08
ラストが近いこともあって、更新が遅くなってしまい申し訳ないですうううう(泣
「そんな……わたし達が……」
神様がどうして人を作ったのかなんて、考えたことも無かった。
教会の教えのように、何となくわたし達は祝福されて地上で生きる権利を与えられたのだと、その程度の認識だった。
でもまさか世界を創世した神様が実は別世界の人間で、その目的は彼ら自身の欲求を満たすためだったなど、にわかには信じられないことだった。
「もちろん代替も模索した。自分達を全肯定してくれる存在を創ってそばに置いたこともあった。……だが、人を満たせるのは、人だけだった」
1度決めてからはあっという間。
魔物を生み出す技術を人に用いて、“人とみなさなくていい人類”が造られた。
エルフやドワーフといった亜人も、彼らの世界の伝承を元に特徴を持たせただけの、同じ人間だとパルコさんは言った。
「舞台となる世界観を整え、産み出した人間の成長を促進させて記憶を改変し、住人を作る。王も兵士も農民も奴隷も、元は平等な人間だ。そうやって彼らに都合の良い……44億分の懊悩を紛らわすための世界が創世された」
望まれたのは魔物の脅威に苦しむ人間達。手を差し伸べてあげられる弱者そのものが必要とされていた。
彼ら自身が来訪した時、欲求を満たせるようにと。
「じゃあもし、そっちの世界の人がこっちに来たら」
「お前達より遥かに強力なスキルを手にして現れた彼らは、冒険者や騎士団が束になっても敵わない魔物をたやすく打ち滅ぼすだろう。そして、多くの人間から称賛される」
「……そんなお芝居みたいなもので、本当に満足できたんですか?」
「本心はわからない……だが他にも似たような世界がいくつも作られ、彼らは生活の多くを積極的に異世界で暮らすようになり、そして“英雄”になっていった」
誰かに必要とされたい。
特別になりたい。
そんな当たり前の思いを、彼らの思想は否定していた。
“弱いままでいられる世界”とは、裏を返せば“誰も必要としない世界”のことだったから。
息の詰まるような現実から目を逸らすためには、精巧な幻想を作り上げるしかなかった。
「……そうすると、もう何人かはこっちにやってきて名前を残してるわけですよね。でもそんな強くて有名な人いましたっけ?」
「うーん、ちょっと心当たりは……」
歴史書を紐解けば偉人の名は列挙されているものの、ほとんどは政治や学問への貢献によるものだ。戦士としての栄誉を称えらた人もいるにはいるけれど、突出したスキルを持っていたとかは聞いたことが無い。
というよりも、そもそも今はどうなっているのだろうか。
現在もパルコさんの世界の人々がやってきていて、どこかで活躍しているのだろうか。
すると、彼女は。
「無い」
「え?」
「…………ユーザネイジアが生まれて3百余年、彼らがこちらを訪れたことは――1度もない」
それは、耳を疑うような言葉だった。
「始まってすぐ、製作者――フヒト様との連絡が途絶えた。どれだけ呼びかけても返事は戻って来なかった。……それきりだ。今日まで、あちら側の誰もこちらに来たことはない」
空を仰ぎながら語る声は、虚しげなものだった。
「本国で何かあったのだろうな。こんなに長い間、誰も様子を見に来ないのは異常だ。……それでも、私達は世界の管理者として待ち続けるしかなかった」
託された者として、彼らの拠り所として作られた世界を守ろうとした。
世の中が変わらないよう、魔物を生み……命を奪い続けた。
「先日お前達の落ちた空間は“ドゥーム・アビス”、フヒト様が遺した企画の1つだ。定期的に厄災をもたらして救わせるというサイクルが重要だった。……お前達にはいい迷惑だっただろうが……だが、待つのも、もう終わりだ」
「……パルコさん?」
彼女は1度、顔を綻ばせてから。
「私を、殺してくれ」
冬の大気のように清々しさを残す声で、そう言った。
「すまなかったな……私達の都合を押し付け、お前達の先へ進もうとする意志を妨げて……意味の無い殺戮を繰り返してしまった」
――本当に、無意味な行為だった。
