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■15話 バニ様の恋愛講座【真面目編】

 期末試験を目前に控えたある日の保健体育。この教科は試験科目に含まれていない。そのせいか、教室にはどこか気の抜けた空気が漂っていた。

 机に突っ伏す者、ぼんやり窓の外を眺める者、先生の話を右から左へ聞き流す者――。

 少なくとも半分くらいの生徒は、「どうせテストに出ないし」と顔に書いてあるような態度で授業を受けていた。




バニ

「今日は恋愛と結婚に関しての授業をするわよ」

「人を好きになるってどういうことだと思う?」


シーエ

(繁殖をスムーズにするための感情、だけど授業内容的にこういう答えを求めてるワケじゃないよな)


生徒

「一緒にいたいって気持ち?」

「ドキドキする」

「いやいや、エロい気分になるでしょ」

「サイテー」




 まじめに授業を受けているのかいないのか、ともあれバニ様の話を聞いていた生徒は茶化す様な返答を行う。

 しかしバニ様はそれらを進撃に受け止め、話を続けた。




バニ

「うんうん。どれも正解よ。人を好きになるって言うのは素晴らしい事。そのドキドキや一緒にいたいって気持ちは大切にするべきだわ」

「でもね、保健体育の授業としてはちょっと違う事を言わないといけないの」


シーエ

(ほえー、どんな話が聞けるんだろ)


バニ

「そもそも、恋愛感情には個人差があるわ。恋愛をしない人もいる。恋愛の形って一つではないのよ。まずは皆、そのことを理解してね」


シーエ

「恋愛をしない人もいる……」




 隣に座るエムジを見る。エムジは神妙な面持ちで授業を聞いている。彼にとってこの授業はとても興味深い内容のはずだ。




バニ

「さっきみんなが言ってた事、全部正解なの。一緒にいたい、ドキドキする、エッチな気分になる。これ、一人一人が違う感覚を得ているって事なのよ」

「エッチな気持ちになるって言った子に対して、最低って返した子いたわよね? 確かに公の場でその意見を堂々と言うのはマナー的に良くないとは思うわ。でも心の中でそういう気持ちになってるってことまでは否定しちゃダメ。皆違う感覚を持ってるんだってことを尊重して?」




 指摘された女生徒はしゅんとしてる。バニ様は


「叱ってるワケじゃないの。アナタが最低って思う気持ちもまた尊重されるべきなのよ。お互いに口に出して攻撃しあわない様にって事」とフォローを入れる。




バニ

「何で恋をするとエッチな気持ちになるのかは……シーエちゃんが詳しいわね。語っていいわよ」


シーエ

「ほえ!? 不意打ちでビックリした……。えと、そもそも恋っていうのは進化の過程で得た副産物的な感情で、この感情があるから雌雄が接近しやすくなり、やがて交尾をして子供を作るんだ」

「この感情が無ければ相手と一緒に子供を作りたいと思わないから、子供が出来ない。必然的に恋をする個体が生き残ってきて、今の人類の大半は恋をするようになった。つまりエロい気持ちもセットで付随する感情なんだ」


バニ

「要約すると恋した相手と子供を作りたいと思う。そして子供を作るって事はエッチな事も含まれるという事ね。ただ、これは生物学での話であって、今の人間社会はもっと複雑よ」

「子供を欲しがらない人もいるし、異性に恋をしない人もいる。さっきアタシが言ったみたいに恋そのものをしない人だっているわ。この辺のテーマを含めて後でディスカッションを行う予定よ」




 ディスカッションがあると聞き、数人の生徒の態度が少しまじめになる。いざその場になって「何も聞いてませんでした」では話にならないので、少し身が入ったのだろう。




バニ

「さて、次のお題は恋愛と依存の違いよ。さっきアタシが言ったみたいに、健全な関係というのは 相手を尊重する、断る自由もある、異性などの友達付き合いも維持できる、というものね」

「これに対し、依存的な関係っていうのは 常に連絡を要求する、相手を束縛する、相手なしでは生きられないと思う、等ね。双方で依存しあう"共依存"なんて状態も珍しくないわ」


シーエ

(中学時代、ウチにガチ恋したヤツもウチを束縛しようとしてきたな。あれが依存か)




 以前アルビに語った話題を思い出す。あの男子今元気にしてるかな?




