■04話 生の意味
アルビ
「はぁー」
シーエ
「どうしたアルビ、ため息何かついて」
夕陽が沈みかけた道を歩きながら、アルビが大きなため息を吐く。
本日は下校時間が重なったため、2人一緒に帰っていた。
2人は幼馴染なので当然家も近く、最寄り駅も同じ。中学まではほぼ毎日一緒に登下校していたが、最近はシーエが色んな男子をとっかえひっかえしてるせいで帰りの時間が合わない事が多い。
アルビ
「いやね、人ってなんの為に生きてるんだろうと思って」
シーエ
「どうした中二病発症したか?」
アルビ
「違うよ! でもボク達は毎日毎日学校に来て勉強させられて、しかも学校卒業しても大学で同じことして、社会人になったら毎日仕事する日々が続くんでしょ? それに意味があるのかって暗い気持ちになっちゃうんだよ。ボクは勉強好きじゃないし」
シーエ
「それはアルビが恵まれてるからだと思うが……。毎日まともに学校にいけない人は渇望するような理想の生活を送ってるぞ、アルビは」
アルビ
「う、それはそうだけど……」
"人って"という主語もだいぶ大きいなとシーエは思う。この場合の主語は"ボクって"だろう。全ての人がアルビの言うように高校、大学、社会人になるわけでは無いし、先ほども言ったようにこの"普通"の日常を送れない人は山ほどいる。
ただそれを逐一突っ込んでも話の本筋が変わるため、シーエはこれ以上その方向へ踏み込むのはやめた。
シーエ
「とはいえまぁ、悩みは人それぞれ。"自分よりつらい境遇の人を見て満足しろ"なんてなんの解決にもならんわな。という事でアルビの疑問に答えるとするなら……人間に、人生に、生に意味なんて無いよ。というか生じゃなくても世界に意味なんて無い」
アルビ
「えー!! そこは意味があるよってポジティブに励ますところでしょ!」
シーエ
「だって実際無いし……。でも理由はあるよ。アルビが生きてる理由」
アルビ
「え、なになに、聞かせて!」
シーエ
「アルビの両親がセックスしたから」
アルビ
「やめろ! 全然嬉しくないよその情報!!」
アルビは何か拒絶反応を示しているが、シーエはお構いなしに続ける。
シーエ
「さらに遡ると、進化の過程でホモサピエンスが生まれたから。もっと遡ると、原初の地球で生命が生まれたから。生命が生まれた理由は生物の授業で習ったよな? 偶然だ。つまりアルビがここにいるのは偶然の産物であり、それが理由。そこに意味は無い」
アルビ
「……いや、何かシーエと話をする前よりさらに落ち込むんだけどその話」
シーエ
「なんでだ?」
心底解らないといった感じのシーエに対し、アルビはある意味愕然とする。なんでこの目の前の幼馴染は誰がどう聞いてもより落ち込むような話を自信満々に自分に聞かせるのか。
アルビ
「だってそれじゃあボクは居ても居なくてもいいじゃないか。そんな偶然の産物なら。空しいよ」
シーエ
「そんな寂しい事言うなよ! ウチはアルビが好きなんだぞ!?」
アルビ
「えぇ!? この流れでそんな熱くなれる?」
シーエ
「そもそも空しいってなんだよ。めっちゃ熱いじゃん、偶然の産物。ここに至るまでの偶然の連鎖が、一つでも狂ったらウチもアルビも存在してなくて、今こうして話も出来ないんだよ? 幼馴染として、友達として出会う事が出来なかったんだぞ。この偶然は奇跡だろ」
アルビ
「な、なるほど?」
突然の熱意全開のトークにアルビは気圧される。それにシーエの言う事にも一理ある気がした。
シーエはそのまま熱意全開でまくしたてる。
シーエ
「生命は偶然生まれた。そしてその産まれた生命の中に細胞分裂する個体がたまたまたいたおかげで、生命は増えた」
「後に多細胞生物へと進化をする過程で雌雄が生まれ、交尾が生まれた。そして愛や性欲が強い個体の方がより円滑に交尾を行ったのでその感情が残った」
「人の様な集団行動する生き物では、友愛の感情を持つ個体の方がより自然と群れを形成出来たのでその感情が残った」
「この連鎖が無ければ、ウチはアルビを好きになってないんだよ。この偶然は奇跡だよ。そこに意味は無くとも、素晴らしい理由はあるんだ」
アルビ
「なんか、そう言われるとちょっとロマンチックに感じるかも」
奇跡。この単語には生物の事がそんなに解らないアルビでも、ときめく物を感じざるを得ない。だって何か、素敵だし。
シーエ
「だろ? だからアルビは生きる意味に関して考える必要は無い。今生きてるだけでそれは奇跡の連続だ。今後の人生に不安を覚えるのは良いが、そこに意味を見出そうとすると混乱するぞ。考えるべき悩みが2つに増えるからな。そして意味の方は絶対に答えが出ない」
アルビ
「確かに。ちょっとこんがらがってたかも」
シーエ
「最初の問いに立ち返るが、人が生きている意味は無い。ただし人は、全ての生物は生きてるだけで素晴らしいし、ここに連なる連鎖は奇跡である。これでどうだ?」
アルビ
「なんかちょっと、心がすっとしたよ」
シーエ
「今後の人生に不安を感じるなら、それこそ人生の先輩である先生や両親に相談してみればいいんじゃないか?」
アルビ
「……うん。そうする!」
シーエ
「ついでに両親には、どうやって愛し合ったのか聞いておけ。偶然の奇跡が生んだ愛と言う感情でまぐわった二人だ」
アルビ
「それは嫌!」
結局、シーエが最も神秘性と──気持ち悪さを感じている交尾という行動には終ぞ肯定的な反応を示してもらえないのだった。




