↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】過保護な闇落ち聖騎士と寂しがり屋の生贄聖女は、健康で文化的なダンジョン生活を満喫中  作者: tea@コミカライズ 12/26発売 お飾り妻アンソロジー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/30

第3話|炬燵と過去の夢

もっとよく彼を見ようとしたところで、フッとその映像《ビジョン》が途切れました。

どうしたのかと思い熾火を見れば、眠る魔王様の映像につられたのか、大きなあくびをしています。


そんな熾火を見て、私も少し自分の疲れを自覚しました。

今はまだアドレナリンがバンバン出ていて、元気な気がしていますけれど、それが切れて本格的に倒れ込む前に、きちんと休養を取れる環境を整えておいた方が良いかもしれません。



小部屋を探索してみましたが、寝具らしきものは残念ながら見当たらず。

仕方がないので、埃よけの布を洗濯し、毛布代わりに使わせてもらうことに決めました。


祖母に何かの話の折りに教えてもらった昔の洗濯の仕方を思い出しながら、熾火に頼んでもう一度湯を沸かしてもらい、その中に先程捨てずに取っておいた木灰を入れます。

少し待った後、灰の混じった湯を布で濾し、出来た灰汁《あく》に埃よけの布を浸して揉み洗いをし、最後にきれいな水ですすげば――


なんということでしょう☆

埃まみれだった布が、清潔な毛布へと生まれ変わりました。



日差しのない地下で、さて、どうやってこれを乾かそうかと思わず熾火に目をやれば。

熾火は


『なぜ洗う前にそれを考えなかった?!』


とでも言いたげなジト目を私に向けた後、それでも、やれやれといった様子で干した布に向かって尻尾をぶんぶん振り、熱風を起こして乾燥を助けてくれました。



とりあえず寝具の確保はできたので、次いで部屋の掃除へ取りかかります。


置いてあった箒で部屋の埃を掃き出し、サイドテーブルに掛かっていた、毛布代わりにするには小さな埃よけの布を更に小さく切って雑巾にし、壁と窓、そして床を磨きます。

掃除機を使わないこんな掃除の仕方も、すべて大好きな祖母から習ったものでした。





あらかた部屋も綺麗になったところで、さすがに疲れを覚えました。


裏庭に続く石段に腰掛け、少し休もうとした時です。

継ぎ目につま先を引っかけ、思わず足元にあった野球ボールほどの石を蹴飛ばしてしまいました。


意外と軽かったそれはコロコロと段を転げ落ちていき、最後の一段から落ちたところで、パカッと二つに割れたのを見て、しまったと思った、その時です。

割れた石の中から、まるで無数の蛍のような黄色い光が、石の中からパァッと溢れ出してきました。


驚きのあまり疲れも忘れ、思わず駆け寄り近くでよく見てみれば、それは石の中の空洞に、光を放つ宝石のような結晶がびっしりと生えたジオード《晶洞》でした。


そのあまりの美しさに感動して、似たような石をほかにも手に取ってみれば、どれも長い年月を経て脆くなっていたのでしょう。

地面に戻したわずかな衝撃で、石は次々と砕けていき、暗く寂れていた裏庭は、あっという間に美しい宝石の光でいっぱいになりました。



ぼんやりと、最初に零れた黄色い光の美しさを一人眺めているうち、昔、祖母の家の縁側で見上げた満天の星空を思い出しました。


それに比べ、ここは空も見えず、光も差さず、どこか息苦しいなと思った、その時です。

ふと、また良いアイディアが閃きました!


早速、物置部屋へ走って戻り、窓にかかっていた濃いネイビーのカーテンを外しました。

それを洗って、また熾火に頼んで乾かしてもらった後、そこにあった針と糸を使い、先ほど見つけた黄色い宝石のような結晶を、時間をかけて一つずつ縫いつけていきます。

そうして出来上がったものを裏庭の天井に吊るしてみれば――


なんということでしょう☆

暗く閉ざされた裏庭に、美しい星々がまたたく、文字どおり“夜のとばり《カーテン》”が出来上がりました!!





