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「げほっ……調子に乗るな……!」
1度回復魔法を使って自身を完全回復するものの、毒は何度でも容赦なくプレイアの体力を削っていく。
けれど、そんなことは意に介さないとばかりにわたしを睨みつけ、生み出した“聖剣”を両手に持って彼女は斬りかかってきた。
魔剣を伸ばして迎撃するものの、聖剣に触れた瞬間、わたしの生み出した刃が断ち消えた。
おそらく接触した対象物を圧縮した高密度の魔力で溶解しているのだろう。まともに防御することもままならない剣撃は確かに脅威。
けれど刃はすぐに再生して何度でも敵を強襲する。
「大人しく討伐されてください」
「滅されるのはお前達だ!」
咆哮の後、プレイアの翼に備わった何十本という羽全てが聖剣と同様の透き通った光を帯びる。
背部に備わったそれら切先が向かうのは、わたしではない、エコー君達が倒れていた方角だ。
「この数ならどうにもできない! 今度こそ死ね!」
「っ!?」
咄嗟に視線を移してわたしは驚愕した。
まさか、そんな。
「嘘でしょう!? 2人とも――」
翼から放たれる無数の刃。
いくらフリーズがあろうと、エコー君がディーを抱えて逃れる術はない。
けれどプレイアの位置からでは見えないのだろう。
たとえどれだけその場所を攻撃しようとも、意味がないことに。
2人がすでに――こちらへ駆け出していることに。
「はああああああっ!」
「!? ガッ!!??」
元気な声が聞こえると共に大剣の一撃がプレイアの左側の翼を叩き折る。
魔物の側面に佇んでいるのは、もちろんエコー君だ。
「派手な剣ねぇ。これならあんたも斬れるのかしら!」
「なっ、あぎゃあっ!?」
彼の反対側にいたのは、蒼白な顔に不敵な笑みを浮かべるディー。
その手に握られているのはプレイアが射出した聖剣のひと振り。もう片方の翼を苦もなく両断する。
「2人とも来ちゃったんですか!?」
「すみません体が勝手に動きました!」
「やっぱ観戦してるだけってのは、ごふっ……性に合わないわぁ!」
「吐血しながらそんなこと言われても!?」
相変わらず言うことを聞いてくれないエコー君。
限界の限界まで越えてどこにまだそんな元気が残ってるのか、本当に人間かも疑わしいディー。
(もう、結局こうなるんですから)
心の中で溜め息を吐きながらも、今更だということに気付く。
そうですね。わたし達、そういうパーティーでしたよね。
「そっちから来るなんてっ! 好都合よ……!!」
尚も息を吐き聖剣の振るうプレイア。
けれど今度はわたしの番。
「させません!」
わたしは両手の魔剣を通常サイズに戻すと、全身の力を持って魔物の両肩へと振り下ろす。
どれだけの支援強化がされていようと高速回転を繰り返す刃身は毒で弱った体にあっさりと埋没していく。
そして――
銀色の火の粉に鮮血を混ぜながら、プレイアの両腕が切断され地面に落ちた。
「い……痛……ああ……あああああっ!! 《世界に――》……うぐっ……あ……な、何……!?」
もう1度回復を試みるものの、魔物は力が抜けたようにがくりと膝を落としてしまう。
それは魔力欠乏の症状だった。
程なくしてプレイアを包んでいた支援魔法の光も聖剣の輝きも消える。
超級スキルを何十回と連発できる途方もない魔力量に、ついに限界が訪れたのだ。
「再生効果だけはまだ維持されているみたいですけど、ここまでですね」
「――! ま、待って!」
今度こそ終わりにするべく魔剣を振り上げたわたしに、プレイアは今まで耳にしたことの無い声色で叫ぶ。
「落ち着いて! ……ここで私を殺したら後悔する! 秩序が壊れて人間社会が崩壊するのよ……!」
「……? 虐殺を行うあなたがいないほうが平和になると思います」
悲劇を生んでさんざん秩序を破壊してきた元凶はあなただと思うのに、よくわからないことを言い出す魔物。
「短絡的思考は捨てて! この世界に戦争が起こらないのも全ては私のお陰。私が心を鬼にして人口調整しているからこそ、貴女達はもっと悲惨な殺戮に巻き込まれずに済んでいる!」
「……」
