第23話|茶飲み話
アルセルさんが言うには、昨日よりもダンジョン上層の魔物の動きが活発になっているそうで。
偵察に出していた烏に似た魔物からの報告では、どうやら私こと聖女を魔王より奪還するため、国王軍がダンジョンへ攻め入ってきているとのこと。
「ここまで全員が来るとは限らないが、現段階で二十、いや三十はいるな」
熾火がかつて私にやって見せたように、烏型の魔物から何かしらのビジョンを受け取ったのであろうアルセルさんが、そう呟いて実に不愉快そうに眉を顰めました。
しかもあちらは本気らしく、魔物達を掃討しながら、着実に下層へ降りてきている模様。
「取り戻すも何も……」
お城の皆さんによってダンジョン内に生贄として遺棄された記憶はあれど、ゲームのお姫様のように攫われた覚えはないんですけどね。
実に勝手な言い分に呆れるしかありませんが、既に進軍を始めた人達が、このまま放っておいて勝手に引いてくれるとも思えず……。
「ちなみに、もし国王軍がここまで来たとして……勝てますか?」
アルセルさんにそう尋ねてみれば、
「勝てる」
さも当然とばかりに、即答されました。
どれくらい力量差があるのかと聞けば、今回来ている者達がまとめてかかってきても、その戦力は所詮、先日アルセルさんがあっさり倒した災害級の魔物一体と同等程度だそうで。
念のため、災害級の魔物はそんなに頻繁に出現するものなのか聞いてみれば、
「どこかの馬鹿が封印を故意に壊しでもしなければ、現れるのはせいぜい二、三百年に一度程度だろう」
とのことでした。
「祭壇の近くに、私のお墓を作っておくとかどうでしょう? それで、私達はダンジョンのもっと奥に一時的に避難し、やり過ごすんです」
そんな案を口にすれば、
「墓は即刻暴かれて、すぐさま嘘だとバレるだろうな。逃げてもいいが、ここが踏み荒らされるのは間違いないだろう」
アルセルさんに冷静に返され、それは嫌過ぎると首を横に振りました。
暫くアレコレ考えた末
「じゃあ、いっそアルセルさんも一緒に救出されちゃいましょう!」
シンプルにそれが一番良いと思い、思ったことをそのまま口にしただけだったのですが、
「はぁ??!」
何故かアルセルさんに酷く驚かれてしまいました。
「冗談もいい加減にしろ」
ため息交じりにそう言われてしまいますが、私は別に冗談など言った覚えはありません。
幸い、先日の襲撃の際、ギン君はアルセルさんの素顔を見ていません。
ですから、アルセルさんが人間の姿に戻り、逃げている私を偶然見つけて、一緒に逃げてくれている最中だということにしてしまえば良いのではないかと、考えたのです。
「……お前だけが地上へ戻れば済む話だろう」
アルセルさんがそう言ったので、
「酷い! 私だけを犠牲に、自分だけはこの快適なダンジョン暮らしを続けると?! 見損ないました!!」
そう憤慨すれば、アルセルさんがまた、
「だから、人聞きの悪いことを言うのはやめろ!」
とプンスカ怒りました。
そうしているうちに、今日の祈りの効果が切れ、外がだんだん暗くなってきました。
そろそろ、お夕食の準備をしないと。
そう思いながら、立ち上がった時です。
アルセルさんが、お行儀悪く机の上に頬杖を突きながら、ニヤリと嗤って言いました。
「お前が望むなら、二度とこんな馬鹿なことを考えつかぬように、すべて殲滅してみせようか?」
「いえ。ぜひ、もっと穏便な方法でお願いします」
あっさり却下すると、
「つまらんな」
アルセルさんもまた悪いふりをやめ、いつものようにカラッと笑いました。
夕飯の魚の香草焼きとパンを食べながら、
「もうこうなったら、アルセルさんが聖騎士に戻るしかないですね」
そう言った瞬間、またアルセルさんが、仮面越しにもハッキリと分かる程、ポカンとした顔をしました。
「魔王とアルセルさんは別人だったことにするんです。聖騎士のアルセルさんが魔王を討伐して、囚われていた私を救い出してくれた。でも、ダンジョンの異変はまだ完全には収まっていない。だから聖女と聖騎士として、これからも二人で魔物を討伐しながら異変を鎮めていくので、救助は不要ですと伝えて、穏便に手を引いてもらう。完璧な作戦です。これで行きましょう!」
私のそんな言葉に、アルセルさんは何度も何か言いたげに口を開いたり閉じたりしていましたが……。
最終的には上手く言葉にならなかったのでしょう。
頭痛がするとばかりに、仮面の上から頭を押さえました。
反対の言葉はなかったので、この作戦を満場一致で採択する事と致します。
と、いうわけで。
明日は早速、魔王ともろバレな仮面を外すべく、アルセルさんを幸せな気持ちにするための、ダンジョン内の素材を使ったケーキ作りに取り組みたいと思います!
「絶対に美味しいものを作り上げて、その仮面を剥がしてみせるので、楽しみにしていてくださいね!」
そう言えば、アルセルさんは長い事黙っていましたが……。
「それで、オレは何をとってくればいい?」
最後にはいつもの苦笑交じりに、そう言ってくれたのでした。




