■08話 背中で目覚める男
火曜日の朝。シーエとアルビがショッピングに行ってから2日経過した。
晴れた通学路をいつものようにシーエが登校していると
ヒデオ
「シィイエちゃぁぁん!!」
シーエ
「どわあああ!? 重っ! 何!?」
何かヒデオが背後から飛びついてきた。そしてそのままおぶさる。
ヒデオ
「えー、シーエちゃんの背中、意外と広くて安定するー」
シーエ
「答えになってないよ!!」
振りほどこうと体をよじらせてみてもヒデオはがっしりとくっついて離さない。セミか? お前はセミか?
仕方ないのでシーエはそのまましばらくおぶさって移動。そしてそこに──
エムジ
「俺も運んでくれ」
なぜかエムジが飛びついてくる。
シーエ
「なんでだ!! 待ってマジで無理、重すぎる!! 膝ガクガクしてるんですけど!?」
エムジ
「そりゃ人間二人がおぶさってるんだ、重いだろう」
シーエ
「そいうい事じゃないよ! なんの為にこんなことをしてるのかと聞いている!!!」
ヒデオ
「シーエちゃんがいたから」
エムジ
「何か面白そうだったから」
シーエ
「何も納得できない!」
というかエムジはまだしも、ヒデオは理由の説明にすらなってない。ただこいつらが"やりたい"と思ったことをやったという事だけは理解出来た。その理由に何の共感も出来ないが……。
しかし共感できない欲望を元に動く対象に困惑させられる、これは最近アルビがシーエに感じていた事に似ているかもしれない。アルビもこんな気持ちだったのだろうか。いや違うな、こんなに足腰はきつくないはずだ。
ヒデオ
「エムジ君が背中に密着してる……。あれ、男の肌も結構温かくて気持ちいいな」
シーエ
「何ウチの背中で目覚めてんだ!!」
エムジ
「体温は男性も女性も特に変わらないからな」
ヒデオ
「つまり僕は男も行ける!?」
エムジ
「その結論になる過程を説明してくれ」
一歩進むのもやっとな重量の中、背中の二人は会話を続ける。このままウチが倒れたらどうするつもりだろうか? あーでもその場合二人が怪我するかもしれん。それは嫌だからウチが歩くしかないのか。いや理不尽じゃね?
シーエは困惑しながらも根性で足を進める。
ヒデオ
「だって温かかったから」
エムジ
「温度だけで言うなら犬でも温かいぞ」
ヒデオ
「つまり僕は犬も――」
シーエ
「ぜーはー……動物姦はオススメしないぞ……その昔サルとセックスした人間が、エイズを持ち込んだと聞いたことがある……」
ヒデオ
「この状態でも会話に参加するシーエちゃん凄いね」
シーエ
「うるせー……! てかお前ら……本当に降りろ……足が……足がもつれて……」
エムジ
「いやそれは正確には違うらしい。エイズに感染したサルを食べた事が由来だとか」
シーエ
「はー、はー……でもエイズウィルスは経口感染はしないだろ、血液感染だろ」
エムジ
「あくまで俺が読んだ文献ではって話だ。実際のところは知らん。ただお前の話が眉唾物だってのはネットに乗ってたな。ネット情報だからあんま当てにはならんが」
ヒデオ
「ともかく、ボクは男性も動物も行けるって事だね! ねぇエムジくん」
エムジ
「すまないが俺はノーサンキューだ」
ヒデオ
「大丈夫エムジ君はそいういうんじゃないって知ってるから。確認しただけ。他を当たってみるよ」
シーエ
「はー……はー……ウチも参加しておいて難だが、人の背中で悠長に会話すんな……!!」
と、シーエが死にそうになりながらなんとか一歩一歩進んでいるとそこにアルビが合流する。
アルビ
「うわぁ」
そしてゴミを見る様な目で見てから一歩引いた。
シーエ
「助けて……アルビ、助けて……」
アルビ
「シーエは生きたいように生きてるんでしょ? ならこれもその一環じゃん?」
シーエ
「ウチが選んだシチュエーションじゃねーよこれは!!」
エムジ
「俺は選んだぞ」
ヒデオ
「僕も」
エムジ
「つまり人の"やりたい"を突き詰めると、その結果だれかが不幸になると」
シーエ
「くぅ……!! その不幸を作り出してる本人が流ちょうに語るな!!」
アルビ
「がんばれー。もうすぐ学校だよー」
エムジ
「俺らは二年だから二階だな」
シーエ
「二階までこれで行くの!?」
校門にいた先生によって流石に引き留められ、二回まではいかずに済んだが……教室にたどり着いたころにはシーエは力尽きていた。
シーエ
「はー、はー、この状態で授業が始まるのか……」
エムジ
「ほら先生来たぞ。立て、起立!」
シーエ
「ぐぅぅぅぅ」
その日の授業はシーエにとって生まれて初めての苦しいものであった。アルビが勉強が嫌だと言っていた気持ちも今なら少し解るかもしれない。
そしてもちろん翌日はとんでもない筋肉痛に見舞われた訳だが……
シーエ
「あ、これはこれで意外と悪くないトレーニング法かもしれない!」
持ち前のM性と合わせて意外とポジティブに受け取るシーエだった。