「魔物という共通の敵がいるから人間は団結できるの! 覚悟を求められる統治者は国の安寧を第一に考え、他国を侵略する余裕も生まれず権力の腐敗も最小限に留められる! 民もそんな姿を見て秩序を守ろうと努力する! 私を殺せば自分達で血肉を貪り合う地獄が生まれる、それでもいいの!?」
「またずいぶんと意識の高い命乞いを始めたわね……」
「恐怖で押さえつけることの、どこが理想なんですか」
彼女の懇願は続く。
「あの御方の世界も昔は凄惨なものだった! 人と人の争いが途切れたことは1度も無かった! 剣が廃れれば銃で、銃が廃れれば兵器で! 人間同士が憎しみ合い、何千年と殺し合いを繰り返した! 私がいなければここもそうなる! それを防ぐためには私がこれからも人間を制御して平和を保つしかない! それが貴女達の幸福なの! 人類全体のために、もっと大局的な視野を持ちなさい!」
人間の幸福のため。
……それが、何百年とあなたがやってきたことですか。
「さっきも言いましたよね、幸せは人の数だけあるって。でもそれは、感情が満たされるものでないと意味が無いんです」
「だからそれを与えてやるのが――」
「それがもう間違いなんです。人は幸せを探すために生まれてくる。無理やり押し付けられたものじゃ、心にあてはまる形が違うんですよ」
それが、何百年と変わらない人間の本質。
自分にとって何が幸せなのか悩んで、気付いて、見失って、ふと誰かが教えてくれて。
そうやってわたし達は生きている。
だから――
「わたしの記憶を覗いたのなら、見ましたよね」
「…………!?」
「あなたの神様は、帰りたがっていましたよ」
《セルフヒール》のレベルを上げていて、流れてきた記憶。
そして、最後の言葉。
もう何百年も前に与えられた使命を、ずっと彼女は実行しているのだ。
「もういいんですよ。……全部終わったんですから」
「あ…………ああああああああ、フヒト様ぁあああああ!!!!」
両腕を失いながらも最後の力で上体を起こしたプレイアがこちらへ迫る。
わたしはその体に迷いなく魔剣を振り下ろした。
毒が回り切っていた彼女の体は、あっさりと両断された。
「感謝しています。あなたの神様がいなかったら、わたし達は生まれていませんでした」
「………………っ」
やがて、銀色の体が表面から粉雪のように細かい粒子となって大気に舞い散っていく。
まるで、この世界に溶けて消えるように。
「……終わりましたね」
彼女の体が完全に消滅すると、わたしは剣を降ろした。
その後でいきなり倒れそうになったディーを、わたしは抱きとめる。
「疲れた、もう立てない」
「ええ、おんぶしますから。一緒に帰りましょう。わたし達の世界に」
全身に、彼女の心音と熱が伝わってくる。
傍らに目を移すとエコー君が疲れた表情をしながらも穏やかに微笑みかけてくれている。
それだけで今は満ち足りた。
帰ろう。
そして、3人で色んな話をしよう。
魔物の脅威が完全に無くなったのを確認した後、カファールさん達と合流して、わたし達は長い長い螺旋階段をひたすら上へと昇った。
わたしがディーを、カファールさんがウィノナさんを背負って進む。
程なくして周囲には霧が立ち込め、いつの間にかどことも知れない白い世界を歩くような感覚にとらわれて、気付くとわたし達は夕日の射し込む平原に立っていた。
遠くには見慣れた王都の城壁が見える。
辺りには魔物の死体が横たわったままになっていたものの、戦いの気配はもうどこにも無かった。
「無事に、戻って来れましたね」
背中で寝息を立てるディーに語りかけて、わたしは3人無事に生還した喜びをかみしめた。
異界へ落ちた総人数547名。
冒険者521名、騎士団24名、その他2名、最終生存者数――9名。
多くの犠牲者を出した“グランドフォール迎撃戦”は、こうして幕を閉じた。
第3章-21でヨハンが生存者数を残り9人と言ってますが、プレイアが乗り移っていたヨレンタはカウントに含まれておりません。
ラビは消滅してしまいましたが彼女の分を追加して最終生存者数は9人となっております!
次回で3章も終わりなので、9人の内訳はそちらで書く予定です!




