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■16話 学食にて

 バニ様の授業が終わり、昼休みになる。ミカドとササキは今日も揃って学食へ向かい、さっさと教室を出て行った。

 そのおかげで、シーエの後ろの席はぽっかりと空く。アルビは「よいしょ」とそこへ腰を下ろした。最近ではすっかり定位置だ。

 思えば、シーエとあまり親しくなれなかった理由の一つは、昼休みの行動が違っていたからなのかもしれない。


 ちなみにエムジはというと――今日も購買で総菜パンを買い損ねている。結局あきらめて、エムジも学食に向かうのだった。

 そして、対面で一緒に食事をしているミカドとササキを目撃する。二人ともラーメンをすすっている。




エムジ

「隣いいか?」


ミカド

「もちろん、良いぞ」



 エムジは学食で購入したミートスパゲッティをテーブルに置き、ササキの隣に腰かけた。

 ミカドは心なしか嬉しそうにしている。なぜだろう?




エムジ

「ミカドど大村は一緒にメシ食ってるのか」


ササキ

「私の事もササキ呼びで良いですよ」


ミカド

「ワラワはこの喋り方故、友人が出来なんだ……。ササキ殿は2年になって初めて挨拶した際に笑わないでいてくれての」


エムジ

「済まねぇ。俺もさっき真顔になっちまった」


ミカド

「謝るでない。それが普通じゃ」


ササキ

「私は初対面の時から、この喋り方を可愛らしいと感じていましたので」


ミカド

「さっきから何なのじゃお主は……今までそんなそぶり一度も見せたことが無かろうに」




 ミカドはバツが悪そうにしている。

 そしてエムジは気が付く。今ミカドはササキと一対一で食事をとっている。1年の時に仲の良い友達が出来てるなら、アルビの様にその友達の元へ向かえば良い。それが無いという事は……彼女はササキに出会うまでの1年間、ボッチだったという事だ。

 エムジの気づきをよそに、ミカドとササキは話の続きをしている。




ササキ

「そういう話題になりませんでしたからね?」


ミカド

「はぁ~。してエムジ殿、お主に聞きたいのじゃが……シーエ殿は本当に多くの男と寝ておるのか?」


エムジ

「やたらそれを聞きたがるな。なんでだ?」




 エムジは先ほどのディスカッションを思い浮かべる。ミカドからシーエへの質問。ほぼ喋ったことの無い人間に対するブッコミ方では無かった。シーエがあんな性格だから問題なかったが、そうでないなら険悪な空気になってても不思議はない。




ミカド

「興味本位じゃよ。シーエ殿も噂のせいでクラスから浮いておる。ワラワも浮いているのでな。もし噂が根も葉もない事ならば否定して欲しかったんじゃ」


ササキ

「あわよくば友達になりたかったのですね」


ミカド

「……その通りじゃ。しかしあの態度では、噂は真実だったのかの」




 否定して欲しい聞き方では無かったとエムジは思う。ミカドという女子、口調のせいで友人が出来ないと言っていたが、友人が少ないが故に対人経験がさほど無く、距離感の詰め方がおかしいのかもしれない。

 根は悪いヤツではないというのはヒシヒシと感じるのだが……。

 それはそうと、エムジは噂の内容が気にかかった。




エムジ

「どんな噂がたってるんだ?」


ミカド

「誰とでも寝る淫乱の女子がいると。その主がシーエ殿であると」


エムジ

「ふーむ、その噂は結構間違ってるな。そのままシーエにぶつけてみろ。違うって訂正してくるぞ」


ミカド

「そうなのか? じゃあシーエ殿は潔白なのか!?」




 ミカドの表情がパァっと明るくなる。




エムジ

「いやシーエはもっとこう──おぞましい何かだ」


ミカド

「その噂よりもおぞましいのか!?」




 そして驚愕により青くなる。

 面白い生き物だなとエムジは思った。




エムジ

「まぁ何であれ、シーエと友達になること自体は容易だと思うぞ。あいつは人を嫌うタイプじゃ無ぇしな」


ミカド

「友達に……なれるかも……」




 グギギギ、とミカドの中で何かが葛藤している。まぁシーエが理解を超えた何かなのは事実だから、その葛藤は正しい。でもそれはシーエ本人から話を聞いた後にした方が良いだろう。




エムジ

「まぁ、シーエは変な奴だが、悪い奴じゃねぇよ」

「あとミカド。ほぼ初対面で言うのも難だが、お前もちょっと距離の詰め方がおかしい。だから警戒されただけだと思うぞ?」


ミカド

「う……ワラワは、その辺に自信があまり無くての……」


エムジ

「そんなに友達が欲しいなら、少なくとも俺は、今後一緒に飯食うくらいは出来るぞ?」




 ミカドの顔がパアっと明るくなる。そこまで友達に飢えていたのか。

 エムジは今日みたいに購買の事情で学食に来ることはそこそこある。その際にこの二人と会話するのも悪くない。



エムジ

「シーエ達は弁当派だから昼休みは被らないが、さっさと教室に帰ったり、他の休み時間には気軽に話しかけてみろ。あいつはミカドを受け入れるだろう。ただミカドがシーエをどう思うかは話してみないと解らねぇな。シーエはだいぶ特殊なヤツだ」


ササキ

「エムジ君は知ってるのですね。噂の真相、シーエさんの真実を」


エムジ

「いや正直アイツへの俺の理解度は50%くらいだと思う。理解不能の塊だよ」


ミカド

「それなのに仲が良いのじゃな?」




 エムジは露骨に嫌そうな顔をする。




ミカド

「そんな顔せんでも……ワラワは仲の良い同級生がササキ殿しかおらんのだぞ……」


ササキ

「光栄です」


エムジ

「いや俺も入れろよ、その中に」


ミカド

「なんと!! 良いのじゃな!? 友達と認識して良いのじゃな!?」


エムジ

「いやさっき飯食うくらいは出来るって言ったじゃねぇか……」


ミカド

「それが友達かどうかは解らんのじゃ! うぅ……ワラワ、生まれて初めて昼休みが楽しみになったかもしれぬ」


ササキ

「それはさておき、シーエさんが面白い人なのは確かな様ですね。興味が出てきました」


ミカド

「さておき!?」


エムジ

「そりゃシーエも喜ぶだろうが……。一つ質問だササキ、お前はシーエに欲情するか?」


ササキ

「いえ全く」


エムジ

「なら会話の最初にそれを伝えた方が良い。伝えておかないとややこしい事になる」




 エムジはシーエと初めて会話を交わした日を思い出す。いきなり服を脱ぎ始めて気持ち悪い事この上なかった。

 シーエに欲情してるなら良いのだろうが、そうじゃないならトラブルの種になるのは間違い無い。




ミカド

「どういう事じゃ?」


エムジ

「俺の口から説明するのは人間としてマナー違反な気がするんで、シーエに直接聞いてくれ。さっきははぐらかしてたが、あのディスカッションを経てシーエもお前たちに興味が湧いたろう。ペラペラ自分で話すと思うぞ」




 実際、学食を早めに食べ終わり教室に帰った後は、シーエはペラペラと事情を説明しだした。生物の気持ち悪さが大好きで、それを実感するために交尾をしていると。

 ミカドとササキが愕然としたのは言うまでもない。

 エムジとアルビは在りし日の自分を見ている様だと感慨にふけった。


 なお驚愕はしたものの、シーエが悪い人間では無いと解ったミカドは、その後シーエとしっかり友人になれたのだった。

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