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■06話 自己中 -利他的な利己主義-

 季節はまだ気象庁の定義では春。しかし昨今の日本では5月末ともなれば局所的に真夏日になることもしばしば。

 そんなクソ暑い晴れの日の休日に、シーエとアルビは出かけていた。




アルビ

「熱いぃぃ」


シーエ

「はよ建物内に避難しないときついな……」


アルビ

「でも急ぐとより暑くなる地獄」


シーエ

「わかる」




 二人の目的地はショッピングモール。アルビの希望にシーエが付き合う感じである。なんでも新しいスカートが欲しいとかなんとか。

 シーエとしては特に欲しいものも無いがアルビと一緒に出掛ける事それ自体が楽しいのでこの手の誘いには毎回乗る。そんでもって今は暑さのため一刻も早くモールがある建物に避難したい。早急に。


 てな感じで建物まであと一歩という所まで来て、シーエの視線は別の方向を指していた。




シーエ

「……あのおばあさん、荷物重そうだな」


アルビ

「そうだね、ってシーエ!?」




 まだ早い真夏日の日光の下、重そうな荷物を運ぶ老婆を見てシーエは迷わずに近づいた。

 



シーエ

「お荷物お持ちしましょうか?」


老婆

「えェ、そんな。悪いわよ」


シーエ

「体力なら有り余ってますからお気になさらずに。あ、迷惑でしたら立ち去ります」


老婆

「迷惑だなんてそんなこと無いわ。暑いし。嬉しいけど、いいの? 最寄りの駅に向かう予定なんだけど、遠いわよ?」


シーエ

「お任せください。最寄り駅までですね?」


アルビ

「ちょっとシーエ、ボク達その駅からやって来たんじゃない。来た道を戻ることになるよ?」




 アルビは老婆に聞かれない様、小声で話しかける。この暑さの中、来た道を引き返す事になるなど嬉しい事ではない。

 シーエも小声で返答する。




シーエ

「別に今日行くショッピングモールは逃げないだろ? 限定品を買いに行くわけじゃあるまいし、少し寄り道するだけだよ。つか荷物はウチ一人で持てるからアルビは先にモールで涼んでて良いよ?」


アルビ

「……いや良いよ、ボクも一緒に荷物持つよ」


シーエ

「そか」




 アルビは乗り気では無いが、人助けという行為が嫌いなわけでは無い。むしろ善良よりの人間である。暑いのは嫌だが、幼馴染である親友が積極的に人助けしてるのだ。付き合わないと人としての格が落ちる気がする。

 二人は老婆の荷物を持ち、老婆の歩調に合わせてゆっくりと来た駅まで戻った。




老婆

「有難う二人とも。暑かったから助かったわ。若いのに感心ねー」


シーエ

「若いからこそ体力が有り余ってるんですよ。でわおばあさん、お気をつけて」


老婆

「有難うねぇ」




 老婆を見送るシーエは汗だくだったが、その顔は満面の笑み。同じく汗だくだったアルビもこれはこれで悪くないなと思った。




シーエ

「と、言う事でショッピングモールに向かうか」


アルビ

「いやもう何か、帰ろうかな。良い事したし」


シーエ

「スカート欲しくないの? 下半身裸で外出する気?」


アルビ

「どういう思考!? つかスカート履かないとしてもパンツはあるからね!?」


シーエ

「え?」


アルビ

「え!?」




 なんか深く突っ込んではいけない気がしたアルビはもう一度ショッピングモールに向かうのだった。




アルビ

「ついた……」


シーエ

「と、とりあえず一旦涼んで汗が引くのを待ってから周らないか?」


アルビ

「賛成……」




 ここまでの道中、地獄でした。5月でこれなら夏はどうなるんだ?

