41・ソロモン海海戦
1944(昭和19)年9月下旬、真珠湾
「カクタも日本を発ったのだな?」
「はい。間違いありません。しかし、追跡を試みた潜水艦は・・・」
「それは仕方のない犠牲だ」
ニミッツは閑散とした軍港を眺めながらそう口にした。
「フィリピンは今年中に独立宣言をするそうだ。そうなればマッカーサーに戦う意義はない。いや、現時点でもはやアレは私戦に等しい戦いだ」
厳しい顔でそう言い、側近へと顔を向ける。
「残念だがハルゼーには踊ってもらおう。ナグモやカクタを倒せばなお良いが、ジャップの、いや、日本海軍の戦い方はナチとは違う。ナチとの戦いに慣れたボーイズが手玉に取られるのは心苦しいが現実だ。かなりの損害を覚悟しなければならん。そこで、だ。スプルーアンスを呼んでくれ」
側近が部屋を出るのを見届けたニミッツは閑散とする真珠湾に威風堂々と入港したエセックス級空母を見てニヤリと笑う。
「もう、私戦に付き合う時間は終わりだ」
1944(昭和19)年10月18日、ソロモン海
「これだよ。オレが求めていたのは!」
エセックス級空母3隻、インディペンデンス級軽空母3隻を従えた機動部隊に満足げに叫ぶハルゼーであった。
「陸軍もソロモン諸島、ニューギニア方面双方からナグモを挟みうち。そこへ俺たちがチェックメイト!痺れるなぁ!」
マッカーサーが目論む一大決戦が始まろうとしていた。
アメリカ陸軍は持てる航空兵力をもって南雲艦隊へと殴り掛かり、さらにハルゼーも加勢に加わり叩き潰す。
物量にモノを言わせた決戦であり。これが成功すれば頭痛のタネが消える。
何より南雲打倒は来月に控える大統領選の勝因ともなる重要なモノとなり、空母6隻の破壊に留まらない力を秘めている。
ゆくゆくは政界進出を目論む自分にもプラスに働く戦功となるのは間違いない。
と、マッカーサーは考えていた。ルーズベルトもまたとない機会と諸手で賛同している。
エセックス級とともに新たに配備されたF6Fヘルキャットは、ドイツ戦闘機を低空域でも翻弄した優秀な戦闘機である。
ゼロ戦や海風にも通用すると自信をもっていたのだ。
さらに今回はアイルランドへと優先配備されていた長距離戦闘機P51も配備されている。
陸海軍ともに抜かりない準備が行われていた。
その頃、ケ魂部隊は未だソロモン海へ向かう事が出来ていなかった。
「まさか、こうもはやく戦いがはじまるとはな」
トラック泊地を出発して急いで駆け付けようとしたのだが、何分これまでとは勝手が違う。
二航艦はこれまで4隻で編成されていたのだが、新たに2隻追加された。
その2隻は隼鷹型をベースとしながら、より量産性を高め簡易化された設計となった戦時量産空母である。
外見もハリケーンバウとなり、隼鷹型よりも装甲空母大鳳に似たシルエットをしている。
船体は量産性を重視して商船構造とされ、二重底や隔壁追加以外は、隼鷹で問題となったボイラー室上の高温問題に対策が施された事が特筆される程度であった。
そんな新造艦を不慣れな乗員多数が動かしている事もあって、思う様に速度が出せなかった。
油断すれば新編の2隻が落伍しかねず、まさか主力を張る空母を置き去りにしては笑い話にもならないのだから、置いて行くこともできない。
そんなもどかしい事態にあっても戦いは待ってはくれず、ラバウルに着いた頃には前哨戦が始まっていた。
「これから向かっても場を掻き乱すだけになるなぁ」
ラバウルまでは来たものの、何の事前調整も無しに戦場へ向かうのはさすがに憚らられた。
だが、戦わないという選択肢は無い。
