君と私の告白
私は冴島家へ引き取られることとなった。
私へ日々暴力を振るい続けていた義理の両親は捕まり、もう二度と会うことはないだろう。
それから私は彼の家へと行くと、彼の家族が迎えてくれた。彼の家族は大家族らしく、十何人もの声が一斉に聞こえ、私は驚いた。
私の家に比べて賑やかなその家族を、羨ましく思った。
私がその家に引き取られた日の夜、私は寝つけず、ベッドの上で体育座りをし、考え事をしていた。
そこへ部屋の扉がノックされる。
「咲藍、入って良いか」
それは雪河の声だ。
「うん。良いよ」
すると扉が開く音とともに雪河が部屋に入ってきた。
「雪河、今日はありがとね。君があの電話を聞いて駆けつけてくれなかったら、きっと私は死んでいた。だから、ありがとう」
雪河が私の言葉に返事を返すまで、長い間があった。
てっきり聞こえていなかったのかと思い、恥ずかしながらももう一回言おうとすると、雪河は言った。
「きっと……これを言えば咲藍は俺を嫌いになるかもしれない。そういう告白を俺は君にする」
何か重たい覚悟を感じていた。
私は一度彼に救われている。だから私は彼の話を聞くことにした。
「良いよ。話して」
「俺はな、高校生になる前……そう、中学生の頃、いじめていた……クラスメートを」
「そう、なんだ」
「俺はそいつに謝ることもできず、今をノコノコと生きている。だからさ、あの時咲藍を助けたのは、きっと贖罪をしたかっただけなんだ。あの時に背負った罪から少しでも逃避できるように……なんて、俺は他人をいじめていたのに、やっぱ自分のことしか考えられないような奴でさ……」
雪河は苦しそうに私へ打ち明けた。
私は手探りで雪河の体を触り、手へ触れ、優しく握った。
「嫌いになんてならないよ。だって君は、私を、ひとりぼっちの私を救ってくれたんだから。それにさ、重要なのは昔の君じゃなくて今の君なんだ。その過程にどんな人生を送ったかなんて気にしなくて良いよ。それを反省したかどうか、それが大切なことだよ。
失敗して悔やんで、二度としないようにと誓って、そうやって成長していく。それが、人生っていうものだから」
「それでも、事実は変わらない」
「雪河はさ、仲直りはしたの?いじめていた子とは」
「いいや。まだだ」
「なら仲直りすればいいんだよ。雪河には勇気があるし、優しさがある。だから君のその気持ちが伝われば、きっと仲直りだってできる。それに向き合うくらいはしないと……君は自分を嫌いなままでいる。そういうのはさ、時間が忘れさせてくれるけど、突然思い出されてもしまう。だから仲直りしてね。その子と」
「うん、そうするよ。ありがとな。俺のこんな変な相談にのってもらって」
「良いよ。君は私を救ってくれた、その恩返し」
「ありがとう」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
彼は向き合った。己の過去に。
咲藍、彼女の優しさに背中を押されて。
冴島雪河、彼は遠く離れた街である人物を見掛けたという情報を聞きつけ、その場所へ赴いた。
ある店の前で仕入れ作業中の彼へ、雪河は話しかけた。
「優大、久しぶり」
優大は雪河を見るや、明らかに嫌な表情を浮かべる。
「今さら何の用?また僕をいじめるつもりなの?」
「優大、あの時は本当にごめん。本当にごめん」
彼は優大へ頭を下げた。
それを見ても、優大は特に何か言うこともなく、仕入れ作業を刻々と進めていた。
「で、それだけのために君はわざわざこんな遠い街まで来たの?」
「ああ。謝るべきだと思ったから。あの時犯してしまった過ちに対して。許してもらえなくて良い。ただ謝りたい」
「そう」
素っ気ない返事を返し、彼は作業を続けながら雪河の顔を見ることなく言った。
「まあでも、僕は君をもう妬んだりはしていないし、憎んだりもしていない。たとえこれが君の自己満足でも、僕はちょっとはスッキリしたよ。かつて僕をいじめていた君が、こうやって頭を下げているんだから。二度と来るなよ。それに今は仕事中だ」
「すまなかった。失礼するよ」
雪河が背中を向けた瞬間、優大は言い忘れていたかのように呟いた。
「君は重く考えすぎだ。だから、そう深く考えるな。僕は今新しい人生を送れているから。君たちにいじめられていたことなんてすっかり忘れたよ」
「だが、」
「まああの時はお互いに守りたい立場があったからね。君が守りたかったものと、僕が守りたかったものは非常に似ているよ。それだけだ。とっとと去れ、素早く去れ、いい加減去れ」
最後早口で雪河へ言い、雪河を追い返した。
雪河が遠くへ行った頃、優大は聞こえないような小さな声で言った。
「やっぱお前は僕に似ているよ。冴島」
優大は遠ざかる雪河の背中を眺めていた。
雪河はまだ心にもやもやを抱えつつも、過去の業と向き合ったことで少しはうまく笑えるようになっていた。
雪河は電車を待つ駅の中、空を見上げて呟いた。
「ありがとな、咲藍。咲藍のおかげで向き合えたよ」
そうやって、彼は一歩進んだ。
進み退がり退がって進む。
一日一歩、それよりも遥かに遅く、その分正しい一歩を。




