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【完結】過保護な闇落ち聖騎士と寂しがり屋の生贄聖女は、健康で文化的なダンジョン生活を満喫中  作者: tea@コミカライズ 12/26発売 お飾り妻アンソロジー


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第29話|帰宅

「どこに行くつもりです? アンタのねぐらはそっちじゃないでしょう」


そう文句を言いながらもついてくるギンに、


「帰る場所がないなら、作ってやればいいだろう」


そう答えて、灰の国へと続く道を馬で駆けた。



「何十年も魔物を吐き出し続けているという、南海のダンジョン。要は、そいつを潰せばいいのだろう」


馬上で舌を噛まぬよう、短くそう答えれば、


「そんなこと、出来るんですか?!」


驚きに満ちた声が返ってきた。


「やってみなきゃ分からないが、まあ、ダメで元々だ」


そう返すと、ギンが信じられないとばかりに言葉を飲んだのが分かった。


その反応が、かつてヒナタを前にした自分のものとあまりにそっくりで。

自分がいかにヒナタに毒されているのかを思い知り、思わず笑えば


「笑い事ではないでしょう」


そう言って、ギンがやはりかつてのオレの様に頭痛がするとばかりに頭を押さえた。





灰の国は、近年興った小国で。

それ故に勇者召喚に手を染めた回数も、自国に比べ格段に少なかったのだろう。


ダンジョンの階層は自分がいたものとは異なり浅く、そこに溜まった揺らぎと淀みも、格段に小さなものだった。


「少しの間でいい、魔物を近づけさせるな。その間にオレが取り込む」


そう言って、揺らぎに手を翳せば、


「ふざけんな!」


そう叫んだギンに、後ろから羽交い締めにされ


「別にこれくらい、どうということはない」


「勝手に決めんな!! アンタになんかあってみろ、ヒナタに責められるのは僕なんだからな! 協定者だろ、ちゃんと相談しろ」


そんなふうに怒られてしまった。


そこそこ家格も高く、実力もあったため、こんなふうに真正面から怒られたのは初めてだった。

ルシアに出会う前に、このように言ってくれる人間がいたら――いや、自らそのような関係に身を置く賢さがあったなら、きっと運命は違ったのかもしれない。


そう思ったから……


「この、自分に酔ってばかりのカッコつけ野郎!」


腕を振り解くついでに投げ飛ばすことで、その言葉だけは聞かなかったことにしてやった。



淀みを取り込み、紅くなってしまった瞳の上に手を翳し、元のありふれた青に戻して見せれば、


「次はぜってぇ止めてやる」


肩についた土埃を払いながら、ギンが忌々しげに、しかしその実、酷くホッとしたように言った。







◆◆◆◆◆◆



戦勝を祝して開かれた夜会で、かつてルシアにしたように、ヒナタをダンスの輪の中へ誘い出した。


かつてのように二度目のダンスに誘えなかったことを後悔する暇もないまま、


「もう一回! もう一回踊りましょう!!」


ヒナタからそう言われ、自分が囚われていた世界のあまりの狭さに、一人笑うしかなかった。



そう言えばルシアは一度だって、オレと共にありたいとは言っていなかったのになと、

そんな当たり前のことにようやく気付いて。

ヒナタにも好きにすればいいと、勝手な干渉をやめて手を離せば――


触れていた温もりを失ったことを悲しむ間もなく、グイとその手を引かれた。



「アルセルさんと一緒に帰りたいです」


その言葉に、オレがどれほど救われたか。

きっとヒナタは、生涯知ることはないのだろう。



◆◆◆◆◆◆◆







ダンジョンの奥底に湧く災害級の魔物を何百年もの間相手にしてきた魔王様と、ただの近衛兵とでは、あまりにも力の差があり過ぎたようで。


「待たせたな。行こう」


服装の乱れ一つ見せぬまま、アルセルさんはそう言って、再び私に手を差し伸べました。



門を出て少ししたところで、闇夜に紛れるような黒馬の手綱を引いた、ローブのフードを目深に被った兵が待ち構えていました。


先回りされていたのかと焦る私とは対照的に、アルセルさんは落ち着いた様子で彼に近づくと、手綱と、荷物の詰まった大きな鞄を受け取ります。


それに驚き、フードの奥の顔に目を凝らせば――

なんとそれは、ギン君ではありませんか。


「ありがとう」


危険を顧みず協力してくれたことにお礼を言えば、


「魔王とは、しばし停戦協定を結んだだけです。またすぐに会いに行きますから」


そう言って、ギン君は自分が着ていたローブを私の肩に掛けてくれました。





ギン君の愛馬だという黒馬に、ダンジョンの入り口まで乗せてきてくれたお礼を告げると、その子は一度私の目をじっと見た後で、ひとりでにお城の方へ向かって帰って行きました。



ダンジョンの中へ入り、奥を目指して急ぐ、その途中。

入り口へ向かい、お城で習った祈りの言葉を声に出して唱えれば――


下層にあったものとは少し形の違う、有体に言うのであれば少々不格好な結界が、光の膜となって出来上がりました。


「こんな中途半端な所に結界? 何の為だ?」


アルセルさんが首を捻った、その時でした。


私達を追って来ていた聖騎士の一人が、目の前で光の壁にポヨンと跳ね返されました。


それを見た後方の騎士がアルセルさんに向けて矢を放ちましたが、それも同じようにポヨンと跳ね返され、結界の前にポトリと落ちます。


「中から出られない結界があるなら、外から入れないものも作れるんじゃないかと思って。試しにやってみたんですけど、上手く行きましたね」


そう言って笑えば、


「聖騎士を締め出す聖女なんて、初めて聞いた」


アルセルさんに心底呆れられてしまったので、


「ちゃんと、アルセルさんとギン君は通れるようにお願いしましたよ?」


そう訂正したのに、何故でしょう。

更に何とも言えない顔をされてしまいました。







******



先日登った道を、またひたすら下って、どのくらい経った頃だったでしょう。

遠くから、狼の遠吠えが聞こえました。


それに思わず歩調を速め、最後には駆け出せば――

ついに、ずっと帰りたくて仕方がなかったあの礼拝堂が見えてきました。





「長いこと、留守にしてごめんね」


そう言ってその背を撫でれば、灯雪は何のことだと言わんばかりに、ゴロンと寝転がってお腹を見せてくれました。


それを見て、地上とダンジョンの奥とでは、流れる時間の速さが違うのだということをようやく思い出します。


灯雪と熾火にとって、私とアルセルさんが留守にしていたのは、ほんの数日のことだったのでしょう。


寂しい思いをさせていなかったことに心底ホッとすれば、黄色い犬に代わるように、主と共にやって来た銀灰色の狼が、私の隣でゆっくりとその尻尾を振りました。

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