バニ

「アタシの話だけ聞いてれば"異存は良くない"なんてのは当たり前のことだと思うだろうけどね……。意外と陥りやすいのよ。恋愛するとまっすぐ、相手の事しか見えなくなっちゃう子もいるから。だから心の隅に、先生がこんなこと言ってたっていうのを留めておいてね」


シーエ

(依存に陥る。これは今の人間社会では多発する現象だな)




 野生では異性を追い回し続ける個体は少ない。しかし文明化された現代では恋愛対象が固定され、接触機会が増え、法律があり、殺し合いもできない。だから執着だけが長期間残るのかもしれない。

 恋人を束縛してはいけない。それは社会が決めたルールだし正しい。でも脳はそんなルールを読まない。何万年も前から、つがいを失うことは自分や子供の生存率を下げる出来事だった。だから人間は、相手を失いそうになると不安になり、嫉妬し、引き留めようとする。良い悪いではない。ただ、そういう回路がある。

 だからこそ、バニ様が言うように注意しないといけないのだろう。依存は誰にでも起こりうるから。 




バニ

「次は 結婚とは何か ね。少し早めに行くわよ。最後のディスカッションの時間を多めにとりたいから」

「まず皆に伝えたいんだけど、結婚は恋愛のゴールじゃないのよ」




 一部の生徒からざわめきが起きる。結婚をゴールと捉えている生徒も少数ながらいる様だ。




バニ

「むしろ結婚してからどう生きるか、が重要ね。あ、別に結婚しなきゃいけない訳でも無いわよ? したい子たちだけすれば良いの。でもそれは感情的な面だけじゃなくて、メリットデメリットを解った上で判断した方が良いわ」


シーエ

(結婚か……ウチが誰か一人と一緒になってる未来が想像できないな。エムジに恋はしてるっぽいけど、それとは別に他の男とは寝たいし。いくら相手の自由を尊重するとはいってもこの生き方ではパートナーになる人は現れないだろう。……エムジみたいに性欲が無い人間ならあるいは……)


バニ

「結婚ていうのはそもそも法律上の制度なの。結婚をしないで同棲を続けてたって別に良いのよ? でも結婚することで選られるメリットも多くあるから軽く紹介するわね」

「夫婦になると法律上できることが増えるの。例えば相続、税金、保険等ね。全部金銭関連だけど、お得になることが多いわね。お金は大事よ? 自治体によっては結婚してると助成金が発生したり、子供を産むと助成金が発生したりもするわ」


シーエ

(臓器提供や医療同意も円滑になるな。互いを愛し合ってるなら結婚で得られるメリットは大きい)




 シーエは自分の両親の姿を思い浮かべる。性行為に関しては変な夫婦ではあるが、互いを愛している証拠でもある。片方に何か重大なトラブルがあった場合、夫婦である方が問題解決は円滑になる。何もないのが一番なのだが、リスクを消せれば普段の生活を安心して過ごせるというものだ。

 それに子育てをするなら結婚しておいた方が良いのも事実だろう。これは制度というよりも世間体の方が強いか。やむを得ない理由でシングルマザー、ファザーならしょうがない。離婚や死別とか。でも同棲してるのに結婚せず子育てするとなると世間の目はいまだ冷たい。いづれはこういった居心地の悪さも無くなってくるのだろうが、悲しいかな今の日本にはまだその雰囲気が残っている。親が気にしなくても子供が晒される奇異の目というのは……あまりよろしいものでは無いな。

 それに子供に何かあった時、先ほど考えた臓器提供や医療同意も夫婦の方がスムーズだ。




バニ

「責任と言う意味でも結婚はメリットになるわ。例えばパートナーに何かあった場合、"ご家族"という括りなら話が円滑に進むけど、結婚してないとまだ他人なの。そうなると手術の同意とか、そういう確認事項を自分で決められないのよ。重い話だけど、これは重要な事だから覚えておいて」




