33・ニューギニア島 4
1943(昭和18)年10月7日、ニューギニア島沖
「ジャップの艦隊を発見したと司令部より通信がありました!」
ハルゼーはマッカーサーの計画に従い、上陸予定地点へと向かっていた。
「カクタか!だから言ったんだ。陸軍の連中じゃ沈められんだろうが!」
「いえ、カクタ艦隊ではありません」
その報告にさらに顔を歪めて叫ぶ
「ナグモを呼び寄せるヘマを誰がやりやがった!」
日本がニューギニア島作戦について、より警戒するようなヘマをしたのはハルゼーである。
「いえ、ナグモでもありません」
「新手か?」
「いいえ、ヤマトです!ジャップの戦艦が4隻やって来ているとの通信が入りました。『海軍の相手は頼む』との司令官よりの伝言も入っています!」
それを聞いたハルゼーは呆れ返るしかなかった。
ハルゼーの手許には新型戦艦など1隻も居ない。
空母に随伴可能な新型戦艦は全て大西洋へと送られ、彼の手にあるのは真珠湾で損傷後、最低限の改修が行われただけの旧式戦艦が5隻である。
「俺としては空母が相手の方がまだ良かったよ!クソが!!」
空母相手ならば、攻撃回避の為に避難する事に名分もたつ。戦艦ではどう足掻いても艦載機の相手など出来かねるのだから。しかし、現れたのは、よりにもよって戦艦。
まさか、格上だから避難しますとは言えない相手であった。
「仕方ない。ヤマトを追いかけるぞ。おい、マッカーサーに観測機1機たりとも近付かない様にカバーしろと伝えておけ」
ハルゼーは死んだ目をしながら海を睨んだ。
「ウェストバージニアで18インチ砲と撃ち合いだと?フザケんな!」
吠えてはみたが、どうしょうもなかった。
翌日夕方にはハルゼー艦隊に日本軍機が接触し、その存在が知らされる。
「さすがに旧式機じゃ追い払うのが精々だな」
F4Fでは敵機を撃墜するには至らず、取り逃してしまった。
「これでヤマトはこちらへ向かうだろうな」
それは夜中の出来事だった。
「敵艦らしき反応です!」
日付が変わってすぐ、ハルゼー艦隊は日本艦隊らしき反応を捉える。
「砲撃戦用意!」
「いくら旧式とは言え、レーダーくらいは替えているからな!」
夜戦において日本側に一日の長がある事はソロモン諸島における一連の海戦で理解はしていた。
しかし、それから既に1年近く経っているのだから、負けるはずがないとハルゼーは考えた。
ハルゼーは知らなかったが、イギリスはアメリカに輸出を止めなかったかわりに、同様の技術や機器を日本にも輸出していた。
アイルランド進駐後、その事実があってアメリカ海軍は大西洋においてイギリス商船の監視や臨検も厳しく行う様になるのだが、イギリスに対してそれは逆効果となった。
自分が世界一と信じるドイツは自国を通りイタリアや日本へ向かうイギリスからの物資にはあまり興味を示さず、この半年で日本やイタリアはアメリカに並ぶほどのレーダー技術を手に出来ていた。
そのため、昨年には射撃用電探を備えるに至っていた大和型と、急造でしつらえだけのハルゼー艦隊のレーダー性能は、日本側に軍配が上がる状態になっていたのである。
ハルゼーには喫緊の脅威であるが、ルーズベルトにとってはそんな些末な性能問題より、まずはフランス上陸を如何に成功させるかこそが問題であった。
たかが戦艦の性能差の為に、太平洋へ新型艦を回す余裕など微塵もない。そんな事はブルターニュに地保を築いてから考えれば良い話だったのだから。
「敵艦、発砲!」
ハルゼー艦隊が日本艦隊を発見してから10分程度後、日本艦隊が発砲した。
