42・ソロモン海海戦 2
1944(昭和19)年10月24日、ソロモン海
「蒼龍、被弾!」
来襲したアメリカ軍機は第一航空艦隊をはるかに上回るほどだったが、それは事前に分かっていた事であり、各所から援護が集められていた。
「やはり、もはや無理があるのか」
南雲は蒼龍被弾の報にその様な感想を持った。
「飛龍も危ないやも知れません」
源田がマトモな返答をする。
今回の出撃に当たり、まず懸念されたのが、今まさに起きている事態であり、電探機能の一部を外部に担わせるのでは、機能が著しく制限されていたのだから。それは蒼龍、飛龍に限らない。
「赤城とて似たようなものだろう」
草鹿もそう口にする。
敵だけで500を超える。管制すべき味方もよく似た数である。
赤城や加賀、翔鶴型にしてももはやマストが林立し、電測室を設ける為に増築著しく、艦橋は歪な形に違法改築状態になっている。
ウッカリしていると迷子になる様な歪さであり、元から電探搭載を前提に設計された隼鷹型以後の空母とは環境が異なる。
そのため、防空戦闘において一元的な管制や誘導を行うには各艦とも艦橋内は手狭であり、通信、指揮機能の高い大淀型軽巡洋艦へと旗艦機能を移すかどうかを検討しているほどであった。
「それで、ニ航艦はどうなっているんだ?」
「わかりません。ラバウルを発ったとの通信を最後に連絡が途絶えています」
ラバウルに在った第一航空艦隊はアメリカ空母出現の報に接し、ケ魂部隊を待つことなく出撃している。
2日遅れでケ魂部隊がラバウルに着いたとの連絡こそあったものの、現在位置は不明。
「この状況ではニ航艦が現れても味方の混乱が増すだけになります。離れて行動する事を選んだのではないかと」
草鹿がそう補足する。
ただでさえ統制が取れているか怪しい陸海軍が混在する空戦模様にケ魂部隊が加わったとて、統制が取れる訳ではない。
「北方から接近していた敵編隊が引き返して行きます!」
艦隊外縁でレーダーピケットの役割を担う駆逐艦からそんな不思議な報告が届いた。
「これ以上の混乱は避けられたか」
南雲は敵の来襲が僅かに減って安堵していた。
その夜、ハルゼーは不機嫌に報告を聞いていた。
「敵中型空母2隻撃沈、大型空母1隻撃破というのが現在の所の状況です」
それを聞いてもまるで喜べなかった。
「それは、しっかり確認した結果か?各地の戦果をそのまま集めただけじゃなかろうな」
ソロモン諸島での海戦においても誤認や重複が相次いでいた。
今のハルゼーは精査のなされていない報告で一喜一憂するほど楽天的にはなれない。
「それにしても、何だあの脆い空母は。足が速いだけで護衛空母と変わらんじゃないか」
敵空母に打撃を与えたらしいという不確かな情報に対し、ハルゼー艦隊には1発の爆弾で飛行甲板を破壊されたり、僅か数発の爆弾で沈没したインディペンデンス級軽空母が2隻存在していた。
エセックス級のうち、バンカーヒルも飛行甲板を破壊され、今は応急措置で何とか誤魔化している状態だった。
「ニミッツの野郎がエセックス級を1隻引っ張っていくからだ!軽空母だけで我慢しやがれ!!」
大西洋から回航されたエセックス級空母は4隻、しかし、ニミッツがハワイの防衛にと1隻を持って行っており、ハルゼーはエセックス級3隻、軽空母も持っていかれてインディペンデンス級も3隻しか手元にはない状態だった。現状、ハルゼーが動かせる空母は実質3隻だけと言うのが現状である。
「それに、何でヘンダーソン基地が襲撃を受けているんだ!」
南雲艦隊はソロモン海に在り、角田艦隊はようやくラバウルを発ったばかり。
後衛に回るものと思っていたら、ガダルカナルを襲撃して来たらしいのである。
あろうことかタイミング悪くそこに居合わせたオルデンドルフ艦隊への攻撃の際、旗艦ルイビル艦橋が被弾、艦隊指揮官、幕僚が揃って戦死という報告まで受けており、もはやこれ以上作戦を続ける意味が見いだせずにいた。
「マッカーサーは何と言ってきているんだ?」
「こちらの艦隊でナグモを叩いて進撃路を作れと・・・」
「出来るかボケ!!」
ハルゼーももはやマッカーサーには付き合っていられないと匙を投げるほど、総司令部の作戦指揮は無茶苦茶になっていた。
「負けが込み過ぎて頭イカレてるんじゃないのか?」
ハルゼーはとにかくそう怒鳴り散らす事しか出来なかった。
1944(昭和19)年10月25日、ガダルカナル島南方沖
「高速で接近してくる編隊があります!!」
夜明けを迎えた頃、ハルゼーはそんな声でたたき起こされる。
「そりゃあ、高速だろ。こんなところまで来るのは例の爆撃機だ」
昨日も来襲した迅龍、銀河の事を思い出してハルゼーはそう零す。
しばらくするとその編隊が接近してきたと更なる報告が舞い込んで来た。
「いくらなんでも速すぎる。アレか?ポートモレスビーを襲ったジェット機か!!」
当時のアメリカでは実用的なジェット機はまだ軍での運用域に達していなかった。ポートモレスビー爆撃を契機に、イギリスからジェットエンジン導入が本格的に始まり、ようやく試作機が飛び始めた段階である。
それもこれもイギリスがアメリカへ輸出するものは平等に枢軸側へも輸出すると言って来たからであり、ジェットエンジンもアメリカが受け取れば、同じ様に日本へ流れると警戒して導入を控えていたことから開発が遅れていたのだった。
幕僚の悲痛な叫び声でハルゼーも空を見上げた。
すでに目に見えるところまで迫っているが、まだ対空砲が届く高さとは言えなかった。
「時速およそ400ノットです!照準間に合いません!!」
射撃システムを操作する要員がそう叫ぶのを聞き、艦橋に居る誰もが唖然とするしかなかった。
「爆弾、来ます」
来襲した飛龍は有効な妨害を受けることなく高度6000メートルから500kgケ弾を投下した。
陸軍では安定翼を改良して水平爆撃でも効果的に誘導できるように手を加えており、飛龍から投下された爆弾は制動板を開いて減速しながら目標を赤外線探知していた。
「昨日と同じだ。勝手に進路を変えてやがる。何なんだあれは!」
そう叫んでいる間にも、ハルゼーが座乗するレキシントンⅡへと爆弾が吸い寄せられ、煙突を破壊して飛行甲板で起爆した。
成形炸薬弾であるため、生成されたメタルジェットが格納庫へと侵入し、ちょうどそこにあったアベンジャー雷撃機を直撃し炎上させ、格納庫内へと延焼させていった。さらに飛行甲板で迎撃準備を行っていた戦闘機を横転させて炎上させたことで飛行甲板も火の海と化してしまった。
バンカーヒルやイントレピットも被弾し、同様に火災が発生してしまう。
「消火急げ!」
昨日の襲撃によって最有力なヘンダーソン基地は使えず、味方の援護もしばらく望めない中、懸命に消火活動を行っていた。
もはや艦載機を飛ばすどころではない。