 それはそれとして、汗が引いた二人はなんやかんやショッピングを楽しんだのだった。




アルビ

「可愛いスカート見つかって良かったー♪ 暑い中来たかいがあったよ。シーエは特に何も買わなかったけど良いの?」


シーエ

「良い感じの露出度の服が無くてなー。ギリギリを責めたい」


アルビ

「公然猥褻罪で捕まっても助けないからね、ボク」


シーエ

「それはそれで良い経験かもな」


アルビ

「シャレにならないからやめて!」


シーエ

「冗談冗談。特に自分の人生にとって不利益になるような事はしないさ。ウチは自分第一主義の自己中な性格だからな」


アルビ

「えー? そうかなー?」




 本日のモールに来る前の出来事を踏まえ、アルビは眉をしかめる。シーエは変な奴ではあるが自己中だと思ったことはこれまでの人生で特に無かった。というか割といつも自分を助けてくれるので、親切なヤツだとも思っている。

 そしてその感想を補強するように、シーエはまた動く。


 二人の前には、恐らく迷子になったであろう幼稚園児くらいの男の子が泣きながら歩いてきた。

 当然の様にシーエは駆け寄る。




シーエ

「どうしたの、僕?」


男の子

「ママー!」


シーエ

「迷子かな? とりあえず迷子センターに連れて行くか」


アルビ

「そうだね。ちょっとどこに迷子センターあるか調べてくるから、シーエはその子あやしてて」


シーエ

「サンキュ」




 と、難なく二人は迷子を迷子センターに届け、預けた。

 またしてもシーエは良い笑顔をしている。




シーエ

「とりあえずこれで安心か」


アルビ

「……」


シーエ

「どうしたアルビ、ウチの事じっと見て」


アルビ

「シーエはさっき、自分の事を自己中って言ってたけど、ホントにそうかな?」


シーエ

「? もちろんそうだぞ。ウチは超ワガママで、利己的で、自己中だ」


アルビ

「そう言う割には人に親切過ぎない? 今日だけで見ず知らずの人を二人も助けたし、助けた後に笑顔になってるじゃん」


シーエ

「そりゃ助けたかったからな。やりたい事が出来てご機嫌だ」


アルビ

「それで自己中って言うのは謙遜しすぎじゃない?」


シーエ

「謙遜? 何で人助けしたらウチの自己中という自己認識が謙遜になるんだ?」




 シーエはマジで良く解らなそうな顔でキョトンとしている。こういう所がホント、変な人感が滲み出してるんだよな。




アルビ

「だって実際には他の人を優先して動いてるじゃん、シーエって。学校でも色んな人の頼み事聞くし、その、ボクは良いとは思わないけどエッチな事だって断らないし。それなのに自己中って言うのは謙遜してる様に聞こえるよ」


シーエ

「なぜ自己中が人助けをしたり人の頼みごとを聞いてはいけないんだ? ウチは自己中だからこそ、そうしてるんだが」


アルビ

「……どゆこと?」




 今度はアルビがキョトン顔になる。




シーエ

「ウチはウチがしたいと思った事をしている。自分の心に正直なだけだ。今日はおばあさんを助けたいと思ったから助けた。子供を迷子センターに届けたいと思ったから助けた。それだけ」


アルビ

「いやそれは自分よりも他人を優先して動いてるでしょ」


シーエ

「いやいや、行動だけ見ればそう映るかもしれないが、ウチはそうしたいからしてるだけなんだよ。ウチは人の笑顔が好きだし、助けになるなら手を貸したいと思う。だからそうするだけ」


アルビ

「だからそれは──」


シーエ

「その後どうなろうと知ったこっちゃないぞ?」


アルビ

「──え」



 アルビは一瞬、シーエが何を言ってるのか良く解らなかった。しかしシーエは続ける。



シーエ

「そりゃ結果的に相手が幸せになったらよりウチも嬉しいけどさ、別に相手のためを思って手を差し伸べてる訳じゃないんだよ。ただそうしたいからやってるだけ。だから見返りを求めないし、余計なお世話だと怒られても別に気にも留めない。ウチがやりたいと思ってやった時点で、欲求は完結してる。その後相手がどう思おうとそれは副産物であってウチには関係ない」


アルビ

「……」


シーエ

「そんな驚いた顔で見るなよ。だから言ったろ? ウチは自己中だって。人を助けるという行動が好きなだけの、好きな事を自分の欲望に従ってこなすだけの存在だよ、ウチは」




 何を言っているのかやっぱり良く解らない。結局人を助けてるんだからそれは自己中ではないのでは? でも『やりたいからやっている』という箇所だけ聞けば自己中な気もするし、何か凄くややこしいな。

