私は君じゃないからさ
冴島家に引き取られてから一ヶ月、少しずつこの家の人とも慣れ、私は楽しい毎日を送っていた。
「ねえ咲藍お姉ちゃん、遊ぼうよ」
冴島家には多くの子がいる。その理由として、曾祖父母の子供が三人、その三人の祖父母の子供が七人、その父母の子供が二十人と、圧倒的大家族であった。
「咲藍お姉ちゃん、遊ぼ」
五人の子供が私の側に寄ってきてそう言ってくる。
私が対応に困っていると、龍太郎という子が私の目を見ていながらだろうか、「ねえ、何でお姉ちゃんの目は閉じたままなの」と、そう言ってきた。
「本当だ。目開いてないね」
そこへ扉が襖が開き、雪河の声がする。
「おいお前ら、咲藍が困っているだろ」
「えー。でも咲藍お姉ちゃん暇そうにしてるんだもん。だから遊んだ方が楽しいって」
「咲藍、良いか?」
「うん。別に困ってないしね」
正直困っている。
「じゃあ咲藍、俺買い物に行ってくるから」
「うん、いってらっしゃい」
私は手を振り、雪河を送った。足音が徐々に遠ざかっていくと、この一連の様子を見ていた子供たちは声をワントーン上げて言う。
「「「「「もしかして、そういう関係なの」」」」」
まるで弱みを握ったかのような上ずんだ声で言い、子供たちははしゃいでいるように見えた。
動揺を見せれば負けた。
私はそういうことを悟らせないように冷静さを保ちつつ、先ほどと変わらぬトーンで、
「雪河と私はそんな関係じゃないよ。私はただの同級生だよ」
確かに私は普通のトーンで言ったはずだ。
声に動揺も表れていないはずだし、震えてもいないはずだ。
だがなぜか、ニヤニヤとし、こそこそと喋っている子供たちの声が聞こえる。それは明らかに私の心中を察しているように。
「やっぱお姉ちゃんと雪河お兄ちゃんはそういう関係だったんだ」
「ちょ、だから言ったでしょ。ただの同級生だって」
念を押して私は強く言った。
その後に返ってきた答えに、私は動揺した。
「でもさお姉ちゃん、顔、真っ赤だよ」
どうやら私は顔に出てしまっていたみたいだ。
「それに顔もニヤニヤしてるし、バレバレだったよ」
顔が見れないせいで、そんなことになっていたとは気付かなかった。
ということは、絶対にこの子供らにバレているじゃないか。
龍太郎、秋夜、才太、大吉、武蔵、この五人に私の心の内がバレてしまったというのか。
「帰ってきたら雪河お兄ちゃんに言っちゃお」
「やめろ」
「どうしよっかな」
「待て待て頼む。まだ言わないでくれ」
「ええ。どうしよっかな」
この子供たち、性格悪ぃー。
思わず私はそう思った。さすがに焦りが増してきていた。このままでは私の気持ちがバレてしまう……というか、私は雪河に恋をしているのか?
いや、まさかまさか……。
「あ、お兄ちゃん帰ってきた」
「行くぞお前ら」
そう言って、子供たちは去っていた。すると入れ違いに、雪河が私の部屋に入ってきたのが分かった。
ここまで来ると、足音だけで誰なのか分かるようになった。
あの子供たちは雪河に何か言ったのだろうか。
「咲藍、この前美味しいって言ってた食べ物あるだろ」
「わたあめのこと?」
「そう。さっき買ってきたからさ、今から食べようぜ」
私はわたあめを渡され、それを受け取った。まだ目を失う前、食べ慣れたはずのそのわたあめは美味しく、私はそれをすぐに完食した。
「なあ咲藍、俺さ、実はなってみたい職業を見つけたんだ」
「どんな仕事なの?」
「俺、医者になるよ。医者になって咲藍の目を治したいんだ。だからそれまで待っていてくれ。必ず俺が咲藍の目を治すから」
「うん。ありがとう。じゃあ期待してるよ」
私の小指を彼は掴み、私の小指に小指を絡ませてきた。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます。指きった」
「それ、私からするべきじゃないの」
私は笑いながら言った。
「確かにそうだったな」
「でも約束したからね、雪河。いつか私の目を治してね」
「ああ。分かった」
そう君と私は誓った。私と君は誓った。
私は君に何度も救われて、さらには私の目を治すと誓った。どれだけ私は救われれば良いのだろうか。
そう考えて一週間が経ち、私は私の秘密を知っている五人の子供たちと一緒に買い物に出掛けていた。
信号待ちをしている時、私の意識は朦朧とし、前に倒れた。それと同時、激しいクラクションの音とともに、私の体には何かがぶつかった。
痛い、苦しい、熱い……。
私の頭には何か液体がこぼれている。
「あれ……」
私は少しずつ力が抜けていくような、そんな感覚に陥っていた。
私は……私は……、そうか、きっと私は死ぬのだろう。きっとそれも悪くない……
ーーそして私は、長い眠りにつく。




