に最初の一文がそそられます。」


 本来ならば、主と使用人という立場であまり交流のない関係である。だが、この時間はただ同じ趣味を共感するかけがえのない時間と化していた。二人とも片方が言う言葉に嬉しそうに相槌を打ち、さらにプラスして感想を伝えるといういい雰囲気になっていた。


 そこに、のんびりとアヤメがやってくる。


「何の話しているんだ?」

「あ、アヤメさん。こちらの本の話をしていました。」


 アヤメはなんだか微妙な反応をしていた。


「読んだことがないな。」

「そうですか?」


 シオンはそういうと本を差し出す。


「五週目なのでよければどうぞ。」

「読みすぎではないか?……でもありがとう。読んでみるよ。」


 本という共通の趣味を通じて立場という壁も超えれるようだ。


 今日も彼らは記憶の図書館で過ごしている。

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