 ──アルビが眉間にしわを寄せながら、シーエの言葉を咀嚼しようと苦戦しているさなか、そんなことなど一切お構いなしと言った風体で二人に掛けられる声があった。




男性たち

「ねーねー暇?」


シーエ

「ナンパですか?」




 シーエが素早く反応し、アルビは遅れて気が付く。シーエとアルビが二人で話し込んでいたところに、三人組の男性が話しかけてきたのだ。




男性たち

「そうそう。二人とも可愛いじゃん」


アルビ

「えと、すみません、急いでるんで」




 アルビは彼らから距離を置こうと思った。元々アルビはそんなに男性慣れしていない。学校でまともに話せる男子もオスっぽくないエムジだけ。ヒデオは勝手に話しかけてくるので邪険にしている。

 そんなアルビだから、ナンパ目的で話しかけてきた男性達を不快に思ったのだ。




男性たち

「えーそんな冷たいこと言わないでよ」


アルビ

「本当に用事あるんです」


男性たち

「買い物でしょ?」


アルビ

「え?」


男性たち

「さっきから見えてたよ。モールから出てきたじゃん」




 ……見られていた? 感じていた不快感とは別に、少しのひんやりとしたものをアルビは感じた。




男性たち

「いや別にー、そんな警戒しなくても良いじゃん」

「俺ら悪い人じゃないし、な~?」


アルビ

「……興味ないんで」


男性たち

「なんで?」


アルビ

「なんでって……」


男性たち

「彼氏いるの?」


アルビ

「関係ないですよね」


男性たち

「じゃあいいじゃん」


シーエ

「まぁまぁお兄さんたち、こっちの子は男性苦手なんですよ」




 それまで状況を観察していたシーエが会話に割り込んでくる。男性が苦手なのは事実だが、シーエの発言の意図はアルビには解らない。




男性たち

「へー」

「じゃあ君だけでもいいよ」


シーエ

「そうします?」


アルビ

「ちょっとシーエ! し、しません」




 アルビは遅れてシーエの意図に気が付いた。こいつ、ボクを助けようとしている。なんだよ、やっぱりそうやって進んで人を助けるんじゃないか。

 しかしアルビとしてもシーエに頼りっきりではいられない。というかこの場合頼ったらシーエだけがこの男どもに連れ去られてしまう。シーエはそれを意にも介さないだろうが、性に奔放なシーエの事だ。アルビ的に"良くない"方向に行くのは目に見えている。

 




