40・第二次ブーゲンビル島防衛戦
1944(昭和19)年5月、ブリスベン
「準備は整っているのだな?」
マッカーサーは悪いニュースばかりが舞い込む事に憔悴しながらそう幕僚へと確認する。
「はい。下旬には作戦発動が可能です」
フィリピンでは独立準備委員会が立ち上がり、日比合意が行われたというニュースまで飛び込んでいるため、もはや猶予はない。一刻も早くラバウルを抜いてフィリピンに手を掛けなければ、マッカーサーの作戦意義が消滅しかねなかった。
こうして5月26日に始められたブーゲンビル島上陸は惨劇そのものとなる。
「犠牲など気にしている暇はない。一刻も早くブインを黙らせ飛行場を確保するのだ。ソロモンを堅牢化し、ラバウルを圧迫する。その間に一気呵成にラエを落としてマダンまで攻め上がるんだ。年明けまでにはミンダナオへ手を掛けるのだ!」
もはや正常な判断など出来ていなかった。ブリスベンの作戦司令部では、教会で2人が愛の誓いを口にする瞬間までに扉を開いて待ったをかける。そんな、映画のワンシーンにでも思いをはせる様な妄想が作戦として語られていた。
1944(昭和19)年5月30日、ブイン
機動第6師団を率いる島田はあまりの事に困惑しか出来なかった。
「掃海もない、航空支援も心もとない。対潜警戒にすら不安がある。なんでそんな状態で連中は上陸を強行しているんだ?」
アメリカ軍の行動が報告され始めて4日になるが、その情報は耳を疑うしかないものだった。
ブーゲンビル、ブカに点在する陸海軍飛行場へアメリカ軍が攻撃を仕掛けて来たので各地で激しい空中戦や防空戦闘が発生していた。
そして、どうしてそこへ上陸できると思ったのか、ブインから南西にある海岸へと上陸を始めていた。
ブーゲンビル島には辻参謀による迷惑な統帥によって全土に道路が完備されており、迅速な迎撃が可能であるという現実を理解できていない事に首をかしげるしかないのだった。
「すでに迎撃のために部隊が向かっておりますが、あまりにも敵の数が多く苦戦は必至の状況です」
そう報告を受けるが、
「海軍より沿岸に在する上陸船団への攻撃を成功させたと言ってきています。こちらでも確認は取れました」
海岸を埋め尽くす船団であるらしいものの、まともな空母も戦艦も伴っていない脆弱な存在であったため、海軍が簡単に排除に乗り出すことに成功しているという。
島田にも分かり切っていた事であり、それが理解できなかったアメリカ軍の不可解すぎる行動には首を捻るしかないのだった。
1944(昭和19)年6月12日、ブリスベン
「閣下、残念ながら2万の損害を出し、撤退いたしました。上陸した1個連隊への補給は絶望的です」
2週間程度のちには結果が出た。
ケ魂部隊が来襲した事で勝敗は決し、60隻に上る上陸船団の損害を出して撤退に至る。
「どうして上手くいかないんだ!オーストラリアにもっと協力を仰ぐ!!」
マッカーサーはオーストラリア政府と協議を行い、さらに兵力を集めて再起を図ることになった。
その活動を行っている最中、アメリカ本国より連絡が入る。
「何?それは本当か」
連絡によれば秋までにヨーロッパに在った主力部隊が太平洋へ回航されるというのだ。
「はい。空母4隻、戦艦4隻を含む艦隊が太平洋へと向かうとの事です」
「ならば、それらを私の指揮下に迎えなければならない!!」
さっそくマッカーサーは総司令官の立場を利用してそれら艦艇がハワイではなく、サモアへ向かうように手配を行い、ハルゼー麾下とするよう動くことになるのだった。
1944(昭和19)年8月、横須賀
「大規模な艦隊がパナマを抜けて太平洋に入ったようです」
ここ最近は角田が南方で暴れ回っている関係でその名声こそ高まっているが、日本における知名度一位はやはり南雲である。
先のミッドウェイ海戦による戦果もあって、未だに連合艦隊司令長官の座を退くに退けない山本は、ヤレヤレとその報告にため息を吐いた。
さらに2週間たってもハワイに現れたという報告が無かったため、艦隊は南方へ向かったものと推定して対策が協議されることになった。
「狙いはソロモンかニューギニアと見て良いかと」
年初めからポートモレスビーを叩いており、ニューギニアにおける戦闘は日本優位に推移している。
さらに5月の末から行われたソロモンでの戦いにおいても、ブーゲンビルに上陸してきた敵を撃退している。
「二航艦は間に合いそうなのか?」
山本はふと気になったことを問う。
そのブーゲンビル沖での航空戦は熾烈を極め、二航艦の艦爆は損耗が激しかったため、内地へ戻って補充を行っている所であった。
替わって南方には一航艦が展開している。
「はい。来月にはラバウルに向かえます」
まだアメリカ軍の動きも活発化していないため、しばらくの猶予があるものと見られていた。
その二航艦ことケ魂部隊は彗星三三型を受領していた。
彗星三三型は愛知がドイツより導入したDB601エンジンの熟成を行い、独自にDB605相当へと魔改造を行ったもので、先年イギリスから希少金属や工作機械の輸入が開始されると俄かにその信頼性も向上している途上であった。
こうして艦爆への液冷エンジン搭載が現実のものとなり、このほどアツタを搭載して完成したのが三三型である。
従来1300馬力エンジンだった彗星はエンジンの性能向上で二二型へと進化していたのだが、そこへ液冷エンジン型を独自に開発していた愛知が提案を行い、1700馬力エンジンによって600kmという計画速度を示したことから海軍が試作を命じ、完成した機体は見事に計画を達成する事になった。
こうして採用された彗星三三型は損耗著しいケ魂部隊へと速やかに配備されることとなった。
「速い!速いな!」
ケ魂部隊ではこれまでよりも高速の機体に大変満足していた。
同時に青山の搭載も検討されたが、慣れ親しんだ彗星を推す声が多く、彗星一本のままとされた。
ただ、そうなるとゼロ戦三二型のままでは明らかに性能差が出てしまう事から戦闘機に関しても更新が行われ、ゼロ戦の最終形態である五三型へと更新されることとなった。
ゼロ戦五三型は金星エンジンの最終型である1560馬力エンジンを搭載し、最高速度580kmであり、カタログ上は彗星より劣速ではあったが、実際の運用においては全く問題とはならなかった。
ケ魂部隊が海風を搭載しなかったのは生産数の都合もあったが、何より彗星三三型より重い海風の運用が隼鷹型では厳しいと判断されたためだった。