 シーエが考えていた事と同じ内容をバニ様は語る。普段は「恋愛は素晴らしい!」なんて熱く語る人物だが、こういう時はちゃんと先生なんだなと実感する。




バニ

「他のメリットは 精神的な支え、家事や生活を分担できる、経済面、子育て等ね。子育て以外はただの同棲生活でも得られることだけど」

「困ったときに相談できる相手がいるというのは良い事よ。病気になったとき、落ち込んだとき、仕事で失敗したとき」

「もちろん恋人や友達でもいいけど、結婚すると生活を共にすることが多いから支え合いやすいの。それで喧嘩になっちゃうこともあるんだけど、それはデメリットの方で話すわ」


バニ

「掃除、洗濯、料理。これも一人で全部やるより楽になることが多いわ。もちろん片方に押し付けたらダメよ?」

「経済面も、二人で働けば収入が増えることもある。今は共働きが多いしね。家賃や光熱費も一緒に払える」


バニ

「子育てだって、二人で育児がきる。一人で全部抱えるより負担が減るわ」

「でも気を付けて欲しいのは、一人で子育てするのがダメだって事じゃないわ。世の中には一人で子育てしてる人だって沢山いる。今はメリットの話をしてるからこの例を上げただけよ」


バニ

「などなど、色んなメリットがあるの。どう? 全然ゴールじゃないでしょ? むしろその先へ進むための通過点が結婚だったりするのよ。あぁ、何度も言うけど結婚しないって選択肢もあるからね?」

「というワケで次はデメリットについて話すわ」




 生徒たちは真剣に聞いている。期末試験に関係ない授業ということで授業開始時は熱が入っていない者も多かったが、自分たちの今後に影響のある話と解ると態度が変わってきている。

 シーエも真剣に聞いている。普段世の中の大半を生物学で理解しているシーエにとって、この話は新鮮であった。そして一番身近な夫婦である両親をより理解する上でも、この話は重要だ。



バニ

「結婚をすると、自由が減る、家事・育児の負担が増える場合がある、価値観の違いに悩まされる事がある、離婚の可能性、金銭面の負担、等が上げられるわ。いくつかはメリットと被ってるじゃないかと思うかもしれないけど、順番に説明していくわね」




 バニ様は黒板に板書をしながら続ける。




バニ

「まず自由が減る、に関してだけど……これはさっき言った束縛などの依存とは別の問題よ。一人の時間が減るって事。お金も、時間も、引っ越しとか諸々の生活環境も、全部パートナーとの相談になるわ。これをデメリットと捉えない人も沢山いるでしょうし、その人たちは夫婦で円滑に話が出来ていて理想的よ。でも自分一人で決められない事にもどかしさを感じて、ストレスになる人もいる。これは知っておいてね」


バニ

「次に家事・育児の負担の問題ね。これはさっきメリットのところで分担できると説明したけど……必ずしもうまく分担できるとは限らないの。残念な事に夫婦の喧嘩の原因ランキングの上位ね。だからよく話し合う事や、互いの意思を尊重することが大事なのよ」


バニ

「価値観の違いについても、話し合いが必要なデメリットね。食べ物。掃除。お金。休日の過ごし方。全部違う人もいるわ。そして意外と、付き合ってる段階じゃこの辺の細かいことは解らないのよ。24時間を共にするようになって、『あれ? 何か合わないな?』って感じることが多い。だからアタシ個人のオススメとしては、結婚前に一度同棲をしてみるのが良いと思うの」




 結婚前に同棲。ウチの両親はどうだったのだろうか。出会いの経緯とか、そういえば全然聞いてない。




バニ

「何で一度同棲する方が良いかって問題に関係するのが、離婚の可能性よ。結婚したら絶対幸せなんて事は無い。今言ったみたいに相性が合わないことは多々発生するわ。100%合う相手なんていうのは居ないでしょうけど、話し合いで解決できるくらいの価値観の相違なのか、絶対的に合わないのか、それを事前に知っておくことも重要ね」


バニ

「結婚は法律上の制度だって話したけど、その分手続きも色々面倒なのよ。特に苗字が変わる方はね。まだ今の日本では夫婦別姓は認められてないから、どちらかが苗字を変えなくちゃいけない。そうすると各種サービス、ライフラインに紐づいている契約者の名前も状況によって更新する必要性が出てくる。これは面倒よ。そしてその面倒な作業を終えた後、離婚したらまた元の苗字に戻さないといけない。これはデメリットね」




「夫婦別姓を早く取り入れればいいのに」とバニ様はこぼす。教師が私見を授業で述べていいのか? とも思うが、シーエもそれには同意だった。名前とサービスが紐づいている現代において名前が変わることの面倒さは想像に難くない。