男性たち

「ていうかさ、さっきからその子が勝手に断ってるだけじゃん。君はどうなの?」


アルビ

「だから断ってるって言ってますよね?」


男性たち

「いや君じゃなくて、そっちの娘に聞いてるんだけど」


アルビ

「いい加減にしてください! 帰ってください」


男性たち

「……」


シーエ

「おいアルビ!」




 シーエは小声でアルビを制するが空気は既に悪い方向に傾いている。




男性たち

「なんか感じ悪くね? 俺ら普通に話しかけただけじゃん」

「なー? そんな言い方しなくてもよくない?」


アルビ

「迷惑だって言ってるんです!」


シーエ

「待て待てアルビ! いや別に迷惑じゃないっすよ。ウチが一緒に遊びますから、ね? 何なら夜のお相手とかも得意ですよ、ウチ」


男性

「は?」

「別に俺らまだ何もしてねーじゃん。何キレてんの?」




 シーエの横やりも空しくスルーされる。男性たちの目的は既に "ナンパ" から "怒りの発散" に切り替わっていた。

 人の感情に共感するのが難しいシーエにとって、このように感情で議題が変わる会話は不得手とするものだ。


 ──さらに悪い事に、アルビまで感情に飲まれている。




アルビ

「そりゃ怒りもしますよ! せっかくの休日、友達と楽しくショッピングしてたのに邪魔なんてされたら」


男性たち

「邪魔だとぉ?」


アルビ

「邪魔です。だからどっか行って下さい!」


シーエ

「アルビやめろ!」


男性たち

「んだと、てめぇ!」




 シーエの制止も空しく、男性の一人がアルビに殴りかかる。シーエはとっさにアルビを庇ったが、位置が悪かった。逆にシーエが殴られて吹っ飛ばされる。

 訪れる一瞬の静寂の後、




男性たち

「あ」

「お前何殴ってんだよ!」

「ちげーよ、あの女がムカついたから……」

「良いから逃げるぞ!」




 男性たちはその場から立ち去った。後には呆然と立ちすくすアルビと、吹っ飛ばされたシーエだけが残る。

 周囲は騒然としていた。




アルビ

「あ……シーエ! シーエ大丈夫!?」


シーエ

「痛てて。ったく。ああいう輩は刺激しちゃいけないんだよ」




 アルビが慌てて駆け寄る。シーエの頬には傷が出来ており、血が流れていた。それを見て青ざめるアルビ。

 しかしシーエはそんなことを一切気にしない様にアルビに声をかける。




シーエ

「ふう、怪我はないか、アルビ」


アルビ

「な、ボクの心配ならいらないよ! シーエがかばってくれたから……。それよりもシーエが怪我してるじゃん! ごめん。ボクのせいで……」


シーエ

「気にすんな。こんな怪我すぐ治るさ。さてさて、そんじゃショッピングの続きでもしますかね」


アルビ

「え!?」




 本日何度、シーエの言葉にキョトンとさせられただろう。何を言っているのか、本当に何を言っているのか、アルビには理解できない。




シーエ

「ありゃ違ったか? じゃあさっきの雑談の続き……ウチが自己中だという説明の続きか? それともあの男性達話通じなくてきついわーっていう愚痴?」


アルビ

「そうじゃないよ! 何言ってるの!? シーエがこんな怪我してるのにそんな呑気な事出来る訳ないじゃない!」


シーエ

「こんな怪我て。かすり傷だよ」




 シーエは頬を指で撫でる。血がぬぐわれ傷口が見えるが……あぁ、結構深く見える。

 鋭利な刃物で出来た傷ではない。こぶしで殴られて肉が裂けたのだ。綺麗に治るだろうか、アルビは気が気ではない。




アルビ

「深く見えるよ! しかも顔に付いた傷だよ!? 痕が残るかもしれない。病院行こうよ!」


シーエ

「深くって、致命傷どころか感染症にもならんだろこんな傷。問題なく生存可能。この程度の傷で病院いっても消毒程度しか処置されんし、傷跡が残らない治療とかもないだろ。つか別に傷跡が残ったとて、なんの問題があるんだ?」


アルビ

「いや顔の傷だよ!? 女の子の顔だよ!?」


シーエ

「女の顔に傷が出来ると何が問題なのか……。うーん、一般的には美貌、つまりモテ度に影響するんだろう。アルビはウチがモテなくなることを心配してる?」


アルビ

「違う! けど……」




 そう言われると何だか解らなくなってくる。最近こういう事が多い。特に二人が高校に入ってから。シーエは幼少期から理屈っぽかったが、どんどんそれが強化され、最近はアルビの思う"普通"が通じなくなってきている。

 



シーエ

「正直この程度の傷を理由にウチを好みから外すヤツは大して面白みのある人間でもないから、特にそいつ等にモテなくても問題はない」


アルビ

「そういう事じゃなくて……」


シーエ

「じゃあどういう事だい? ディスプレイとしての価値が下がる以外に、顔に傷痕が出来て生じるデメリットって何かある?」


アルビ

「えっと……」


シーエ

「ディスプレイとしての価値が下がるのは生物的には問題ありだが、幸い現在ウチが肉体関係を持っている異性たちはこの程度で萎える奴らじゃないし、新規で出会う異性もさっき言った理由から問題ないよ」


アルビ

「でも……」


シーエ

「アルビ的には何が引っかかってるんだ? 傷跡が問題ならないというウチの意見に反論が無い所を見ると、論理的な問題ではない気がするけど」


アルビ

「うん……そういう話じゃないんだよ。ボクのせいで、シーエの顔に傷がついてしまった事が申し訳ないんだ……。シーエは平気だっていうけど、ボクは自分の顔に傷がつくのは嫌だ。だから自分が嫌な事がシーエに起こっちゃって、しかもそれがボクのせいっていうのが申し訳ないんだよ」


