↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

君と私の告白

 私は冴島家へ引き取られることとなった。

 私へ日々暴力を振るい続けていた義理の両親は捕まり、もう二度と会うことはないだろう。

 それから私は彼の家へと行くと、彼の家族が迎えてくれた。彼の家族は大家族らしく、十何人もの声が一斉に聞こえ、私は驚いた。

 私の家に比べて賑やかなその家族を、羨ましく思った。


 私がその家に引き取られた日の夜、私は寝つけず、ベッドの上で体育座りをし、考え事をしていた。

 そこへ部屋の扉がノックされる。


「咲藍、入って良いか」


 それは雪河の声だ。


「うん。良いよ」


 すると扉が開く音とともに雪河が部屋に入ってきた。


「雪河、今日はありがとね。君があの電話を聞いて駆けつけてくれなかったら、きっと私は死んでいた。だから、ありがとう」


 雪河が私の言葉に返事を返すまで、長い間があった。

 てっきり聞こえていなかったのかと思い、恥ずかしながらももう一回言おうとすると、雪河は言った。


「きっと……これを言えば咲藍は俺を嫌いになるかもしれない。そういう告白を俺は君にする」


 何か重たい覚悟を感じていた。

 私は一度彼に救われている。だから私は彼の話を聞くことにした。


「良いよ。話して」


「俺はな、高校生になる前……そう、中学生の頃、いじめていた……クラスメートを」


「そう、なんだ」


「俺はそいつに謝ることもできず、今をノコノコと生きている。だからさ、あの時咲藍を助けたのは、きっと贖罪(しょくざい)をしたかっただけなんだ。あの時に背負った罪から少しでも逃避できるように……なんて、俺は他人をいじめていたのに、やっぱ自分のことしか考えられないような奴でさ……」


 雪河は苦しそうに私へ打ち明けた。

 私は手探りで雪河の体を触り、手へ触れ、優しく握った。


「嫌いになんてならないよ。だって君は、私を、ひとりぼっちの私を救ってくれたんだから。それにさ、重要なのは昔の君じゃなくて今の君なんだ。その過程にどんな人生を送ったかなんて気にしなくて良いよ。それを反省したかどうか、それが大切なことだよ。

 失敗して悔やんで、二度としないようにと誓って、そうやって成長していく。それが、人(・)生(・)っていうものだから」


「それでも、事実は変わらない」


「雪河はさ、仲直りはしたの?いじめていた子とは」


「いいや。まだだ」


「なら仲直りすればいいんだよ。雪河には勇気があるし、優しさがある。だから君のその気持ちが伝われば、きっと仲直りだってできる。それに向き合うくらいはしないと……君は自分を嫌いなままでいる。そういうのはさ、時間が忘れさせてくれるけど、突然思い出されてもしまう。だから仲直りしてね。その子と」


「うん、そうするよ。ありがとな。俺のこんな変な相談にのってもらって」


「良いよ。君は私を救ってくれた、その恩返し」


「ありがとう」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 彼は向き合った。己の過去に。

 咲藍、彼女の優しさに背中を押されて。


 冴島雪河、彼は遠く離れた街である人物を見掛けたという情報を聞きつけ、その場所へ赴いた。

 ある店の前で仕入れ作業中の彼へ、雪河は話しかけた。


「優大(ゆうだい)、久しぶり」


 優大は雪河を見るや、明らかに嫌な表情を浮かべる。


「今さら何の用?また僕をいじめるつもりなの?」


「優大、あの時は本当にごめん。本当にごめん」


 彼は優大へ頭を下げた。

 それを見ても、優大は特に何か言うこともなく、仕入れ作業を刻々と進めていた。


「で、それだけのために君はわざわざこんな遠い街まで来たの?」


「ああ。謝るべきだと思ったから。あの時犯してしまった過ちに対して。許してもらえなくて良い。ただ謝りたい」


「そう」


 素っ気ない返事を返し、彼は作業を続けながら雪河の顔を見ることなく言った。


「まあでも、僕は君をもう妬んだりはしていないし、憎んだりもしていない。たとえこれが君の自己満足でも、僕はちょっとはスッキリしたよ。かつて僕をいじめていた君が、こうやって頭を下げているんだから。二度と来るなよ。それに今は仕事中だ」


「すまなかった。失礼するよ」


 雪河が背中を向けた瞬間、優大は言い忘れていたかのように呟いた。


「君は重く考えすぎだ。だから、そう深く考えるな。僕は今新しい人生を送れているから。君たちにいじめられていたことなんてすっかり忘れたよ」


「だが、」


「まああの時はお互いに守りたい立場があったからね。君が守りたかったものと、僕が守りたかったものは非常に似ているよ。それだけだ。とっとと去れ、素早く去れ、いい加減去れ」


 最後早口で雪河へ言い、雪河を追い返した。

 雪河が遠くへ行った頃、優大は聞こえないような小さな声で言った。


「やっぱお前は僕に似ているよ。冴島」


 優大は遠ざかる雪河の背中を眺めていた。


 雪河はまだ心にもやもやを抱えつつも、過去の業(ごう)と向き合ったことで少しはうまく笑えるようになっていた。

 雪河は電車を待つ駅の中、空を見上げて呟いた。


「ありがとな、咲藍。咲藍のおかげで向き合えたよ」


 そうやって、彼は一歩進んだ。

 進み退(さ)がり退がって進む。

 一日一歩、それよりも遥かに遅く、その分正しい一歩を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。