表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/91

更新遅れて申し訳ないですうううううう(泣

「もきゅもきゅ……ごくん。ふああ……美味しい! あ、それはそこに置いといてください。それと追加でこのオークソテーとチルスの丸焼きもお願いします」


 目の前のテーブルには、香ばしい匂いを放つ料理が次々と運ばれてくる。

 肉料理、サラダ、スープと種類も様々。

 わたしはそれらを片っ端から頬張っては、テーブルの空いた箇所を埋めるように新たな注文を繰り返していく。

 もきゅもきゅ……ふああ、美味しい!


「本当に、よくそんなに食えるわね。しかも前よりペースが上がってない?」


 向かいの席に座るディーが、エールの注がれたジョッキを片手に呆れたような声を上げる。

 町に帰還して早一週間。怪我と疲労からずっと休養していたディーの体調が戻ったところで、わたしは改めて異界からの生還をお祝いするため酒場を訪れていた。


「今まで食べ物があまり喉を通っていなかったので、その反動もあるかもしれません」

「あれで食欲不振だったの……まぁ、元気になったのは何よりだけど」

「はい! それもこれも2人のお陰です! というわけで今日はどんどん食べてくださいね! リーダーのわたしがお勘定を持ちますから!」


 後日冒険者ギルドで聞いた話では、王国を含む世界各地に出現していたグランドフォールはその日の夕方までに全て消滅。

 魔物に傷を負わされたものが理性を失ってしまうという特性上、犠牲は少なくなかったものの、現在は掃討も完了して世界は元の平穏を取り戻していた。

 迎撃戦の参加報酬が支払われたのは、つい先日のことだ。

 間が空いたのは、当初の発表であるパーティーで『聖玉』級相当分だった報酬額が“1人につき『聖玉』級依頼1回分”という破格の金額に変更されたためだ。

 冒険者パーティーが軒並み壊滅したため、予算が大きく浮いたのを見越したカファールさんが、財務担当者と騎士団に掛け合ってくれたらしい。

 何しろ異界で倒した魔物は『聖玉』どころか『神翠石』、それも伝説級の存在である3体の魔物の1体。本来は騎士団総出でやっと渡り合えるような相手をわたし達だけで倒したこともあり、その功労に報いたいと説き伏せてくれたのだとか。

 ちなみに、最終的にプレイアを倒したのは冒険者部隊の陣頭指揮を執ったカファールさんということにしてもらっている。

『神翠石』級を倒した冒険者ともなると国が放っておいてくれなくなってしまうし、わたし達3人とも目立つのは本意で無かったのもあって、手柄を全面的に譲った形となった。

 お陰でカファールさんの評価は急上昇、次期騎士団長の呼び声もあるのだとか。

 報酬の増額は彼なりの感謝も込められているのだと思う。


「いくら大金が入ったからって毎回こんなに食べてちゃ、すぐ無くなるわよ」

「わかってますよう。ふああ……! このお肉、柔らかくて口の中でとろけてきます……!」

「美味しそうですね! 僕も頼んでみようかな!」

「あ、ちょっと待ってください。こうして切り分けて……はい、あーん」

「えっ!? その、僕そんなつもりじゃ!」

「いいんですよ、あーん」

「い、いただきます……! あーん……もぐもぐ」

「ふふっ、美味しいですか?」

「は、はい! とっても!」

「初々しいわねぇ、味わかってそうにないけど」

「ディーもどうぞ。あーん」

「は!? なんでワタシまで」

「リーダーとしてメンバーは平等に扱わないといけないですから。だから、あーん」

「いやいや、いいから」

「食べると大きくなりますよ」

「は? 成長ならとっくに止まっ……あ、ソッチ!? ぐぐぐっ……ああもう! もぐっ」

「えへへ」

「ハァ……あんた本当はそんな性格だったの?」


 溜め息を吐きながらエールを飲み干すディー。

 そんなこと言われても、どうしても舞い上がってしまうのだから仕方ない。


(だって――仲間と、友達と一緒にご飯を食べているんですから)


