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私を縛る偽りのアイラバー

 つい先日、私は怪我をし、保健室へ運ばれた。それは足を軽く捻挫しただけであったものの、一人で帰るのは危険だということで雪河と一緒に帰っていた。

 家まで見送られると、彼は私へ訊いた。


「なあ。携帯とか持っていないのか」


「一応持ってるよ」


「な、ならさ、交換しない」


 昨日、私は雪河と電話番号を交換した。と言っても、私の携帯で使える機能は電話だけという特別仕様になっていた。私はその携帯を握り、考えていた。

 雪河、彼は本当に優しくて、いや、私に優しい彼はきっと他の人にも優しいんだ。けれど私は目が見えないから、その優しさは全て私へ向けられたものしか分からない。

 だから私は彼を思う。私は彼を思っているーー


 けれど、私は幸せにはなれない。

 だって私はあの日、自分の手で幸せを切り裂いたのだから。


 私はベッドの上に横たわり、目を何度も触っていた。戻らないはずの目に悲しみを抱きながら、後悔を抱えながら。


「うわぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」


 部屋で一人、私は苦しんだ。悲しんだ。

 後日、午前十時、私の携帯の電話が鳴る。それに出ようと私が机へ手を伸ばすと、いつになく強い力で私の腕は掴まれた。


「おい咲藍、お前、授業サボっているらしいじゃねーか。そのせいで学校から電話来たぞ。パチンコで負けたすぐ後にそんな電話が来たからさ、マジで腹立ったんだ。しかも向こうは上から目線でさらに腹が立った。マジで腹が立ってさ、それで八つ当たりさせろよ」


 いつになく怖い声で、義理の父の声が私が身震いを起こすほどに放たれた。

 私の腕を掴んだまま、義理の父は私をベッドの上から床へと投げ飛ばした。壁に背中をぶつけ、私は激痛を感じていた。

 でも、それは序章に過ぎなかった。床に横たわる私へ、義理の父は何度も拳を振り下ろした。その様子を、近くにいるであろう義理の母は笑っていた。


 やめて、もうやめてよ……。


 初めて顔を殴られた。

 今まで、虐待を受けていると気付かれないように義理の父は服で隠れる場所は殴ってこなかった。けれど今初めて顔を殴られ、私は義理の父に初めて抵抗した。

 だけど見えない私では大した抵抗はできなかった。それに力の差で私は殴られることを防ぐことはできなかった。


 痛くて、苦しくて、辛くて、私は泣き叫びたかった。

 助けを求めようにも、誰も私を助けてはくれない。助けなど呼べるはずもない。

 盲目の私の声は、誰にも届かない。


 殴られている最中、手もとに何か転がっているのに気付いた。それは携帯電話だ。

 私は覚悟を決め、携帯を手に取り、すぐに電話をかけた。


「咲藍、何してんだ」


 そう義理の父が叫ぶ中、携帯からは声がする。


「柳原さん、どうかしたの?」


 それは雪河の声だった。

 私はすぐに叫んだ。


「雪河、助けて」


 そう叫んでいる途中で、私の携帯は真っ二つに折られた。これでいよいよ助けも来ない。

 きっとただの掛け間違い電話だと思われるのだろう。私はもう、救われない。


「咲藍、無駄な抵抗をしやがって」


 その時、インターホンが鳴った。間髪入れずドアが開き、何者かが階段を駆け上がった。


「お前、人の家に勝手に上がってんじゃねー」


「お前の方こそ、咲藍に何してんだ」


 その声音から彼が怒っているのが分かった。

 その後、ビンタされた音が聞こえた。一体誰がビンタされたのか定かではないが、少なくとも私の腕を掴んでいる義理の父ではないだろう。


「お前、不法侵入で警察に訴えてやるからな」


 それは義理の母の声だ。

 だが雪河はそれに怖じ気づくことなく、言った。


「それならばお構い無く。既に警察は呼んである。もうすぐ来るでしょうよ。ここに、警察が」


「お前……」


 父が私の上から離れた時、パトカーのサイレンの音が響き渡った。


「ちっ」


 その直後、複数人の足音が聞こえ、義理の両親は複数人に取り押さえられ、捕まった。


「咲藍、全部終わったよ」


「雪河……ありがとう……」


「咲藍、俺のもとに来い。もう一人にはしない。ずっと側に居続けるから……だから、もう一人で苦しむのはやめろ」


 私のSOSを受け取り、彼は私を救ってくれた。

 そんな彼に私は心底嬉しく思い、心底感謝を抱いた、


「うん……」


 私はそう返答をした。


「咲藍、行こう。俺の家族のもとに」


 私は雪河の手を握り、義理の親のもとから立ち去った。

 私は、私を縛りつけていた義理の両親から解放された。


 ようやく、ようやくだ。

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