■05話 勉強って
アルビ
「あー、テストなんかなくなればいいのに」
学食は昼休みの喧騒に満ち、トレイを運ぶ音と話し声が響いていた。そんな中、アルビはカレーを食べながら愚痴る。
普段は弁当派なアルビだが、本日はシーエがエムジと共に学食に行くと聞いたのでついてきたのだった。
三人の話題はもうすぐ行われる中間テストへと移行し、アルビが先ほどの愚痴をこぼすに至る。
シーエ
「何で?」
アルビ
「もう勉強したくないー」
シーエ
「受験までして入ったのに?」
アルビ
「うー、あの時は必死だったから……。ボクは基本的に勉強が嫌いなんだよー」
アルビ達が通う学校は私立。わざわざ受験をしないと入れない学校だ。
シーエは中学生の序盤から生物学に目覚め、理数系が強い学校を志望してこの学校を受けた。アルビはシーエと共に居たくてそれに続いた形である。
シーエは念願叶った学校での授業に満足しているようだが、アルビは来るべきでは無かったかもという後悔の念がぬぐえない。
エムジ
「勉強は楽しいだろ」
シーエ
「わかる。知識が増えていくっていうのは、判断材料が多くなるって事だ。得しかない」
アルビ
「二人で分かり合わないでよー! これだから成績上位組は……」
そしてこの目の前の二人である。楽しそうだからと学食についてきたものの、アルビの意見は少数派にされてしまった。
エムジ
「何で勉強が嫌いなんだ?」
アルビ
「むしろ二人が好きな理由を聞きたいよ……」
シーエ
「さっきも言ったけど、判断材料が多くなるからかな。つまり人生が豊かになる。あと単純に知ることは楽しい。知識だけじゃなく、新しい考え方まで学校では学べる」
エムジ
「俺はモヤモヤが晴れるからかな。納得できることが増えていって、視界がクリアになる感覚が好きだ。この世界がどのように回ってるのか、いろんなアプローチから知れる。科学物理では法則を、歴史ではこれまでの成り立ちを、公民では国のシステムを。これは楽しいだろ」
シーエ
「わかる」
アルビ
「んー! 言ってることはわかるんだけど、ボクにはそこまで楽しむ余裕が無いんだよ。覚えることが多すぎて、テストで赤点を取らないことに必死なんだ」
アルビのこの意見に対し、シーエは怪訝な表情である。
そして怪訝な表情をしているという事は理解できない感情をアルビが有しているという事であり、それはとても興味深い事だ。
シーエとアルビはかなり性格も趣味趣向も違うが、互いに惹かれ合う所が多いためこの年まで自然な交流を続けられている。
シーエ
「テストは……ただのゲームだろ」
アルビ
「ゲーム?」
シーエ
「どれだ内容覚えてるか確認ゲームみたいな。クイズ番組的な?」
エムジ
「俺は知識の定着に有用だと思ってむしろ重宝してるな。授業で一度聞くだけじゃ定着しにくい知識を、テスト勉強をすることで自分のものにする感覚」
アルビ
「なんか、二人の次元が違いすぎて自分が小さく見えるよ……」
シーエ
「悩みに共感して欲しいだけなら、ヒデオとかに相談したら良い感じの回答が得られると思うよ」
アルビ
「やだよあいつスケベだし」
シーエは共感が苦手である。アルビの苦悩を真に理解することは出来ないだろうと、シーエ自身も感じていた。
ので、共感担当はそれが得意なヤツに押し付けるのが効率的なのだが、アルビからはブーイングが来てしまう。
それならばお悩み解決案提示かな?
シーエ
「そこがいいのに……。まぁヒデオのことは置いておいて、アルビの悩みは 勉強が嫌 な訳だ。なら解決法は遠ざける、倒す、友達になる、のどれかだな」
アルビ
「どゆこと?」
シーエ
「まず遠ざける。これは逃げるとも言い換えられるな。勉強をやらなくする。勿論それにより進級は出来なくなるしその内退学になる。アルビの思い描く将来は来ないが、人間そう簡単には死なないし国が生かしてくれる制度もあるからこの選択肢を取っても生きていくことは出来る」
アルビ
「いやそれはやだよ!!」
シーエ
「結果を受け入れられるなら、という提案だよ」
まぁ当然の反応だよな。
シーエ
「次は倒す。嫌でも無理やりやって克服する、もしくは国と戦って勉強しなくても良い世界を作る。まぁ後者は現実的ではないがな」
アルビ
「それは無理すぎるだろ! それに無理やりやるのが嫌だから勉強やだーって嘆いてるんだよボクは!」
これもまぁ、そうだろうね。
シーエ
「なら友達になるしかないな。つまり、勉強を好きになる。いきなりは無理でも、少しづつならできるはずだ」
アルビ
「いや、嫌いなものを好きにはなれないよ……」
シーエ
「ほんとか? 小さい頃、苦手だった食べ物を食べられるようになった経験とか、アルビには無いか?」
アルビ
「……あるけど」
シーエ
「なら可能性は開かれている。ここには丁度、勉強を好きな奴が二人いるんだ。各科目の魅力を二人から聞いてみてもいいんじゃないか?」
エムジ
「いくらでも聞いてくれ。好きなものを話すってのは楽しいしな」
シーエ
「わかる」
エムジ
「あとは必要性を理解するってのも良いんじゃねーか?」
アルビ
「必要性?」
エムジも解決案を提示する様だ。
エムジ
「何故、国は勉強を義務化しているか。何故、学校にはテストがあるのか。厳密には高校は義務教育じゃねーが、今の日本ではほぼ皆通う機関だからな。義務みたいなもんだ。これらの必要性が理解できれば、好きにはなれずとも納得は出来るだろ」
アルビ
「必要性……考えたこともなかったよ。何でこんなつまらない事やらなきゃいけないのってずっと不満しかなかった」
エムジ
「その"何で"を不満ではなく疑問へと変えられれば、少しはスッキリするんじゃないか?」
シーエ
「最初の頃に話してたウチらが勉強を好きな理由だけど、ウチの理由が今エムジが言った必要性の部分に近いかな。得しかないって感想。エムジが言ってたモヤモヤが晴れるってのは必要性よりも好きな理由って感じだ」
アルビ
「なるほどー。んー……」
エムジ
「まだ納得してない感じだな」
アルビ
「だって嫌いなものは嫌いなんだもん。理屈はわかるんだけど、心が追いつかないよ……」
アルビはふてくされている。アルビとしては『勉強嫌いー』『わかるー』くらいの会話を期待していたのだが、この二人にその方向の返答を期待するのはそもそも間違いだった様だ。
別に解決策とか求めてないんだけどなー。あーでも本当に好きになれたらそれはそれでつらくは無くなるのかな。いやーでもこの二人みたいにはなれないよなー。
エムジ
「なんかボーっとしてるな」
アルビ
「あぁごめんごめん!」
シーエ
「ともかく、これからゆっくりウチらが楽しさと必要性をプレゼンしてくから、それ聞いてから考えても良いんじゃん? 急いで結論出す必要はないでしょ」
エムジ
「あとは俺らが勉強を好きになったきっかけなんかも参考になるかもな」
アルビ
「それは確かに気になるかも。どんなきっかけだったの?」
シーエ/エムジ
「「性行為を理解したくて」」
アルビ
「聞くんじゃなかった!」