 友達の顔を見ながら料理を食べるとこんなに美味しくなるなんて、以前は気付いてもいなかった。

 これも、みんながわたしを支えてくれたお陰だ。

 ヴィクト君達だけではなく、いつかエコー君とディーにもお返しできたらと思う。


「そういえばお姉さん、お昼に王城へ呼ばれてましたよね。どんな用だったんですか?」

「あ、そうでした」


 エコー君に尋ねられ、わたしは大事な報告をし忘れていたことに気付く。

 フォークとナイフを動かす手を止めて、わたしは2人に向き直る。

 そして、大きく息を吐いた後。


「わたし達のパーティーですが、近日中に『黒晶』級へ昇格する予定です」



 ☆★☆★



 時間は遡って同日の正午過ぎ。


 昨日のうちに王城への呼び出しを受けていたわたしは、時間に余裕を持って到着したあと城内の控え室で声がかかるのを待ち続けていた。

 これがカファールさんや騎士団からの呼び出しであれば、冒険者関連の用事だと察しがつくのだけれど、招集を指示したというのが畏れ多くも王国の()()()だというから、用向きがさっぱりわからなかった。

 今年で48歳になられる王妃様は、1人で6人もの御子をもうけられている。

 年に数回行われる式典では、国王陛下とご一緒に国民の前にも姿をお見せになるものの、わたしは見物したこともないためにお顔すらわからない。

 そもそも平民の、それも一介の冒険者のために時間を割くこと自体、異例中の異例であり、有り得ないはずだった。


「待たせたな。間もなく王妃殿下のご支度が整うので、ついて参れ」


 廷臣の1人と思われる男性に呼ばれ、言われるがままにわたしは謁見の間へ続く絨毯の上を歩く。


「あの、どういったご用向きなのかご存知ですか?」

「それは王妃殿下が直接お話しになられる」

「はあ……」

「ふむ、1つ忠告しておこう。何を見ても平静を保つことだ」

「えっ。ど、どういうことです?」


 それ以上は答えてもらえず、厳かな空間が広がる謁見の間に通されたわたし達は、頭を垂れて王妃様を待つ。

 やがて衣擦れの音がして玉座に人の座る気配がすると、どういうわけかすすり泣く声も一緒に聞こえてきた。


「待たせたわね、面をあげなさい」

「…………っ!?」


 促されてそちらを向くと、わたしは危うく変な声が出そうになってしまった。

 王妃様にではない。その膝に腰掛け大泣きしている第6王子に対してだ。

 唖然としているわたしを前に、やや厚めの化粧に豪奢なドレスを纏った王妃様は巨漢の王子を苦も無く抱えながら言葉を続けた。


「聞けば、魔物の巣食う世界に落とされたボンを命懸けで守ってくれたそうね。我が愛し子を救ってくれた功績を称えると同時に、母としてお礼を言わせてもらいます」

「ぼ、ボン?」


 すると近くに控えていた廷臣の1人が小声で「第6王子の愛しょ……敬称だ」と教えてくれた。


「勿体ないお言葉ですが、その、畏れながら申し上げます。直接お守りしたのは騎士の皆様で、わたし達は直接王子殿下をお守りしたわけではありません」


 生存者には、ずっと王子の護衛に就いていたカファールさん配下の騎士2人も含まれている。称えられるべきは護り切った彼らだろう。

 けれど王妃様は。


「上の子達と違って、ボンはこの通り繊細な子だから、今も魔物に襲われたことを思い出して泣きじゃくっているの。貴方、子守唄を歌ってくれたそうね。私も小さい頃は子ども達によく歌ってあげていたのだけれど、お陰で眠っている間は私の夢を見ていたそうなのよ」

