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43・ソロモン海海戦 3

 1944(昭和19)年10月25日、ニュージョージア島南西沖


 ケ魂部隊はガダルカナル空襲の後、一時的にアメリカ側の索敵を逃れる韜晦コースを取ったものの、夕暮れとともにソロモン諸島海域へと進入して行った。


 サボ島沖60kmという間近を通過しているのだが、アメリカ軍はまさかそんな所に日本軍が入り込んでいるとは思いもしなかった。


 ガダルカナル沖には未だ混乱が収まらないオルデンドルフ艦隊が応急修理や指揮立て直しに忙しく、ヘンダーソン飛行場も復帰作業中であった。

 他にも基地はあったが、ケ魂部隊が西へ針路を取る姿を発見してブーゲンビル島方面へ向かうと予測し、北方からの再来襲へと意識が向いていた。


 ケ魂の囁きに従い南下を続ける角田は、夜明けを迎える頃にはなんの妨害や襲撃も受けずにニュージョージア島南西まで達していた。


「北西より編隊が接近しています。高度約1万、距離200です。識別信号は陸軍」


 電探採用当初は識別装置は搭載されていなかったが、ソロモン海域での誤認や混乱の多発から、この1年ほどで日本軍でも識別装置が搭載される様になっていた。

 ただ、そこはやはり日本軍。陸海軍で統一規格にはなったが、信号それ自体は分けられた。

 そのため、識別が少々面倒にはなったが、実用上は機能していた。


「陸さん、こんな朝早くからどこを目指してるんだ?」


 角田はそう尋ねる。


「針路そのままであればガダルカナル島南方沖です」


 そこでふと考える角田。


 受信している海軍の無線によれば、アメリカ空母が居るのがその辺りのはずであった。


「ソイツを追えば、空母にありつけるか!準備が終わった攻撃隊は発進させろ!針路は上空の陸さんだ!」


 こうして、追えるはずもない飛龍を目印にケ魂部隊は攻撃隊を送り出すのだが、当然ながら、相手は巡航速度が700kmを超えるジェット機である。


 それでも飛龍隊の針路を目印に飛ばした攻撃隊は、しばらくして立ち昇る黒煙を発見する事になった。


 五〇番噴式ケ弾を抱えた彗星三三型40機あまりは、黒煙目指して飛んでいく。


「敵空母は炎上中だな。聞かされた陸さんの仕業だな。生きている敵はいないか?」


 既に瀕死のバンカーヒルには誰もが目もくれず、かと言って大型空母はすべて炎上中。


「居ます!アレは無傷に見えます!!」


 搭乗員はただ1隻、未だ煙の見えない空母を発見して叫ぶ。


「よし、アレは俺たちの獲物だ、続け!!」


 インディペンデンス級軽空母は軽巡洋艦を母体としているため、装甲はおろか弾薬庫や防御設備にも妥協を強いてとにかく急場を凌ぐ為に12隻建造されている。


 大西洋においてその脆弱性が示され、昨日も2隻が沈没や大破の憂き目にあったのだが、ハルゼーに残されていた無傷の軽空母バターンはこの時、20機もの彗星に襲撃され、30分後には波間に沈む事になった。

 周囲にいたアトランタ級軽巡洋艦も悲惨だった。

 先の飛龍隊来襲時に対空戦闘を行い、主砲は暖まっていた。そこへ五〇番噴式ケ弾が近付けば反応しないはずもなく、砲塔が複数吹き飛ぶ事に繋がった。


 五〇番噴式ケ弾5発命中、13発の至近弾によるダメージに軽巡洋艦の船体が耐えられなかったのである。


 一番槍を務めた隼鷹艦爆隊が戦果に満足して帰途に着いたころ、ようやく本隊が到着し、巡洋艦や炎上する空母に攻撃を加え、悠々と去って行った。


 ハルゼーは炎上するレキシントンⅡから駆逐艦へ移乗して難を逃れていたが、もう少し遅ければバターンに乗り、寡兵ながら戦い続ける気でいた。

 まあ、撤退戦を、ではあったが。 


「何なんだこれは・・・」


 真珠湾においてエンタープライズが触雷してからこのかた、ハルゼーは一度も勝利を手にしていなかった。

 マッカーサーによる無謀な作戦計画に巻き込まれた不運もあったが、ニミッツは彼の負け癖を嫌い、敢えてマッカーサーの下から引き離そうとはしなかった。


 ただ、後の歴史から見れば、それでも彼は幸運な提督であったと言えるだろう。


 そう、南雲の功を横から攫う様なケ魂部隊の暴走が起きていた頃、北太平洋において、戦争の趨勢を決める戦いが行われていた。






 大統領は確かにマッカーサーに共感していた。アジアの権益という共通点においては。

 しかし、大統領選にインパクトを与えるより劇的な戦果が欲しいとも考えていた。


 1944(昭和19)年10月18日、ハワイ


「もうすぐ南でハルゼーが派手に暴れる。しかし、手持ちの空母はエセックス級3隻、インディペンデンス級3隻に過ぎない。これでナグモ、カクタの両方を相手にしても勝てる訳がない。仮に、ナグモかカクタを倒せたとしても、いずれか一方だけだろう。つまり、ハルゼーはどの道負ける事になる。マッカーサーの政治に付き合わされるだけの損な役回りだ」


 ニミッツは地図を前にそう口にした。話す相手はスプルーアンスである。


「日本軍がソロモン海に注視している隙に、ここを狙う。何、大した戦力は居らんし、哨戒網から外れた孤島だ。しかし、政治的な影響はナグモの比ではない。難易度もこちらが低い。やってくれるな?」


 地図の孤島を指してそう語るニミッツに、スプルーアンスも首肯で答える。


 そんな会話を思い出しながら、スプルーアンスはエセックス級空母ヨークタウンとインディペンデンス級軽空母ウェークを率いて真珠湾を出港していくのだった。


1944(昭和19)年10月19日、横須賀


「真珠湾よりアメリカ空母の出港を確認しました」


 真珠湾へと入港していたエセックス級、インディペンデンス級が出港した事に、連合艦隊司令部では様々な議論が行われた。


「やはり、大鳳と信濃を南方へ向かわせるべきだ。このままソロモン海の北から援軍として現れたら脅威になる!」


「バカか?マリアナだ!連中は我々を南北で分断する気だ!マリアナに部隊を集めなければ!」


「いや、ウェーク島だ。奴らの狙いは我らの喉元に刃を突き付ける事だ!」


 南方への警告が行われようとしたが、混乱を避けるために取りやめとなかった。


 さらにマリアナへ部隊を集めようと奔走する者も現れたが、南方戦線を混乱させない為に土壇場で止められる。


 ウェーク島防衛がそこまで重要なのかは、かなり怪しかった。


 そんな中、山本はそんな司令部の混乱に呆れ返るしかなかった。


「コイツらは今ごろ何を騒いでるんだ?俺には理解できん。博打ならもう始まっているだろうに」


 そう嘆くのだった。



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― 新着の感想 ―
ハルゼーはニミッツをパワハラで訴えても良いと思う。 負け癖て何さ、日本海軍を相手に勝った提督なんて一人もいないのに。
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