しばらく後にハルゼーが座乗するウェストバージニアの周囲へと落下して来た。
「戦艦の砲撃が簡単に当たってたまるか!」
まだ発砲しているのは2隻であった。
「後だ、後を狙え!ナガトなら同格だ、まずは奴らを沈めろ!」
ハルゼーはセオリーから外れる指示を出し、発砲開始を命じた。
大和、武蔵の砲撃は至近弾こそ出ているものの、35キロという遠距離射撃とあって一向にあたる気配がなく、ハルゼーはアメリカ艦隊の発砲を景気付け程度に考えていた。
しかしその直後、ウェストバージニアを衝撃が襲った。
「何だ!何があった!」
ハルゼーが叫ぶがなかなか詳細が分からない。
そのうち速度が低下し始め、転舵の指示もなく艦が曲がり始めている。
「機関室がやられ、右舷軸が止まっています!」
ようやくそう報告を受けた艦長が指示を出すが、ウェストバージニアに続くようにメリーランドが方向を変えてしまったあとだった。
そのまま日本艦隊へ接近する様な態勢が形成されるが、減速しているウェストバージニアはもはや先頭艦の任に耐えず、離脱を宣言した。
「クソ!一発でこれかよ!」
水中弾となって舷側を破り機関室の破壊を招いたのは、武蔵の砲弾だった。
しかし、武蔵からはそれが確認出来ておらず、日本側はアメリカ艦隊の不可思議な行動に戸惑いを見せていた。
先頭に立ったメリーランドはそのまま態勢を立て直して4隻を率いて長門への砲撃を継続したが、当たる気配はなかった。
そして、入れ替わって二斉射降り注いだのち、3番砲塔から爆発を起こし波間へと消えていった。
「これが戦艦の戦いか・・・」
ハルゼーはウェストバージニアから巡洋艦へ移乗しながらその光景に触れ、あまりの事にそう呟くしかなかった。
メリーランドの爆沈により先頭はコロラドが務め、3隻を率いたが、劣勢は明らかだった。
ハルゼーが大和型への砲撃ではなく、同格だからと長門への砲撃を指示したのも悪手だった。
しかし、ここでアメリカ艦隊には幸運が舞い込んだ。
「敵、殿が爆発しています!」
陸奥が腔発事故によって3番砲塔を失ったのである。
だが、幸運はそれだけに過ぎなかった。
その5分後にはコロラドに大和の砲弾2発が命中し、ボイラーを吹き飛ばし、その影響で発生した蒸気爆発が艦全体を飲み込んでしまった。
「こ、コロラドが・・・」
アメリカ艦隊は頼みの16インチ砲艦が戦列から失われると戦意も喪失してしまった。
ハルゼーは初めから乗り気ではなく、ここで撤退を宣言する。
「やってられるか!何で陸軍の連中は助けに来ないんだ!!」
ハルゼーはそう叫ぶが、陸軍にそんな余裕はなかった。
作戦発動の後、全く動かない真珠湾の動向を聞くとケ魂部隊はソロモン諸島へと襲い掛かり、ラバウルへの陽動に当たるハズだった各基地を次々と襲っていたのである。
ソロモン諸島からラバウルへ陽動を行うどころではなくなっていたし、最悪なのは督戦の為にワウへ飛来したマッカーサー乗機が被弾、不時着してこの頃は完全にアメリカ軍の指揮が混乱していたのであった。
もし、ハルゼー艦隊を襲ったのがケ魂部隊であったなら、アメリカは海軍も政府も重荷になっていたモンタナ級の建造を停止していたと言われている。
しかし、あろうことか戦艦同士の海戦が発生し、旧式とは言え16インチ砲戦艦が一方的に打ちのめされたのでは、建造を停める理由にはならず、モンタナ級へと傾倒してしまう結果を齎していた。
こうして、ハルゼーの想いとは逆へとアメリカは進んで行くことになる。
それを招いた原因が、再三にわたる自らの空母無心だった事など、生涯知る由もなかったが。