「うわぁ~ん、ははうえ~! 襲われたなんて言われたら思い出しちゃうブヒィィィ!」

「おお、よしよしよしよし。ここにはもう魔物はいませんからね~。ママがずっと傍にいますからね~? ほぉ~ら、むちゅ~」


 こちらの目も憚ることなく王子のほっぺを吸い上げるようにキスをする王妃様。

 目の前で起きていることが信じられず、わたしは茫然とする他なかった。

 ややあって廷臣の1人が小声で諌めると、王妃様は我に返ってこちらへと向き直った。


「ゴホン、失礼したわね。ともあれ貴方の唄には救われたそうなのよ。よくやりました、褒めて遣わします」

「こ、光栄でございます」

「何か褒美を取らそうと思うのだけれど、希望はお有りかしら」

「そんな、お気持ちだけで――」

「謙虚は美徳よ。でも考えて。王族が命を救われたものに対して何もしなかったというのが、どんな醜聞を生むか。第6王子には褒美を取らせる価値も無かったと評されたら、ボンの未来はどうなるか。遠慮は不要よ。これも王家への忠誠と考えなさい」

「は……はい」


 つまりは面子の問題なのだろう。

 けれど急にそんなことを言われても、思いつくわけもなく。


「ちなみに、貴方達を率いてボンを守った騎士団の副長の彼には、準男爵の称号を授与したわ」


 副長というとカファールさんのことだ。

 準男爵なら騎士の更に上の称号であり、貴族と平民の中間に位置する身分。

 かなりの出世と言っていいだろう。


「あ……それなら、わたしも似たようなものを賜りたいのですが、よろしいでしょうか?」



 ☆★☆★



「というわけで、冒険者ギルドに掛け合ってもらうことになりました。近日中に、昇級が決定すると思います」


 初めのうちはそれが栄誉になるのか懐疑的だった王妃様だけれど、過去に王族を助けて昇級したという例が無いことを廷臣から聞かされると、すぐに冒険者ギルドへ取り計らうことを約束して頂けた。

