■03話 性欲の必要性
シーエ
「え、うそでしょ!?」
1人で下校中、思わず大声でリアクションをしてしまった。だってなんか、とんでもない景色を目の当たりにしたから。
シーエは生物関連の本を読むのが好きで、ちょくちょく下校中に本屋に立ち寄る。そこでなんと──
シーエ
「エムジがエロ本選んでるー!!!」
エムジがエロ本を選んでる姿を発見した。
いや制服姿でそれはまずくないか? シーエが言うのも難ではあるが、堂々と他者から見られる18禁コーナーに学生服の男子がいるのは何か注意されたりしないのだろうか。
でも今はそんな事よりもこのシチュエーションへの言及が先である。
シーエ
「え、性に興味出た? どんなのが気になる? ジャンルが解ればオススメの作品教えられるよ!」
エムジ
「キモ」
シーエ
「今回に関しては本屋でエロ本漁ってるエムジの方がキモくね!?」
エムジ
「お前よりはマシだ」
うっそだろこいつ!? この状況下で後ろめたさも恥じらいもみじんもなく、自分を非難するとは。
シーエも大概大胆な性格だが、エムジのこの豪胆さには敵わないと感じた。
シーエ
「そこで一切引き下がらないのが最高にエムジだな。んで何でエロ本選んでるの?」
エムジ
「いや、興味が湧くかなと思ってさ」
エムジの瞳にはどこか悲し気な影が落ちている。
シーエ
「……もしかして、性に興味が沸かないことを引け目に感じてるのか?」
エムジ
「まぁ、そんなとこかな」
エムジと友人になってからはや1ヵ月。シーエはエムジが時折見せる何とも言えない表情を度々目撃していた。
それは特に、ヒデオと性的猥談をしている時に多く観測されたのだが……今まではキモイと思われてるだけかと思ってたし、そのキモさに酔いしれもしていたが、どうもそれだけでは無いらしい。
なのでシーエは少し踏み込んだ話題を切り出した。
シーエ
「エムジ、性欲ってなんのためにあると思う?」
エムジ
「子孫繁栄だろ?」
シーエ
「そう。エロい気持ちになった結果、人々はセックスをして結果的に子供ができる。でも今の日本、つか世界中で子供を作ってない大人はどれくらいいるよ?」
エムジ
「まぁ、それなりに」
シーエ
「彼らが社会的に恥ずべき存在となってるか?」
エムジ
「いや、そうはなってないな」
シーエ
「だろ? そもそも人は、第三者の目なんか気にしないで生きて良いってのがウチの持論だけと、目を気にしたとしても子供がいない事に何の後ろめたさも感じなくて良いんだ。つまり、性欲は無くても問題ない。子孫繁栄をしなくても良いんだから」
エムジ
「でも世間は、少なくとも俺の周りの男子はエロい話で盛り上がってる。ヒデオなんかを筆頭にな」
シーエ
「あれはちょっと異常なレベルだから比較対象にしなくても良いと思うが……。つまり、話題に乗れないのがつらいって事か?」
エムジ
「話題に乗りたいワケじゃねぇさ……ただ、周りが当然みたいに話してるから、俺だけ取り残されてる気がして寂しいんだよ。何かが足りないって気持ちがぬぐえない。何で俺は、雄になれないんだ?」
オスになれない……。この言葉の響きを、シーエは今までの人生で味わったことが無かった。だってこれまで自分と対峙してきた男子は、皆オスだったから。
シーエは明確に、"エムジを元気づけたい"と思った。その方法は会話しながら模索するしかないが……。ともあれ、シーエはやりたいと思ったことは絶対にやる。
シーエ
「その何でに対して生物学的な返答は出来るが……お前は既にそれを知ってるだろ」
エムジ
「そうだな。弱肉強食じゃない今の人間社会では、本来野生化では生存や子孫繁栄に不都合な個体も産まれるし育つ。それが俺ってだけだ。ただ頭での理解と、心の納得は違うんだよ。皆の、つか周りの男子たちの普通に共感出来ないことが寂しいんだ」
シーエ
「完全なる解決策では無いが……少なくともウチはエムジの悩みにある程度共感は出来るぞ。ウチの行動も一般的な女子とはかけ離れてるし、そのせいでまともの女子の友人はアルビくらいだ。何ならエムジより悲惨かもしれんな。避けられてる節がある」
エムジ
「まー確かにお前の行動見りゃ皆避けるわな」
シーエ
「自分の悩みはセンチメンタルに語るくせにウチの事はバッサリ切るなぁおい」
エムジ
「だってお前はそのことで悩んでないだろ?」
痛い所を突かれる。そうなのだ、シーエはエムジと違い、特にこの状況に困っていない。故に先ほど言った『ある程度共感できる』というのもエムジを元気づけたいと思って出た方便。
そもそもシーエは他者を共感で理解することを不得手としている。世界は自分という窓からしか観測出来ない。だから本質的に他者の内面を理解することは出来ない。故にいつも理論に頼るのだ。
シーエ
「……お前はエスパーか何かなのか? 初対面の時からウチの内面を読みすぎだ」
エムジ
「考えてることが態度に出すぎてるだけだ。俺も別にお前の内面をわざわざ知りたいと思ってるワケじゃねぇ。お前が勝手に内面を飛ばして来るんだ」
シーエ
「そこは『俺ら相性が良いみたいだな』とか友達として良い事言うシーンだろうが! はぁ、まったく」
エムジ
「はは」
お、冗談に反応して笑ってくれたぞ? これは良い反応を引き出せたのではないだろうか。
シーエ
「で、どうだい? 少しは心の寂しさは晴れたかい?」
エムジ
「まぁな。悩みを打ち明けて、馬鹿な話を出来るだけでも良いもんだ」
シーエ
「皆が"当たり前"の前提をベースに会話してるところに、わざわざ『俺その気持ち解らねぇ』なんて入っていっても会話の熱が冷めるだけだもんな。ウチで良ければいつでも話し相手にはなるよ。あとヒデオも意外とこの手の話は好みだと思うぞ」
エムジ
「ほう、あんな性欲お化けが」
シーエ
「だからこそ、性欲が無いヤツには興味を示すだろう。あいつ、好奇心の塊みたいな人間だよ」
エムジ
「じゃあ今度話してみるかな」
シーエ
「そうしろそうしろ。あとは保健体育の先生のバニ様かな、先生って感じじゃないくらい、情熱的に相談にのってくれるぞ?」
エムジ
「シーエが何か相談をしたのか? 珍しい事もあるもんだ」
シーエ
「いや、ウチは悩み相談ではなく単に意見交換してただけなんだけど、話面白いよあの先生」
エムジ
「じゃあ今度、バニ様とも話してみるか」
先ほどから話題に出てるバニ様とは当たり前だが愛称である。そう呼べと本人が生徒に言ってきたのでそう呼ばれている。変な先生だよホントに。
シーエ
「とりあえずまとめると、寂しさはウチら友人が埋める。論理的には性欲が無い人間がいてもこの社会では何も問題ない。つまりお前は自分の性欲の有無で悩む必要は無いし無理に興味を抱こうとエロ本を漁る必要もない」
よしよし、この締めならいい感じに元気づけられたろう。
と、シーエが考えていると
エムジ
「そう言うなら定期的に裸を見せに来るのをやめろ。割とマジでキモイ」
シーエ
「それはウチがしたいからしてる。止めない」
エムジ
「一回死ね」
シーエ
「えー?」
流れ弾が返ってきた。今後マジで露出NGを食らってしまうかもしれない。
エムジ
「えーじゃない」
シーエ
「えー?」




