35・ポートモレスビー空襲
1944(昭和19)年2月、ポートモレスビー
「ジャップの来襲だ!回せ回せ!!」
1年以上平穏だったポートモレスビーは、再び日本軍が来襲した事で俄かに慌ただしさが増していた。
飛行場で愛機に飛び乗ったパイロットがタキシングに入ろうとした時、上空からものすごい轟音と金属音が響いて来たのでふと見上げると、プロペラの無い機体が多数港の方へと舞い降りて来るのが見えた。
「何だよあれ、本当にジャップなのか?」
滑走の入り、何とか攻撃前に上空へと舞い上がれたのだが、相手の方が速度が速くて追い付けない。
「おい、何だコイツ。プロペラもないし無茶苦茶に速いぞ」
双尾翼で黒い尾を引く筒が機尾に二つ見えるソレ。
パイロットはがむしゃらに愛機を操縦したが、どうやってもP40では追い着ける気がしないのだった。
彼が必死に追いかけている間に港湾部で派手な爆発が断続的に発生し、さらに第二波らしき群れが飛行場を襲っていた。
「おい、何だよコイツ!!」
彼は全く追い着くことが出来ず、幸運にも空襲前に上がったP38が喰らい着こうとしているが、それすらもするりと躱す謎の機体。たしかにそこに赤い丸が描かれているので日本軍機に間違いないと思われたが、全く正体が分からずパ二くるしかないのであった。
この日、ポートモレスビーを襲ったのは四式重爆撃機「飛龍」であった。
重爆撃機と言えば大型な機体であることが常識なのだが、その機体はその名からは全く想像できない小型機である。
後の世から見れば、翼を展開したF-14トムキャットという答えが返ってくるような姿をしているが、機体サイズははるかに小さい。
全長14m、全幅13mと言う機体サイズながら、最大搭載量2トンという、確かに日本陸軍にとっては重爆撃機であった。
さらに翌日も飛龍はポートモレスビーへと現れた。
前日の爆撃の傷すら癒えていない街を再び爆撃して悠々と帰る姿を見送ったパイロットは怒鳴る。
「何だよアイツ!!」
さらに翌日には迅龍を率いて100機もの爆撃隊が襲い掛かり、愛機を破壊されて防空壕に籠るしかなくなったパイロットは毒づいた。
「新型機は無いのかよ!新型機!!」
彼がそう言っても、高性能と噂のP51がニューギニアへとやってくることはなかった。
長距離飛行が可能で制空も対地攻撃も可能なP51は主にアイルランドへと送られ、そこからオディエルヌの戦場へと飛んでいたのだから。
年が明け、何とかカンペールまで10kmと言うところまで達したが、地形を活かした防御陣地とどうやっても破壊が出来ない潜水艦ブンカ―を擁する潜水艦の徘徊によって、思うように戦えないアメリカ軍はただただ犠牲を増やすだけに終わっていた。
上陸開始から4カ月を迎え、地上での犠牲はすでに5万人に届くまで膨れ上がっており、作戦継続に疑問符がつくほどの状況だった。
それでも連日のように空母艦載機とアイルランドから繰り出す戦闘機、爆撃機によってブルターニュ半島一帯を攻撃して回っているが、損害も無視できないほど酷く、陸軍は遠くアイルランドから飛来している関係で、まるで2年前の日本軍状態になっていた。
ラバウルやブーゲンビルからからガダルカナルまで飛来するソレを迎え撃っていた太平洋軍、今や欧州軍はドイツ軍に対して同じ様な事を繰り返し、毎日のようにパイロットを失っていた。
仮に脱出できたとて、そこは寒い海上か敵地であり、救出も芳しくないのだからどうしようもない。
そんな消耗戦へと次々とヒト、モノをつぎ込み続けているのだから、さしものアメリカであっても太平洋まで新型機を届ける余裕などない。
そんなニューギニアでもアメリカ側の一方的消耗が始まってしまい、もはや反攻作戦どころではなくなりかけていた。
1944(昭和19)年2月16日、ブリスベン
「何?ジャップがとんでもない新型機を飛ばしている?何かの間違いだろう」
マッカーサーは乗機撃墜に懲りてニューギニアやソロモンへの督戦を控えていた。
「こちらがその写真になります。ガンカメラの捉えたモノなので些か細部までは分かりかねますが、ジェット機で間違いないかと」
そう言って示された写真を見ても、ため息しか出て来ないのである。
「で?」
アメリカでもジェット機はすでに試作されている。しかし、お世辞にも性能が良いとは言えず、まさか日本が先に実戦投入するなど想像すらできていなかった。
「戦闘機としては聊か扱いが難しいエンジンですが、攻撃機として運用するのであれば、不安定な離着陸時でない限り、現在戦線に配備している機体では迎撃するのは難しいかと」
多少過大評価されてはいたが、おおむね間違った話ではなかった。
さらに、当時すでにワウ飛行場は事実上休止状態にあってラエやマダン、フィンシュハ―フェンを襲って発進時や帰還時に襲撃するのも難しい。
「つまり、もう一度ブーゲンビルを狙うしかないというのだな?」
「いっそ、ニューギニアを無視し・・・」
「それは愚策だ」
ダーウィンを起点として一気にフィリピンを目指すルートを考えないでもなかったが、あまりに無謀な作戦となる事が目に見えているので、マッカーサーは即座に却下した。
「あるいは、ギルバート諸島などを」
「それではニミッツの思い通りではないか」
海軍の作戦領域を口にした参謀を睨むマッカーサーであったが、潜水艦による奇襲ならともかく、本格的に島嶼部を戦場とするには、いまの太平洋艦隊には戦力が無さすぎるのも事実であった。
「ブーゲンビルを狙うしかないか・・・」
こうして、再度ブーゲンビル島からラバウルの無力化を狙う作戦が始まろうとしていた。