味方に迷惑を掛けずに戦える場所はないかと思案し、閃くのだった。
「遅参の詫びも込めてヘンダーソンを襲うか!あそこなら航行に不安はない!」
敵中をいくので普通なら不安しかないが、角田にはそれが名案に思えた。
「敵に知られる訳にはイカン」
こうして、ラバウルで敵の前に味方を欺く様な事をやって出撃していくケ魂部隊であった。
1944(昭和19)年10月24日、ガダルカナル島
「北方より編隊接近中、IFFに反応ありません。敵です!」
大西洋から転戦して来たばかりのオルデンドルフはその報告に驚いた。
「何だと?!大半の航空隊は出撃した後だぞ」
南雲艦隊ならびに第8艦隊がソロモン海においてハルゼーとぶつかっている。
まさにそのさなかに、100機にのぼる編隊が北方からガダルカナル島へ来襲するなど考えていなかった。
警戒厳重なニューアイルランド島周辺の状況は偵察出来ておらず、角田艦隊の出撃情報こそ受けたが、南雲の後詰に入るものと考えていたのである。
もちろん、南雲もそう考えていたのだが。
だが、角田は側面からの奇襲という作戦にない行動を選んだ。
そもそもの作戦では、角田の二航艦は10日前にラバウルへ着き、南雲艦隊と調整の後、共にソロモン海へ向かうハズだったが、不慣れな新編戦隊のミスで遅れに遅れ、こうなった次第。
遅参の旨は先に伝えていたので作戦は予定通りにはじまり、ケ魂部隊の配置場所は無くなっていた。
結果、誰もが予想しない場所から奇襲を成功させたのだが、その矢面に立たされたのは、ブーゲンビル島上陸支援のためにガダルカナル島に在ったオルデンドルフ艦隊である。
巡洋艦と旧式戦艦を基幹とする上陸支援部隊のため、申し訳程度の護衛空母しかおらず、他の艦隊や陸軍の防空支援を前提として対空戦闘能力も他より低い。
「対空戦闘用意!」
オルデンドルフはそう命じたが、彼には既に結末が見えていた。
僅かばかり残されたヘンダーソン基地の防空戦闘機が飛来したが、多勢に無勢。完全に圧倒されるのが見えた。
だが、攻撃隊は艦隊を素通りしてヘンダーソン基地へと向かい、地獄の花火が咲き乱れるのを眺めるばかり。
しかし、それから30分後に現れた第二波100機あまりの編隊は迷う事なくオルデンドルフ艦隊へと襲い掛かり、艦隊をクラスター弾が襲い、次々と火災を発生させていった。
「消火急げ!」
第二波が去り、燃え盛る艦隊で消火作業が進められていた。旗艦ルイビルも2番砲塔周辺に火災が生じ、懸命な消火活動が行われる。
不運な事に大型艦はクラスター弾が真っ先に降り注いだ事から対空火砲やレーダーにも損傷が見られ、マトモに動いているのは駆逐艦ばかり。
「駆逐艦より発光信号!敵です!」
簡潔に報告を受けたが、60機に満たない編隊の来襲に反撃するにも、僅かな駆逐艦によるささやかな砲火のみ。
「敵機直上、急降下!」
オルデンドルフの知る急降下爆撃より高度が高く、あまりに不正確に見えた。
「アレでは当たりようがない」
フッと嘲笑う様に敵機を見上げていたのだが、なぜか投弾された黒い物体は自分へと吸い寄せられるように迫って来るのが見えた。
「なぜだ。どうなって・・・」
オルデンドルフが口に出来たのはそこまでだった。
艦橋の皆が唖然としているうちに、旗艦ルイビルの艦橋へと五〇番ケ号爆弾が命中し、その威力を解放したのだった。
司令官を失った艦隊は混乱し、ヘンダーソン基地から発せられた救援信号を受けて急遽引き返してきた陸軍飛行隊が見たものは、北方へと去る編隊と、損傷を受けた戦艦、巡洋艦、燃え盛り着陸が難しそうなヘンダーソン基地の惨状であった。