バニ

「最後は金銭面の負担。メリットでは互いに支え合えると言ったけど、お金はトラブルの元でもある。子どもを育てるには教育費も必要。住宅の事。老後。人生設計を考える必要があるの」

「ただ付き合ってるだけじゃここまでの話にはならないわよね? 結婚するとこういった先の話まで考える必要も出てくるってワケ」


シーエ

(ウチの両親はここまでの事を考えてるのか? ただ何となく毎日楽しそうにしてるが……。でもウチの養育費や受験代の捻出をしてくれたし、夫婦共働きだし、意外と考えてるのかも。価値観が似ていて衝突しにくいと言うだけかな?)




 シーエは初めて、生物学や愛以外で両親の生活に興味を持った。今度聞いて見るのもいいかもしれない。

 価値観が変容する。今まで思いもよらなかった考え方を提示される。これだから勉強は面白い。




バニ

「つまり」




 バニ様はオホンと咳ばらいをし、




バニ

「結婚は幸せになる魔法ではありません。二人で協力して生活する契約です」




 とまとめた。




バニ

「結婚や子育てに関しての授業はまだまだあるんだけど……。家族の形は様々であるとか、ライフプランとか。それらは次の授業で話すわね。……期末試験の後だから、夏休み前かしら? ともかく、今日の残り時間はグループディスカッションにするわ」

「お題は──じゃん! 【理想のパートナーについて】。どんな人と恋愛したい、付き合いたい、結婚したい、そもそも一人で居たい。それらの意見を出し合って、様々な意見があるんだなって事を確認して」




 バニ様は席順でササっとグループ分けをしていく。シーエは隣のエムジと後の席の男女2人、合計4人のグループで話し合いをすることになった。




シーエ

「と言う事でヨロシクです。大村さんと三葉さん」




 エムジの後ろに座る、細身で眼鏡をかけた男子が大村おおむらササキ。シーエの後ろに座る日本人離れした顔立ちの、お嬢様オーラを醸し出してる女子が三葉みつばミカド。二人ともシーエとはあまり交流が無かった。名前くらいはもちろん知っていたが。


 シーエは誘いがあればほぼ誰とでも寝るが、逆に誘いや接点が無いとわざわざ声をかけることは少ない。エムジと話した初日の様にシーエがより仲良くなりたいと興味を持った場合は肉体関係をすっ飛ばしてその後の交友につなげることがあるが、まだそこまで話したことのない生徒はこのクラスにもたくさんいる。


 また女子とは、シーエは全体的に距離を置かれている。シーエが誰とでも寝るという噂はなんとなく共有されており、その真偽はともかくシーエを警戒して近づかない学生が多い。わざわざ突っかかったり、イジメに発展しないところは偏差値の高いこの学校の特徴だなとシーエは考えている。




大村ササキ(男子)

「よろしく」


三葉ミカド(女子)

