31・ニューギニア島 2
「南東より敵機接近!」
ラエの司令部に電探からの報告が響いた。
程なくして迎撃のために三式戦や迅龍の海軍仕様である銀河が離陸していく。
侘美の部隊にある迅龍は純粋な軽爆撃機型のため非武装なので急造された掩体に身を潜めている。こうした防護設備が迅速に設営出来るのも、九五式軽戦車を改造した特殊工作車が複数配備されているおかげであった。
「む、重爆か。たしか、B24だったか」
来襲したのはB24の編隊である。
「フィンシュハーフェンからも出ているな?」
ラエには三式戦と分派された隼が少々、迎撃の主力はフィンシュハーフェンやマダンに置かれている屠龍や鐘馗の部隊である。
「はい、あちらにも伝えています」
しばらくすると空戦が始まったらしく、飛行機雲が描かれる。
そして、 黒い花が咲いたが、侘美からはそれが敵か味方かまでは判然としなかった。
1943(昭和18)年8月、ブリスベン
「どういうことだ?」
マッカーサーは連合軍司令部で憮然とそう口にした。
彼はフィリピン脱出後、オーストラリアにおいて反攻態勢を整える事に腐心し、イギリスの停戦においても、オーストラリアの離脱を押し留める事に成功していた。
それに何より、空母の大半を失い反攻戦力としては見劣りする太平洋艦隊を自らの配下において太平洋戦域における最高司令官の地位に就く事にも成功したのだが、反攻作戦は思う様に進んでいなかった。
当初はソロモン諸島制圧が順調に進んでいたがブーゲンビル島上陸に失敗し、ニューギニア島にウェイトを移してからは上手くいかなくなった。
「ジャップの防備は固く、新型機の投入によってワウへの損害が非常に大きくなり、制空権奪還も芳しくありません」
聞けば聞くほど嫌な報告しか入って来なかった。
「大統領は太平洋を見捨てないと明言している。ヨーロッパ戦線構築が重要なのは分かるが、もっとこちらにも回して欲しいものだ。来年中にはフィリピンを独立させると嘯いているんだぞ。下手をしたら私が侵略者の烙印を押されてしまう!それまでに何とかしなければ!」
ルーズベルトにとっては時間を掛けて万全を期して対日戦をやれば良いとの考えだったが、マッカーサーには時間がなかった。
日本はアメリカが約束したフィリピン独立を行うと大東亜会議で表明しており、期限は長くて1年しか残っていなかった。
あろうことか、日本が傀儡政権を立てるでもなくフィリピン政府が今もマッカーサーに代わって日本を後ろ盾に存続している姿は、苛立ちに油を注ぐ事態に他ならない。
「1年以内にルソン島へ手を付ける。その為にはクリスマスまでにニューギニアを抜いてしまわなければ間に合わんのだ!」
マッカーサーにとっては、ブーゲンビル島でもニューギニア島でも良かったのだが、政治的にブーゲンビル島の方がラバウルに近く、ワシントンDCへの訴求効果が見込めたから選択したに過ぎない。
目標は個人的な理由からのフィリピン奪還であり、連合軍最高司令官もその為に一番効率的な手段に過ぎなかった。
しかし、ブーゲンビル島上陸の準備を優先したため、日本軍がニューギニア島の防備を固める時間を与えた面は否めない。
「イギリスが、イギリスさえ停戦などしなければ、こんな事にはならなかった!!」
彼にとって最大の誤算はイギリスの停戦である。
しかし、日本にとってニューギニア島防備が進んだ最大の要因は支那戦線の整理縮小なので、根本的な読み間違いではあったのだが。
もちろん、ビルマという熱帯で戦った知見を持ってニューギニア島へ派遣された者達も居たので、イギリスの停戦が何の影響も与えなかった訳では無い。
「次は失敗が許されん。ハルゼーにはしっかり働いてもらわねば」
カートホイール作戦第二弾にして真打とも言えるニューギニア島奪還作戦について、マッカーサーは強くそう言うのだった。
その相手であるハルゼーはというと、ヌーメアの司令部で憮然としていた。
「陸軍の連中は何も分かってねぇ!空母が簡単に沈むんじゃない。フィッシャーのバカがヘマしやがっただけなんだ!!」
マッカーサーはじめ、連合軍司令部の面々はミッドウェー海戦や千島沖航空戦を見て、空母は脆いが戦艦ならば簡単には沈まないからニューギニア作戦に戦艦部隊を出せと催促していた。
ハルゼーは空の守りが足りず、空母という奇襲戦力なしには無駄死にだと訴えたが、理解されなかった。
ハルゼーには最大の懸念、ケ魂部隊の存在があった。
マッカーサー達はソロモン、ポートモレスビーの二正面から圧倒的戦力で日本軍を押し潰すと主張するが、ハルゼーからすれば、それはケ魂部隊に格好の獲物を差し出す愚策に見えていた。
「奴が来る!きっと来る!」
ハルゼーがそう主張したものの、連合軍司令部は「ソロモン海の制空権は我々の物であり揺るがない!」と聞く耳を持とうとはしなかった。
「そこまで言うなら仕方ない。第3艦隊は総力を挙げてサラモア、ラエ上陸作戦に参加する。責任は連合軍司令部が持てよな!」
投げやりにそう返し、10月に発動と決した。
その決定に、ハルゼーの顔はさらに歪む。




