人攫い前編そのに
弟とヨルは似ている。俺はこいつが苦手で怖い。
俺はヨルから手を離し、隣にいるギルの裾をぎゅっと握る。その行動を見たヨルが一瞬だけ眉をひそめたのを俺は見逃さなかった。
やっぱ苦手だ。
「ここで話を聞いてやる。おい、詳しいことを今ここで話せ」
「分かりました。ここの村では度々人攫いが起きておりました。今回もその一環だと思っていたのですが、1日に1人は攫われてしまい。主に女子供を狙っているので人身売買の輩だと思っているのですが、何せ証拠をなにひとつ残さず攫っているのでそこらの売買人の仕業ではないかと思われます」
証拠をなにひとつ残さない、か。
だが、人身売買は頂けないな。売られた人間は、良くても五体満足、悪ければ生きているのが苦痛と思うほど痛めつけられ最後は捨てられ、酷ければ家畜の餌となり得る。
なんの罪もない普通の人々。普通に暮らし、ただ明日に向かって生きてる人の人生をめちゃくちゃにする奴らを野放しには出来ない。
「話してくれてありがとう。その輩、許す訳にはいきません。ヨル、わたしたちはここら辺の土地はそんな詳しくはありません。道案内、頼んでもよろしいでしょうか?」
「は?こいつも連れていくのか?」
俺の提案にギルは不愉快な顔をしたがそんな事どうでもいい。この辺を知っているのはヨルだけ。俺とギルはそう、極度の方向音痴なのだ。
絶対迷うし、その間に新しい事件が起きてみろ。恐ろしい目に合うのは俺なんだから。
「ギル、私の言うことを聞きなさい。ヨル、あなたにはご迷惑お掛けしますが、これも民の為。よろしくお願いします」
「どんなお願いでも聖女の頼みであれば私は喜んで引き受けましょう。寧ろ他のものに頼らず私になんでも頼ってください」
ヨルはとても幸せそうにニッコリと笑い、ただひたすら薄暗く光るその瞳で俺だけを見ていた。
不気味だな。
俺はずっとヨルを警戒し殺気を放ってるギルの袖を掴む。ほんの軽く掴んだだけなのだが、ギルの殺気が収まったように感じる。
「それでは聖女様、それと司祭様。絶対に私から離れずに着いてきてくださいね」
ヨルはそう言うと背中を向けて森の方へと歩いていく。俺とギルはその後を大人しく着いていくのだが、ギルはずっと怖い顔でヨルを見つめていた。
ギルが警戒するのも致し方ない。
いまから敵のところに行きます。案内してくれ。それを言って了承を出すやつはそう簡単には居ない。なのにヨルは二つ返事で了承した。
「ソラ、安心しろ。なにかあったら俺が必ず守ってやる」
「それは頼もうしい。けど私は守ってもらわなくても自分でなんとか出来る」
「可愛くねー。まぁでも、絶対に傷は付けさせねぇ」
はいはい、左様ですか。そんな歯がゆい言葉をポンポン出せるなんてイケメンは得ですね。
俺が言ったら多分笑われる。腹抱えて爆笑されるに違いない。なんせ守ってあげる、ではなく、守ってもらう、の言葉の方が正しい。
こんな華奢で触ったら折れそうな体に、守ってあげる!なんて言われてもピンと来ないだろうし。