シーエ

「うーん、別にアルビのせいじゃないぞ?」


アルビ

「でもシーエはボクを庇って傷ついたじゃん! ボクがあいつらに歯向かわなければこうはならなかった」


シーエ

「あの男性たちに歯向かった結果殴られそうになった、までは因果関係がある。が、ウチがアルビを庇ったのはウチの自由意思だ。ウチが守りたいと勝手に思ったから勝手に守った。アルビが気に病む必要は無い」


アルビ

「そんな……!」


シーエ

「言ったろ? ウチは自己中だって。今回の行動もそれだよ。ウチはアルビが好きだ。だから守りたかった。それだけ」


アルビ

「そんなの、方便じゃん……!」


シーエ

「真実なんだがなぁ。うーん、じゃあアルビはどうしたいんだ?」


アルビ

「……どうって?」


シーエ

「アルビがつらい気持ちになってるってのは解った。どうやったらそれが解決する?」


アルビ

「なんか、なんでもいいから償いをさせて欲しい……」


シーエ

「償い、ねぇ。そう思っているなら、なおさらウチと楽しくショッピングを続けてくれ。ウチは悲しい顔をしているアルビより、笑っているアルビの方が好きだ」


アルビ

「いや、そんなの無理だよ……」


シーエ

「何で無理なんだ? 償いたいと思ってるなら、ウチの要求を呑むべきだ。償いたい対象が本当に望んでいる事をするのが、一番手っ取り早い償いだろ?」


アルビ

「え……」


シーエ

「あぁでも、謝り続けたいならそれはそれでかまわないよ。ウチの要求を無視して、アルビが自己憐憫にひたりたいと言うのなら、アルビの意思を尊重する。アルビはアルビの人生を歩むべきだ。ウチの要求よりも、自分の感情を優先して良い。どちらの選択でも、ウチは受け入れるよ」




 アルビは絶句するしかなかった。なんだ、これは? シーエの言葉に理解が、感情が追い付かない。これではまるで、自分がシーエの気持ちを無視して勝手に悲しんでいる様じゃないか。

 いやもしかして、実際そうなのだろうか。自分の"申し訳ない"という気持ちとそれから来る一緒に楽しむことが出来ないという精神状態は、とても自分勝手でシーエの気持ちを無視した行動なのだろうか。




シーエ

「ウチは自分の事を自己中だと認識してる。だからこそ、ウチ以外の人間も皆自己中で良いとも思ってるんだ。だからアルビの好きにして良いんだよ。償いたいならウチの要求を飲むべき。償いよりも罪悪感による自己憐憫に浸りたい気分ならそれにも付き合おう。ウチはアルビが好きだから、アルビの望む行動に付き合いたい」


アルビ

「そんな、そんな言い方……! ボクは別にシーエの気持ちをないがしろにしたいと思ってるワケじゃ……!」


シーエ

「別にないがしろにされてるとも思わんよ? マジでどっちでも良い。ウチはアルビが好きだから、"アルビの選択に従う"という選択をしたいだけだ。そして選択肢は2つある。それだけ」


アルビ

「そんな事言われたら……」




 こんな状況で選べる選択肢など1つしかない。




アルビ

「解った。……一緒にショッピングしに戻ろうか」


シーエ

「うむ。やっぱりアルビには笑顔が似合うね。さて警備員が来る前に行こうぜ。せっかくの休日を事情聴取にとられるのはもったいないしな」

 



 アルビの笑顔はとてもぎこちない。しかしそのぎこちなさはシーエには届かない。シーエはただ"アルビは前者を選択した"としか思ってないのだ。

 この日の残り時間、アルビは全然楽しめないショッピングを続けるしかなった。




   * * *




アルビ

「って事がきのうあってさ」


エムジ

「それはきっついな。大丈夫か、アルビ」




 翌日の月曜、休み時間にエムジをみつけてアルビは愚痴をこぼす。

 エムジも大概変な人間であるが、先日のあらましをきいたらアルビを心配する程度には"普通"の感性を持っている様だ。




アルビ

「ボクは大丈夫。シーエが全部正しいのは解ってるんだ。でも心のモヤモヤがね、晴れないんだよ」


エムジ

「あいつはそういうところがあるからなー。超合理的、ロボットみたいなやつだ。まぁ俺も人の事は言えねぇが、シーエよりはマシだな。あいつが自分の口で言った通り、あいつは自分の事しか見てない。自分の行動で他人がどういう感情になるか、考えてないんだ。いや意図的に考えてないという訳じゃねーな。本質的に理解できないんだろう」