「よろしく頼むぞ。それで、ワラワ達は理想のパートナーについて議論すれば良いのじゃな?」


シーエ

「………………。待って。待って、何かキャラ濃くない!? 三葉さん」




 エムジも目を見開いている。ナニコレ面白い。




ミカド

「ミカドで良い。ワラワのキャラが濃い……というか、話し方が変なのは把握しておる」

「これはワラワに日本語を教えた人間の悪ふざけのせいよ……。この喋り方が定着してしまったせいで、交友関係がうまくとれぬ。おのれズンコ……」


ササキ

「そんな事より、議題について話し合いませんか?」


ミカド

「そんな事より!?」


エムジ

「まぁ話し方には俺も面食らったが……普通に会話が出来るなら授業は出来るだろう。三葉さんもそれでいいか?」


ミカド

「皆の者、ミカドで良い。ファミリーネームで呼ばれるのには慣れておらん」


シーエ

「外国出身の方なのか……? あとで詳しく教えてくれ、ミカド」


ミカド

「さて議題についてだがその前に……石灰シーエ殿。そなたは多くの男と寝ておるとうわさで聞いたが本当か? それならば理想のパートナーも何もないのではないか?」




 グループの空気が一瞬凍り付く。そこに堂々と踏み込んだ女子は今のところミカドが初だった。




シーエ

「殿て……ウチもシーエで良いよ。皆シーエって呼んでくれ。そしてその質問だけど……意味が解らん。なんのことだい?」




 シーエは口笛を吹き、わざとらしく両手を上げて見せる。全く隠す気はない。しかし堂々と認めるとそれはそれで問題になりそうなので、あくまで白を切るという方針だ。




シーエ

「そんなビッチの話は置いておいて。ウチの理想のパートナーか……。ウチがどんな行動をしても、精神的に大丈夫な人だろうな。もちろんワザワザ相手を傷つけることはしないけど、ウチって一般常識とは違う行動をとりがちだから、それに振り回されない人の方が安全だな。そんな人間いるとも思えんが」


ミカド

「やはりそなたは……いえ、今は不問じゃ。ワラワは、こんな口調で言うのも難じゃがある程度常識的な相手が理想じゃな。非常識な相手に振り回されることが多かった人生故……」


エムジ

「その喋り方といい、何か苦労してそうだな。俺は……正直解らん。俺には恋愛ってものが良く解らん。だから必然的に結婚する相手のビジョンも見えない」




 エムジの悩みは真剣だ。これはエムジの人生に関する悩みでもあるからだ。そんな悩みをエムジはこれまで、ごく少数の人間にしか打ち明けていなかった。つまりシーエ、アルビ、ヒデオ、バニ様の四人。

 それをあまり会話したことの無い二人に話せるようになったのは、エムジなりの心境の変化だった。シーエ達と話、自分の悩みを共有しても問題が起きにくいと学習した結果だ。


 そしてササキからはさらにエムジの助け舟となるような意見が出る。




ササキ

「恋愛と結婚は違うと先ほど先生がおっしゃってましたよ。恋愛感情が無い相手とも、パートナーにはなれるのではないですか?」


シーエ

「恋愛抜きにして、一緒にいたいと思える人ってことか?」


ササキ

「そうです。私の両親はお見合い結婚でした。今時珍しい。そして結婚してから今に至るまで、互いに恋愛感情は抱いたことは無いと言っています」


ミカド

「それをわが子に言うというのも、なかなかじゃな……」


ササキ

「恋愛感情は無いのだけれど、今では互いが大切な存在だと言ってました。両親の様な関係に、私はあこがれてます」


シーエ

「友愛どころじゃなく、お見合いと言う初対面から始まって大切な人になる。めちゃくちゃ良い関係じゃん。エムジ、一旦恋愛とか性欲とかすっ飛ばして、お前は将来どう生きて行きたい?」




 シーエからの質問はエムジにとって目から鱗だった。恋愛感情や性欲が無い自分は一人で生きていくものだと決めつけていたから。

 しかしササキの「恋愛感情が無い相手ともパートナーになれる」という言葉や、シーエの「恋愛や性欲をすっ飛ばしてお前は将来どう生きたい?」という疑問はエムジの前提条件を軽々と破壊する。




エムジ

「将来、将来か……。考えたことも無かったな。一人で生涯を終えるのは、なんとなく寂しいと感じる。俺の両親も仲が良いからな。性に関する話題や行為は俺には気持ち悪くて実行しようがないが、それをすっ飛ばして良いなら子供は欲しいかもしれない」


ミカド

「何か、苦土エムジ殿も生きづらそうな境遇じゃな……」


エムジ

「エムジでいいぞ。俺の事も」


シーエ

「その子供が欲しいってのは、自分の子供が良い? 養子でも可能?」


エムジ

「子供、なら何でも良いんだと思う。小さいころ、両親が俺を見て凄く嬉しそうに笑っていたんだ。もちろん今でもそうだが。子供を育てるという行為にはあこがれがあるかもしれない」


シーエ

「そうか……」




 シーエの心がずきりと痛む。子供が欲しい。そうなるとシーエはパートナー足り得ない。先ほども考えたことだが、子育てするにはシーエの行動は良く無さすぎる。かといって行動を自制出来るほど、シーエにとって"生物への気持ち悪さの体験"は軽いものでは無い。

