妄執 ある男児の視点
読みづらいかと思いますがご容赦を。
「ちょっとアレッサ! あんた、また人のものをたべたでしょ!」
「どれだけくいいじがはってるの! 今日という今日はもうがまんならないわ!」
アレッサちゃんにつめ寄っているのは“にしべや組”の女の子たちだ。
しょくじはみんないっしょにたべるから、ぼくら“みなみべや組”とも顔をあわせるけど、あの子たちはアレッサちゃんをきらっている。
理由はかんたん、目をはなすとすぐにごはんをたべられてしまうからだ。
「だって、もういすを立ったから、いらないんだと思って」
「そんなわけないでしょ! 外をネコがとおったから、ちょっとながめに行ってただけじゃない!」
「ネコっておいしいのかな」
「たべるなー!」
「ごめんね、アレッサってほんとくいしんぼなの。アタシもあやまるからゆるしてあげて」
「カーナにあやまられたって、あたしはおなかぺこぺこよ! こんどというこんどはゆるさない!」
「うう……ヴィクトくんたすけて!」
「まあまあ。わるぎはないんだ。おれも言いきかせるからさ」
アレッサちゃんは目の前にたべものがあると、へいきで口をつけちゃうんだ。
ぼくも何回たべられちゃったか、わからない。
「もう、すぐ男子のうしろにかくれるんだから」
「そんなにうらやましがらなくても」
「なんですって!!」
「アレッサ、今のはよくない!」
「早くみんなにあやまって!」
「え――!?」
アレッサちゃんはひといちばいバカだった。
てんねんで空気がよめないところがあった。
「ラビ、なんとかしてくれ!」
「え!? う、うん」
いきなり話をふられておどろいたけど、けっきょくいつもぼくが何とかすることになる。
「ほらアレッサちゃん、パンをわけてあげるから、あやまって」
「ごめんなさい、ぜんめんてきにしゃざいします」
「しゃくぜんとしない!」
「いいのか、こんなので……」
「あはは……」
ぺこりと頭を下げてささっと寄ってきたアレッサちゃんにパンをあげると、うれしそうにほおばった。
「うまうま」
まったく、どうしようもないんだから。
でもそんなきみが、ぼくは好きなんだ。
だからほんとは、ぼくのうしろにかくれてほしかった。
☆★☆★
ヴィクトがとんでもないことを言い出した。
『ぼうけんしゃ』なんていちばんきけんなしごとじゃないか。
ぼくは反対だったけどアレッサちゃんたちが乗り気になってしまい、ぼくも話にのらざるをえなかった。
「……アレッサちゃん、よかったの?」
「なにが?」
「ぼうけんしゃになるってはなし。……あぶないし、きっとたいへんだよ」
「でも、みんなで決めたことだから」
「だけど……」
「わたし“おうち”を出たあとも4人でいたい」
「……そう」
ぼくがいっしょにいたいのは、きみだけだよ。
「だいじょうぶ。ヴィクトくん、あんなにはりきってるんだもん。みんなでささえてあげようよ」
……なのにきみは、ぼくの心をわかってくれない。
なんであいつの話しかしないんだよ。
☆★☆★
「いてて、すりむいた」
「ほんとだ。じゃあひーるするね」
「ああ、たのんだぜ」
きずの手当てはアレッサちゃんのやくめ。
でもまほうはまだつかえないから、きゅうきゅうばこのくすりや布をつかう。
「うーん、どれがきずぐすりか、わすれた」
「おい」
「もう手のほどこしようがない、きっちゃだめ?」
「だめにきまってるだろ!」
ふたりのようすをうかがっていたカーナが言った。
「ヴィクトもアレッサもいいふんいきね」
「……そう?」
「あのふたりはきっと、べすとかっぷるになるわ」
……どこが。
あいつの、どこがいいんだよ。
☆★☆★
「はあっ! たあっ!」
「うう……この!」
「「ふたりともがんばれー」」
ヴィクトのしゅぎょうにつきあうのは、ぼくしかいない。
さいしょは剣のかわりに、そのへんにおちていた木のえだでけいこしたけど、あぶないとおもった先生が全体を丸くけずったぼくとうを作ってくれた。
「もらった!」
「うわあっ!」
「ヴィクトがかった!」
ヴィクトより背も小さくてやせているぼくは、いつもやられ役だった。
たぶん、そういうたいしつなんだとおもった。
「だいじょうぶか、ラビ?」
「うん……でもぼくやっぱり剣はむりだよ」
「ラビくんぜんぜん大きくならないからね」
