■09話 優しい性欲モンスター
二人におぶさられ、疲労困憊で教室に入っていくシーエを見送り、アルビは自分の教室を目指した。
高校二年生の現在、シーエとエムジは同じクラス。そしてアルビは別のクラスだ。なおアルビのクラスには茶畑ヒデオも同席している。いらない。
アルビ
「はー」
自分の席につき、アルビはため息をもらす。
アルビ
(シーエの頬の傷、まだ消えて無いな)
ショッピングモールに行ったのが日曜日。今日は火曜日。2日では傷跡は消えないものだが、もし残ってしまったらどうしようとアルビは気が気ではない。
シーエ自身は全然気にしてないし、アルビが気にしているそぶりを見せたらまた謎の二択が発生しそうでシーエ自身にはこの話題を触れられずにいた。
アルビ
(きのうエムジに相談して、シーエから迫られた二択のモヤモヤは少し消えた。シーエなりの優しさだって解ったし。でも顔の傷は別だよ……)
シーエがいくら気にしないと主張していても、アルビは気になる。これってエゴなのかな? 本人が気にしてないならいいのかな?
アルビ
「はー」
ヒデオ
「どうしたのアルビちゃん」
と、何度もため息を吐いていると声をかけられた。かけて来た相手は
アルビ
「なんだ茶畑か。まぁ良いかお前でも」
ヒデオ
「辛辣ー」
アルビは茶畑ヒデオが苦手である。性欲に支配された男子と言うのがどうも苦手で……。以前シーエに聞いたら
『この年代のオスは一番性欲が高い時期なんだ。ヒトは野生化ではハーレムを作る生き物だから、多くのメスと交尾しようとアプローチしまくる』
『逆にこの世代のメスは相手選びに慎重。オスと違い妊娠したらしばらくは次の子孫を作れないからな。だからより良い相手を探し、多くのオスを警戒する』
『アルビの男子嫌いも20、30と年齢が上がれば解消していくと思うぞ。30にもなれば性欲は女性の方が上というデータもある。閉経が迫ってる分、子孫を残すラストチャンスにかけて相手選びのハードルが著しく下がるんだ』
との事。つばりアルビが茶畑を警戒するのは至極まっとうと後押ししてくれた。
でも今は、相手が茶畑でもまぁ良いかと思う。
アルビ
「……シーエの顔の傷跡、見た?」
ヒデオ
「そんなのついてた?」
アルビ
「いきなりおぶさっておいて気がつかないとかありえる?」
ヒデオ
「いや後ろ姿しか見てないし。昨日は会ってないし。で、シーエちゃんの顔に傷がついてるって本当? 何があったの?」
アルビ
「実はさ……」
アルビは事の経緯を説明する。
ヒデオ
「うわー、それは何とも……大変だったね」
アルビ
「一番大変なのはシーエだよ。ボクの代わりに殴られて傷まで作って」
ヒデオ
「でも精神的に疲れたのはアルビちゃんの方じゃん。シーエちゃんに言われたことで悩むの、解るよ」
アルビ
「んー、それもあるけど、そっちはエムジと話してちょっとすっきりしたんだ。今はただ、シーエの傷が残らないと良いなって」
余計なお世話なのかもしれない。実際シーエは気にしてないんだし。
どうせ茶畑からも似たような返答が来るのだろう。
ヒデオ
「そうだねー。女の子の顔だし、友達として単純に心配だよね。例えシーエちゃんが気にしてなくても」
しかし茶畑の返答はアルビが予想したものでは無かった。というか、アルビが一番欲しいリアクションをしてくれた。
アルビ
「そう! そうなの! ボクは単に心配してるだけなんだけど、なんかシーエと話してるとワケ解んなくなってくるんだ」
ヒデオ
「僕もいまアルビちゃんから話聞いて、正直ワケ解んないよ。同じ状況になって僕だったらどうするって考えても……うーん、結局モヤモヤしそうだ」
アルビ
「だよね!」
ヒデオ
「ちょっと思うんだけど、シーエちゃんが自分の傷を気にしてないのと、アルビちゃんが気にするのは別で考えても良いんじゃないかな?」
アルビ
「どういう事?」
ヒデオ
「僕ならの話ね? 僕だったらシーエちゃんがどう思ってようと関係なく、やっぱり傷跡は消えて欲しいし、シーエちゃんに怪我させちゃった罪悪感は消えない。シーエちゃんの気持ちと僕の気持ちは違うから」
アルビ
「そうか、そうだよね」
ヒデオ
「じゃあ具体的にどう償うべきかとかは全然解らないよ? シーエちゃんは不必要だって言うだろうし。でもそれと、自分の気持ちは別。僕も結局、同じ状況ならアルビちゃんと同じく悩んじゃうと思う。少なくとも傷跡は消えて欲しい」
アルビ
「そうだよね! やっぱりそうだよね!」
ヒデオ
「そりゃそうだよ。っていうかシーエちゃんに限らず、友達が怪我するのもその傷跡が残るのも嫌だよ。それが自分のせいならなおさらだよ」
アルビ
「そっかー。ボクがウジウジ悩んでるのは異常ってワケじゃ無かったんだ」
この悩みを持つのはもしかして自分一人だけなのでは? とアルビはここ2日思い悩んでいた。でもそうでは無いらしい。それだけでかなり救われた。
ヒデオ
「うんうん。正常。でもシーエちゃん風に言うなら、異常か正常か、自体には悩まなくても良いんじゃないかな? アルビちゃんがどう感じたか、が重要なんじゃない?」
アルビ
「何か心が少し軽くなったよ。エムジに相談した時もそうだったけど、人に悩みを聞いてもらうと少しスッキリする。ありがとう、茶畑」
ヒデオ
「どういたしまして。特に解決法は提示出来てないけどね?」
アルビ
「ただ共感してくれるだけでボクは嬉しいんだよ」
ヒデオ
「それなら良かった。シーエちゃんの傷、治るといいね」
アルビ
「ありがと。……茶畑ってなんか思ってたよりも優しいね」
ヒデオ
「ボクをどう思ってたのさ」
アルビ
「性欲モンスター」
ヒデオ
「当たり!」
アルビ
「うーそういう所だぞ……でもその割に今日はそういう話題してこないじゃん」
ヒデオ
「いやいやいや! 凹んでそうな友達を見てそんな話題出来る!? 僕はそこまで無神経じゃないよ?」
アルビ
「あ、そうなんだ。というかボク達友達なんだ?」
ヒデオ
「ひどい! アルビちゃんがどう思ってるか知らないけど、僕は友達だと勝手に思ってるからね?」
アルビ
「ふーん、じゃあ、友達って事で良いよ」
ヒデオ
「わーい! じゃあついでに僕の事もシーエちゃんやエムジくんみたいにヒデオって名前で呼んでよ」
アルビ
「……考えとく」
ヒデオ
「あと元気出てからでいいからその豊満なおっぱいを揉ませて?」
アルビ
「前言撤回! お前は友達じゃない!!」
ヒデオ
「あはは、ダメかー」
ヒデオにつられ、アルビも笑う。気持ちよく笑ったのは2日ぶりだな、なんて思う。たった2日だけど。
エムジとクラスが別になって少し寂しかったが、このクラスも悪くないのかもしれないとアルビは思う。
もちろん軽く話せる女子の友達は沢山いるけど、じっくり話せるのはエムジだったから。たぶん、エムジがシーエにどこか似てるのが原因だろう。……何かムカつくな。
ちなみにヒデオは『傷がついてたらそれはそれで、シーエちゃんエロいよな』とか考えてたけど場の空気的に言わないのだった。