アルビ

「ボクは、シーエにとって何なのかな? ボクは友達だと思ってるけど……」


エムジ

「友達だと思うぞ? しかもかなり重要な。それこそアルビに何かあったらシーエは冗談じゃなく命をかけて守ろうとするだろう。じゃなきゃ殴られそうになるのを助けたりしない」


アルビ

「そう、だよね」


エムジ

「あいつはそういう人間ってだけだ。アルビのモヤモヤをシーエが理解できない様に、シーエが見てる世界をアルビは理解できないだろ? 人間は本質的には他者を理解できないんだ。世界は自分という窓からしか観測出来ない。それでも、他者に心を開き、歩み寄り、共に過ごそうとする。そんな生き物だ」


アルビ

「歩み寄る……」


エムジ

「あいつがアルビに本心を包み隠さず話すのは、アイツなりの歩み寄りだと思うぞ。シーエは超合理的な人間だ。自分に不利益になることは好んでやらない。それなのに自分の本心をアルビにすべて伝えたんだ。それはあいつにとって若干リスキーな行動のはずなのに」


アルビ

「たしかに、そうかもね」


エムジ

「それだけアルビを信頼して、好いてるって事だろ。選択肢を提示したのだって本気でアルビの好きな様にしてほしかったんだと思うぜ? まぁ普通の人間はそんな選択肢を用意されたらシーエの要求を飲む一択になるわけだが、そこへの考慮はたぶん無いんだろうな。マジでアルビがそのままウジウジしてても黙って見守ってたと思うぞ。シーエが言った通り"アルビの選択通りにする"とシーエが決めたワケだしな。そこに不満など1ミリも無いだろうさ」


アルビ

「……そっか。シーエなりの優しさって事なのかな」


エムジ

「たぶんな。俺はシーエじゃ無いから確実な事は言えないが、俺はそう思うよ。で、それを受けてアルビがどうしたいかが重要だ」


アルビ

「ボクが?」


エムジ

「今回の一件でアルビは少なからず傷ついたわけだ。シーエと付き合っていくなら今後似たようなケースは多々起きるだろう。それでも、友達でいたいのか? それもと一旦距離を置きたいか?」


アルビ

「うー、エムジもそんな二択を出すー!」


エムジ

「あー、こりゃタイミングが悪かったな。すまん。今すぐ答えを出す必要は無いと思う。ただつらいなら距離を置くことだって悪い事じゃない。なんとなく疎遠になっていく友人はいるもんだろ? シーエだって、アルビがその選択をした所で責めはしないさ」


アルビ

「いや距離を置きたいとかは全然思ってないよ! むしろ昨日は助けてくれて感謝もしてるし……。ただモヤモヤした気持ちを誰かに共有したかっただけなんだ。ごめんね、愚痴に付き合わせちゃって」


エムジ

「なんだそうだったのか。俺もシーエと似たところがあるからついつい解決策を提示しがちだな……。愚痴なら遠慮せず言え。いつでも付き合ってやる」


アルビ

「……ありがと」




 エムジに相談して良かったなとアルビは思う。ただ何となくモヤモヤを共有したかっただけだが、思いの他モヤモヤをすっきりと整理してくれた。




エムジ

「ただその場合、先に"今回は愚痴を言うだけだから解決策は求めてない"って先に言ってくれると対応が楽で助かるな」


アルビ

「うー! ボクの中で会話って、なんかそういうのじゃ無いんだよなー!」


エムジ

「難しいなぁ」

この話が書きたくてこのシリーズを始めました。


なお本作のシーエをChatGPTに性格診断してもらったら

「知的サイコパス傾向を持つ、自己認識の高い反社会性パーソナリティ」

だそうです。

つまりヤベーやつです。

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