 元々叶わない恋だと思っていたが、条件がそろっていくと中々どうして、心に来るものがあった。




ササキ

「苦土君……エムジ君は性行為に禁忌感を感じているのですか?」


ミカド

「性行為などと……堂々と……」




 ミカドは気まずそうにしている。喋り方以外、一般的な女子なのかもしれない。




エムジ

「細かく説明するとめんどいんだが、俺はアセクシャルってヤツなんだと思うんだ。診断してもらったことはねぇがな。性欲が一切なく、そして性の話題に気持ち悪さを覚えてる」


ササキ

「それは難儀ですね。でも先ほど石灰さん……いやシーエさんが言っていた様に、養子をもらう事は可能でしょうね」


シーエ

「他にも人工授精って選択もある。養子はある程度家庭の条件が厳しく審査されたはずだから、人工授精の方が楽かもな。性欲が無いだけで、射精する能力はあるだろうし」


エムジ

「キモい事を考えさせるな」


シーエ

「でもその先の幸せを掴むためには、ちょっとくらい我慢も必要だろ」


エムジ

「そもそもこんな俺を受け入れてくれて、それでセックスレスを許してくれるパートナーなんて現れるかよ? 相手に恋愛感情も湧かないんだぞ?」


シーエ

「いやいや、世の中は広いよ? いるかもしれないだろ? それに今回の授業のテーマは理想のパートナーについてだよ。都合の良い存在を語っちゃって良いんじゃん?」


シーエ

(ウチならエムジとセックスレスでも問題は無いが。やはり子供がネックだな。エムジに好意を抱いていて、性の話題が嫌いな女性……あれ? もしかしてアルビじゃね??)




 シーエははっとする。そういえばアルビはエムジの事を気にかけてるような仕草をチョイチョイしてたし、案外お似合いなのでは??




ササキ

「皆さん、理想の相手を語る場なのに随分と消極的ですね。自分の行動に精神的に振り回されない人、常識的な人、セックスレスを許してくれる人」


ミカド

「さっきからセックスセックスうるさいのじゃ。良い顔の男子二人からそんな言葉を聞き続けるこちらの身にもなってくれ」


シーエ

「役得じゃん?」


ミカド

「お主はそうであろうな!? して、ササキ殿、そなたはまだ語っておらんが?」


ササキ

「私ですか? 私は可愛い子が良いです」


シーエ

「うっそだろお前!?」




 ササキの爆弾発言に思わずシーエも驚く。この顔と口調から出てくる言葉とは思えなかった。

 それはミカドも同じようで。




ミカド

「そんな、真面目そうな顔に眼鏡までしてるのに……」


ササキ

「真面目ですよ? 大真面目に可愛い子が好きなんです」


シーエ

「いや解る。というか最も正常だ。ルッキズムが騒がれてる世の中ではあるが、結局は顔面の占める性欲への重要度は高い。さっきミカドもイケメン二人とか言ってたし」


ミカド

「う……」




 一瞬驚いたが、男子にとってとても正常な思考だとシーエは速思いいたる。キャラがあってないだけで、ここまで驚かされる事があるのか……。今日は色々勉強できる日だとつくづく思う。




ササキ

「別に顔だけじゃないですよ? 仕草や内面、服装、可愛らしさはいたるところに詰まってます。そして何を可愛いと思うかは私の個人的価値観です」


ミカド

「そんなに堂々と話されると、そなたの意見が正しいように感じてくるの……」


エムジ

「今回はディスカッションだし、正しいも間違いも無ぇんじゃねぇか?」


シーエ

「はいはい! ウチは可愛いですか!? ウチなんていかがですか!」


ササキ

「顔だけは」


シーエ

「顔だけか……」




 しゅん……




ミカド

「あー、ワラワはどうじゃ?」




 控えめにミカドが伺う。ササキからの評価に興味はあるらしい。




ササキ

「大変可愛らしいです。その独特の喋り方、先ほどの照れる仕草、全てが可愛い」


ミカド

「……!!!」


エムジ

「こんなおもろい奴らが後ろにいたのか」


シーエ

「もうすぐ一学期終わっちゃうから、席替えするのが惜しくなるな」




 グループディスカッションは大盛況の元に終わったのだった。

【キャラ紹介画像】

※キャラの背景にいるのは本家シーエ世界での彼らの姿です。本物語では人間の姿でしか登場しません。


■三葉ミカド

挿絵(By みてみん)


■大村ササキ

挿絵(By みてみん)

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