「ずっと見てきた……人間が互いに協力し合って懸命に生きる姿を。……お前達は強い。この世界はもしかしたら、あの方達と違う未来を往けるかもしれない。だがそのためには……精算が必要だ」
――後はもう、自由にしてやりたい。
「プレイアがいない以上、自然交配以外で新たな魔物は生まれない。お前達ならいつか全ての魔物を倒し切るだろう。管理者はあと1体いるが、あいつは無駄な争いは好まない……残る脅威は私だけだ」
――この世界は、お前達のものだ。
「彼らに造られたものの象徴として、私の命をもって、この世界を解放したい」
全てを諦めたように告げる彼女に、わたしは。
「……わたしの友達ならきっとこう言います。“そんなに殺して欲しかったら、もっとクズい言動をしろ。本心なんか隠したまま勝手に挑んで倒されろ”って」
「…………」
「世の中が間違っているから人間全部が不幸――そんな考えだからおかしくなってしまったって、気付かないんですか? この期に及んで勝手な理想を押し付けて、あなた自身がとらわれてどうするんですか」
「……それは」
「あなた達のお陰で今の世界があるのなら、そのことには感謝しか無いですよ。生まれて来ないほうが良かったみたいに言われるほうがムカつきます」
どんな理由で世界が作られていようと、生まれた以上は誰だって懸命に生きている。
辛いことや悲しいことがあっても、失敗してくじけてしまっても。
立ち直って、前を向いて、自分の手で幸せを探そうとしている。
そんなわたし達の努力を否定して欲しくなかった。
「気持ちに区切りがついたんですよね? だったら今度は、パルコさん自身のしたいことを探したらいいじゃないですか」
「私の……」
「そうです。誰かのために何百年も戦ってきたあなたなら、きっと違う道を見つけられます」
人の強さも弱さも両方知っているあなたは、ただの殺戮者じゃないと思うから。
沈黙する彼女に、ふとエコー君が口を開く。
「あの、パルコさんなんですよね。この森で僕を助けてくれたのって」
「…………」
「エルフ達に襲われて本当は死んでいたはずの僕を、さっきのスキルで救ってくれたんですよね? この《フリーズ》をくれたのも……」
「……ただの気まぐれだ。お前達を見た時、あの方々が戻ってきてくれたのだと思った。止まっていた時間がやっと動き出したと思ったのに、水を差されたくなかった。……全部、自分のためだ」
「それでも、ありがとうございました!」
元気な感謝の声に、困ったように眉根を寄せてパルコさんは笑みを浮かべた。
それから立ち上がった彼女はどこまでも人間らしい表情で一言「こちらこそ、ありがとう」と口にした。
魔物の彼女に言うのも複雑だけれど、もう大丈夫だろう。
「そうだ、パルコさん。話は変わりますけど、お願いが」
「ん? 何だ」
わたしのお願いを聞いたパルコさんは意外そうな顔をしたものの、理由を述べるとあっさり応じてくれた。
それから挨拶を交わした後、彼女はわたし達に背を向けて雪の降りしきる森の中へ消えていった。
「……戻りましょうか」
「はい……!」
☆★☆★
「仇を討つんじゃなかったのかィ」
「ピースオーダー……お前がそうしたいなら、別に止めんぞ」
「フン、キミを見逃したんダ、チャラにしてやるサ。おっしゃる通り、アタシは無駄な争いしない主義だからネ」
「……スネているのか?」
「当たり前だろゥ、勝手にいなくなろうとするナ。キミだってわかるだロ、一言も掛けられずに置き去りにされる者の気持ちは……」
「……そうだったな、すまない」
「本当だヨ。言っとくけどアタシは諦めないからねェ。ひとりでも調整を続けてやるかラ」
「拠点とのパスが繋がらなければどうにもならなんだろ」
「いヤ、まずはプロト・アビスだ。あそこならまだワームホールの残滓があるはずだから見つけテ解析を。ああ、せめてあっちに意思の通じる魔物の個体が残っていれバなァ……」
「……フッ、頑張れよ」
「なに達観してんダ! キミも協力するんだヨォ!」
「いや、私は自分探しの旅に出ようと」
「そんな旧々々々々々世紀の人間みたいな真似させるカ! いいから来イ!」
「わかったよ、引っ張るな」
…………いい世界だな、本当に。