その出来栄えを自画自賛しつつ、美しい星空に見とれ、一体どのくらい時間が経ったころだったのでしょう。

私の口から、ふわぁぁっと大きなあくびが漏れました。


今日はここまでにして、一度寝ようと思い物置部屋へ戻れば、そこは掃除の甲斐あってこざっぱりとしており、埃っぽさもすっかり消えていました。


干し肉とレーションを取り出した後、綺麗に水拭きして乾かしておいた木箱を横倒しにし、上から先ほど洗った布をかけ、その中へ熾火を呼び寄せれば――


なんということでしょうパート2☆☆

じんわり遠赤外線とその他諸々で実に暖かい、炬燵の完成です。



熾火にお願いして少し奥へ詰めてもらった後、その隙間に足を潜り込ませ、頭からすっぽりと毛布代わりの布を被り、実にいい気分で目を閉じます。


そうして――

思いのほか疲れていた私は、あっという間に深い深い過去の夢の中へと落ちていったのでした。


そう、それは私がまだ保育園に通っていた頃のことです。





  *


延長保育で最後まで一緒に残っていた子が、帰り際、私に顔を寄せ、ひそひそ声で言いま


「知ってる? 誰もお迎えに来ない子にはね、忘れられっこ園から、赤い鼻をした黄色い犬が迎えに来るんだよ。それで、スパゲッティにされて食べられちゃうの!」


母親に手を引かれ、嬉しげに去っていくその子の背を見送りながら、父が迎えに来てはいないだろうかと窓の外を見やりました。

しかし、残念ながら父の姿はまだどこにもありません。

保育園よりも学童のほうが先に閉まるので、いつものように父は先に兄を迎えに行っているのでしょう。


忘れられっこ園なんて嘘だって、分かっていました。

子供達の間だけで怖がられている、支離滅裂な怪談話です。

現に、男手一つで兄と私の世話をしている父のお迎えが最後になったことは、これまでにも何度もあったのです。

でも……。


雨が降って、雷が鳴っていたせいでしょうか。

その日は、自分だけが本当に忘れられてしまったような気がして。

私はだだっ広い部屋に一人でいることが、どうしても怖くなってしまったのでした。



職員室に行ってしまった先生が帰ってくるまでの間だけと自分に言い訳をして、押し入れの中へ隠れ、少しした時のことです。

どこからか、犬の鳴き声が聞こえた気がしました。


まさか、本当に黄色い犬が迎えに来た?!

そう思った瞬間、押し入れの向こうに、ぼんやりと誰かの姿が見えました。


震えながら、よくよく目を凝らせば、現れたそれは犬ではなく、淡い金髪に小麦色の肌、そしてエメラルドの瞳をした、美しい西洋人の青年でした。


年頃は、高校生くらいでしょうか。

彼は長いこと一人で泣いていたのか、頬には涙の筋が残り、鼻の頭だけが少し赤くなっていました。


そうして、目があった瞬間、彼はひどく懐かしそうに、そして今にも泣きそうな顔で私に微笑み言ったのです。


「あぁ、ようやく見つけた」


その声は、変声期特有の少し掠れたものでありながら、愛しいものに触れるような、実に柔らかな響きを帯びていました。


「永いこと、待たせてごめん……。迎えに来たよ」


そう言って差し出された手は、子どものものとは明らかに異なるのに、今まで見た大人の手よりもずっと華奢で。

酷く傷つきやすそうに見えました。


怖いような気もするのに、何故かその脆そうな手を取りたいと思った、その時でした。


「ひなた!!」


すぐ近くから、必死に私の名を呼ぶ父の声が聞こえました。


そうして次の瞬間、押し入れの戸が勢いよく開き、眩しい光と一緒に父の顔が現れると同時に、黄色いその人は、まるで夢から覚めるように消えてしまったのでした。



「何やってるんだ! どれだけ探したと思ってる!!」


そう言って、父には散々怒られる羽目になりましたが……。

それでも、父が私のことを忘れておらず心配して見つけ出してくれたことが、たまらなく嬉しくて。

夢から覚めた時のように、私はその青年のことをすっかり忘れてしまったのでした。



  *







私が眠りに落ちてから、一体どれくらいの時間が経った頃だったのでしょう。

ひどい頭痛で目を覚ましました。


直感的に、これはまずいと体を起こそうとしましたが、どうしてか全く体が動きません。

恐らく、一酸化炭素中毒というやつなのでしょう。


熾火を呼ぼうにも、その姿はすでに近くになく、


『あぁ、やはり私はここで、誰にも見つけてもらえないまま死ぬのかな……』


そんなことを思った時でした。


「起きろ! 死して逃がしてなどやるものか!!」


そんな怒号と共に、誰かが私の身体をその逞しい腕の中に強く抱き込むようにして、引き起こしてくれたのが分かりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。