21・ドーリットル攻撃隊
1943(昭和18)年2月16日、太平洋
「長官!司令部より敵機動部隊来襲、迎撃せよとの事です!!」
角田は房総半島沖合で最後の訓練を行っていたこの日、思いも寄らない報に接する事になった。
「何だと?訓練でマトモに護衛も居ないというのに!」
隼鷹型航空母艦4隻によって編成される第二航空艦隊の司令官に着任し、ゼロ戦三二型や彗星への機種転換を終えてカタパルトの運用試験もようやく済ませ、トラックへ向かう間際の事、苛立つのも仕方がない。
「仕方ない、偵察機を出せ。敵にはたっぷりケ魂を進呈せんとな!」
この日、日本の東方沖700浬に進出していたのは年末に就役したばかりのエセックス、そして、修理を終えたばかりのエンタープライズである。
エセックスに至ってはこれが初めての遠洋航海であり、戦闘行動などまだまだ不安が残る状態だったが、他に出せる空母が存在しない窮状なのだから仕方がない。
12月にイギリスが日独と停戦した事で大西洋にも基幹となる艦隊を自ら用意する必要に迫られたアメリカ軍は、政府の方針に従って主戦場をアフリカ戦線と定め、カサブランカへと続々陸軍を送り込んでいる所であった。
幸いな事にイギリスは完全な中立を宣言し、ジブラルタル海峡を封鎖する様な措置には出ていないため、アルジェリアへの上陸も叶っているが、それらを支援するためにサラトガ、ワスプ、レンジャーを貼付けておく必要があった。
太平洋はマッカーサーに一任され、オーストラリアから島伝いにフィリピンを目指す事がニミッツの反対虚しく決まる。
それだけ海軍戦力が足りていないのだから、その力関係は明白と言えた。
しかし、だからと言ってニミッツも何もしない訳にもいかないし、何か大きな戦果が欲しいのはアメリカ陸海軍に違いはない。
その様な中で、兼ねてより案が出されていた陸軍爆撃機による日本本土爆撃計画が実行に移される事になった。
しかし問題は空母から陸軍爆撃機を発艦させる事だけではない。
インド洋が日本によって制圧されたため、援蒋ルートを失い、当初考えていた国民党支配地域への離脱が不可能となったのである。
仮に国民党支配地域へ達してもアメリカへ帰る手段がない。
そこで、イランルートによる援助を失いウクライナ防衛が絶望的なソ連へと掛け合い、沿海州離脱の交渉を行った結果、条件付きの同意を得る事が出来、ようやく爆撃計画が始動したのである。
計画では当初、ホーネットを地中海から呼び戻す事になっていたが、南雲艦隊に撃沈され、急遽訓練もそこそこにエセックスを引っ張り出すハメになったが、艦容の大きな空母であるため16機から20機へと搭載する爆撃機を増やす副次効果が生まれていた。
離脱地点が中国内陸部から沿海州に変更され、発艦海域も100浬沖合に設定したにも関わらず、この日、艦隊は日本の哨戒線に捕捉されてしまった。
「クソ!なんでこんな所にジャップが彷徨いて居るんだクソッタレ!潰せ!全て捻りつぶせ!」
ハルゼーは怒りのままに哨戒線破壊を命じ、それから4時間かけて周辺の哨戒艦船を探しては攻撃して回る。
結局、その過程で日本側に大まかな陣容を把握、打電された上に警戒態勢を敷かれるのだが、怒りには勝てなかった。
「司令官、如何いたします?」
「ハァ?如何とは何だ?計画通り実行するまでだ!」
一通り哨戒艦船を攻撃した後、エセックスから次々と爆撃機を発艦させる。
その頃、二航艦では東進の命令が下っていた。
「連中は真珠湾の仕返しに来るんだ!帝都を狙うに違いない!進め!電探は盛大に電波をまき散らせ、こちらに目を向けさせるんだ!」
角田は自己の存在を知らせて少しでも帝都襲撃を軽減しようと考えていた。
「では、偵察機も電探を作動させます」
「当たり前だ!」
もちろん、二航艦はまさかハルゼーが700浬先で爆撃機を発艦させて離脱しているなど考えもしていなかったが。
こうして電探を作動させた偵察機が誘蛾灯宜しく敵索敵機を引き付ける覚悟で東へ向かっている時、反応があった。
「敵らしき反応!航空機多数!」
その報に誰もが首をかしげた。
「どういう事だ?なぜ複数の飛行機が飛んでいる?」
さらに偵察機が接近して詳細を伝えて来た。
「敵は双発中型機。陸軍の爆撃機およそ20機!」
「ハァ?」
誰もが釈然としない顔をする。
「ちょっと何を聞いたのか分からないんだが?」
「自分も何を言っているのか分かりません!」
分かったのは、空想科学小説の様な怪奇現象が起きたかも知れないという事実だけ。
「何れにしろ、本土へ向かうなら撃ち落とさねばならん。見知らぬ国の爆撃機ではないのだな?」
「はい、国籍マークはアメリカ陸軍で間違いないとの事です!」
釈然としないモノを感じながら、角田は迎撃命令を発した。
ケ弾の準備をしていた者たちは落胆したが、事が事だけにゼロ戦だけでなく、彗星も迎撃に上がる事になった。
「敵は爆撃機だ。一番噴進弾を取り付けろ!」
本来は対地、対艦用だが、既に南方では対爆撃機用にも用いられている重量10キロの小型ロケット弾が彗星へと装備されていく。
こうして4隻から80機にのぼる迎撃隊が爆撃機へと向かっていった。
爆撃機側では偵察機にしばらく気付いていなかった。
まさかこんな海の真ん中に小型機が居るなど思いも寄らないのだから警戒もしていない。
それより明らかに強行爆撃となるこれからの行程へこそ意識を向けていた。
「列島まで300マイル」
航法士が告げる言葉で前方を睨むのは、隊長となったドーリットルであった。
「100マイルまで接近したら高度を下げる。さすがにジャップでもそのくらいのレーダーはあるだろうからな」
何時間も哨戒艇狩りに明け暮れる海軍に焦燥すら感じた彼は、まさか後方に日本軍の偵察機が張付いているとは思ってもいない。
「ジャップの戦闘機にはマトモな無線はない。聞き取り難いラジオくらいあるだろうが、100マイルまでは安全なはずだ」
そんな油断が偵察機を見逃す原因であった。
「敵機、前方上方!」
そんな叫び声に目を凝らせば、ワラワラゴマ粒の様なモノが見えていた。
「まだ200マイル以上沖合だぞ、なんで都合よく飛んでやがるんだ‥‥‥」
あり得ないタイミングで会敵したそれは、逆落としの様にドーリットルを襲い、6本の火線が次々と爆撃機を襲った。
「12番機被弾!」
「6番機爆発!」
さらに尾を引く複数のロケット弾がドーリットルを襲った。
「クソが!」
避ける暇なくロケット弾の一発が右エンジンで爆発し、飛散した火の粉が機体を覆った。
「発見した敵爆撃機は全て撃ち落としました」
角田はそう報告を受け、ホッと胸を撫で下ろす。
「司令部へも連絡しろ、敵は中型爆撃機だとな」
それから3日、索敵を続けるも敵機動部隊は発見出来ず、本土に爆撃機が現れる事もなかった。
撃墜海域を捜索した結果、浮遊物や遺留品からアメリカ陸軍のモノと確認が取れ、空母から爆撃機を発艦させたのだろうとの結論に至るまで、そう時間は掛からなかった。