 おそらくは第6王子が最初の例となる付加価値を見出したのだろう。


「へえ。今の王妃が子煩悩だって噂はあったけど、本当だったのね」

「やりましたね! これで『白銀』まであと1つです!」


 そう。

 後7つ依頼をこなしたら、わたしは晴れて『白銀』になる。


「あ、でも……もし『白銀』になったら、僕達のパーティーは解散でしょうか?」


 エコー君が寂しげにそんなことを口にする。


「大丈夫ですよ、何とかなりますから」

「そうでしょうか?」

「だって、わたし達ですもの。後のことはまだ決めてませんけれど、きっとなんとかなります。だから今は、美味しいものを一杯食べて楽しんでください」

「……はい! お姉さんがそういうなら!」


 宴の時間は店が閉まるまで続いた。

 また近いうち、3人でご飯を食べようと思う。


 エコー君には先に帰ってもらった後、わたしはディーと一緒に郊外の丘を訪れていた。

 少しだけ肌寒さを感じる風にうたれながら、草の上に腰かけたわたし達は燦然と輝く星空を見上げた。


「綺麗ですね」

「そうねぇ。まるで宝石が浮かんでるみたいだわ」

「そのまま過ぎる例えですね」

「語彙力なくて悪かったわね」

「すねないでくださいよう」


 わたしだって一緒です。

 捻りのある表現なんか思いつかないですよ。


「……良かったんですか?」

「何が」

「わたしの命ですよ。依頼失敗で、良かったんですか」


 “それでも堪えられなくなったら――”。


 あの世界で掛けられたあの時の言葉は、そういうことなのだろう。

 一体いつからなのか。


 ディーは、わたしの暗殺を諦めていた。


「仕方ないわよ。殺したくないって思っちゃったんだもの」


 どさっと芝生の上に寝転がるディー。

 その表情は見たことがないほどすっきりとしていた。


「性格とか、絶対合わないと思うんだけどねぇ。何でなのかしらね」

「わたしは相性ばっちりだと思います」

「無いわぁ。でも、そうね。そうなのかもしれない」

「依頼主にはなんて説明するんですか?」

「もう死んでるから、必要ないわ」


 その言葉に、わたしは目を丸くする。

 そうなると殺害を頼んだ人はかなり限られてしまう。

 おそらくは――あの人だ。それがわかっても理由まで考えるつもりは無かった。おそらくは、理解できないだろうから。


「でも、経歴に傷がついちゃいますよ」

「何よ、殺して欲しかったの?」

「いいですよ。あなたになら、殺されても」

「そう思うなら――」

「クズい言動をしろ、ですか」

「そうそう。自分で決めて、そうしなさい」

「無理ですよう、あなたに嫌われたら今度こそ生きていけないです」

「あはは、そりゃあいい弱点見つけたわ」


 相変わらず吹っ切れた顔をしているディーがぽつりと言う。


「いいのよ。1回くらい失敗してるほうが信憑性が増すわ」

「そんなものですか」

「場数が違うからね。依頼達成率9割9分9厘9毛のほうが信憑性があるってものよ」

「……さすがに冗談ですよね?」


 それだと1万人は殺していることになるんですが。

 そこらの魔物なんか問題にならない厄災ですよ。


「当たり前でしょ。そこまで業が深く無いわよ」

「人数の問題でもない気がしますが……でも、たとえそうだとしても、わたしはあなたを嫌いませんよ」

「本気で言ってる?」

「はい。だって友達ですから。たとえ世界を敵に回したって、あなたを守ります」


 良い悪いとかではない。

 あなたからは多くのものをもらったから、一緒に追われるくらい構わない。

 それでも、あなたの傍にいさせて欲しいと思うから。

 何も答えないでそっぽを向いてしまったディーに、わたしは続ける。


「名前、教えてくれませんか?」

「……?」

「あるんですよね。自分で付けたものではない、誰かからもらった、大切な名前が」


 本名を避けているからこそ、あるのだと思った。

 あなたを表す、本当の名が。


「……あるけど言わない」

「いいじゃないですか。教えてくださいよう」

「まだそこまで好感度が上がってない」

「何ですか、それ」

「とにかくもう少し頑張りなさいってこと。もっと努力して」

「うう……わかりました」


 その時、冷たい風がわたし達を襲って。


「――よ」

「……え?」

「もう帰りましょう。風邪引くわ」


 そう言って立ち上がったディーは、すたすたと離れていってしまう。


「待ってください、送りますよ」

「いい。あんたはカレが待ってるんだから早く帰りなさいよ」

「誰のことですか、誰の」

「わかってるくせに」

「わからないから教えてください」


 まだまだ話したいことはあるんですから。

 それでも彼女は背を向け離れていく。

 でもそれは拒絶ではなくて、どちらかというと照れているようだった。


「また今度ね」

「……はい、また」


 その背中に手を振って、わたしは。



「そっか。――っていうんですね」



 ――いい名前ですね。


 夜風の中、確かに聞こえてきた彼女の名を呟いた。

 季節はもう、冬になる。



 ☆★☆★



 ――パスワードの入力を確認しました。

 管理者No.001=パルバライザー様の入室を許可します。


「13番ノアイテムヲココヘ」


 ――音声入力を認識。

【リセットストーン】の取得に成功しました。


「……“帰りたい”カ……」


 それは、どこに対しての言葉か。

 いや……本当はもう、何百年も前からわかっているのではないか。


「我々ハ…………」


 もう、決着をつけるべきなのかもしれない。

 そして、それができるのは。



 我が同胞プレイアを葬った、あの人間の女だけだ。




長い長い3章はこれにて完結! 

幕間を2つほど挟んで4章(最終章)となります!


読者様からのブックマークと評価ポイントは大変励みになっております!


トラブルが無ければ今後も2~4日に1話を目安に頑張りたいと思いますので、引き続き応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