「ひとごとみたいだけどアレッサのせいよ」
「えっ」
「おまえがラビのパンをすぐもらうから、えいようが足りないんだ!」
「ラビにやさしくされても、もうたべちゃだめ」
「がーん」
そんな。
ぼくはそれでもいいのに。
「あの、ぼくは」
「いいから。おまえはもっとたべないと」
「うう……今までごめんね、ラビくん」
それからアレッサちゃんは、ほかの子の分はたべても、ぼくの分はたべなくなった。
☆★☆★
よる。
アレッサちゃんをじゆうにできるじかんがきた。
「すうすう」
こっそりベッドにしのびよったぼくは、ぐっすりとねむっているアレッサちゃんの毛布にもぐりこんだ。
1度ねるとアレッサちゃんは、あさまでめざめない。
ぼくは同年代の子より、そういうのがちょっと早いみたいだ。
アレッサちゃんを見てるとからだがおかしくなるんだ。
ぼくとちがって、アレッサちゃんはからだの成長が早い。
もっとたべて、早くりっぱな女の子にそだってほしかったのに。
ああ。
手をにぎったり、うでをさわっているとおちつく。
ここも、また大きくなってきたかな。
どうだ、ヴィクト。ぼくはおまえなんかよりアレッサちゃんをしってるぞ。
このやわらかいからだ、ぜんぶぼくのものだ。
「…………」
今日はいよいよアレッサちゃんのくちびるをうばう。
このままじゃ、いつかヴィクトにとられてしまう。
そうしそうあい。
こんなに仲むつまじいんだ。ぼくらだってそろそろ。
「はぁ……はぁ……」
月明かりにてらされるぷにぷにしたくちびるが、すぐそこにある。
もうちょっと、もうちょっとで――
「…………えっ」
あおいひとみが、ぼくを見ていた。
アレッサちゃんが、かんじょうのないかおを向けている。
ぼくはうごくことができなかった。
そして。
「やめて」
ぼくはきょぜつされた。
つめたいあせがわきからふき出して、体をつたっていった。
☆★☆★
「ふああ、おはようラビくん」
「お……おはよう」
つぎの日。
アレッサちゃんはなにくわぬかおで、ぼくにあいさつした。
さくばんのことは、ぜんぜん気にしているそぶりはない。
もしかして、ねぼけていたのかな。
でも、おひるやすみになってすぐ。
カーナがぼくに言った。
「ねえ、ラビ。アンタねぞうがすごいんだって?」
「えっ」
「アレッサからきいた。さいきん、よるになるとアンタがもぐりこんできて、たいへんだって」
「っ!?」
――気づいてたんだ。
「どうやってベッドをこえてくるのかわからないけど、くすぐったくてねむれないって言ってたわ」
「…………ごめん。気をつける」
「そうしたほうがいいよ。へんたいさんになっちゃう」
ああ。
ぼくは。
こいつらがきらいだ。
☆★☆★
「ラビ君、どうしよう……! ヴィクト君もカーナも、いなくなっちゃったぁ……!」
泣き崩れるアレッサちゃんを見て、ぼくの胸は高鳴った。
当然だ、ずっと邪魔だった奴らが死んだのだから。
ようやくぼくの願いが叶うのだから。
「いい気味だ」
――ざまあみろ。
心の底からそう思った。
お前らさえいなければ、ぼくはもっと早くアレッサちゃんを手に入れていた。
もう障害となるものは何ひとつない。
アレッサちゃんには、ぼくしかいないんだから。
(でも……そうだね)
簡単に手を差し伸べたんじゃ、ぼくのありがたみがわからないかもしれない。
ここは見捨てよう。
だって、ぼくたちは夫婦になるんだもの。長年ぼくが味わってきた苦しみをきみも知るべきだ。
絶望して、きみにはぼくしか頼れるものがいないんだと、わからせよう。
☆★☆★
――誰だ。
その女とガキは、誰なんだ。
答えろよ、アレッサちゃん。
きみには友達なんかいないはずなのに。
「無意味な時間を送ってたのは――お前だろ」
誰だ。
お前は、誰なんだ。
どうしていつも邪魔が入るんだ。
ぼくがどれだけ想っていたかわかるか。
「ねぇラビ。怖い顔して、どうかしたの?」
「い、いいのか……? 本当に付き合ってくれるんだな……!」
こんなどうでもいい女は次々寄ってくるのに、本当に大切な人はどんなに頑張っても振り向いてくれない。
……畜生。
あいつらだ。
あいつらはまだ生きているんだ。
でもどうする。
死んだ人間をどうやって消せばいい。
ああ、ぼくは。
どうしてきみと、出会ってしまったんだ。
次回より最終章スタートとなります!




