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「はぁっ!」
真っ先に駆け出したわたしは、正面からプレイアに斬りかかった。
相手は魔法の使い手、こちらは全員が近接職。
距離は取られるだけ不利になる。ならばやることはたった1つ、とにかく畳み掛けること。
全身が銀と同等の硬度を維持していても、さっきディーの攻撃が入っていた通り、表面の耐久を上回ればダメージになるはず。
けれどわたしが振り下ろした斬撃に対して、プレイアは避けるどころか防御の姿勢すら見せなかった。
わたしの渾身を込めた一撃が打ち込まれるものの、火花が舞い散ったのみで怯んだ様子すら見せない。
「そんな安物の剣じゃ、攻撃にもならない」
スキルで強化されているわけでもなければ近接が本職でもないわたしの力では、表面を削ることさえ難しいようだ。
「だったら、これなら!」
今度はカーナの杖を創出して《ダークネスエッジ》を繰り出す。
中級魔法の威力ならば、たとえ仕留められなくてもダメージにはなるはず。
けれどそれも――
「《エレメンタルガード》」
プレイアが魔法を唱えると薄蒼の輝きが体を包む。すると闇の刃は外皮に直撃した瞬間に反発して地に落ちてしまった。
バリア――ではない。
支援魔法を使って自分に魔法耐性上昇の効果を付与し、防御したのだ。
「別に使わなくても小石がぶつかったようなものだけどね。痛いと不快だから、一応」
「……っ」
わたしは諦めずに剣を創出して魔物へと駆け出す。
ここまで来て後れを取るわけにはいかない、何か手を打たなければ。
「どこ向いてんのっ!」
刹那、わたしに代わって眼前まで一気に距離を詰めたディーがプレイアの顔に蹴りを放つ。
鋭い一撃に見えたけれど――あまり力が込められていなかったのか、あっさりガードされてしまった。
それも束の間、エコー君が反対側から大剣による刺突で追撃する。
「!? ――うわっ、羽が!」
動きが読まれていたか、プレイアは背中に備わった銀翼を展開、盾代わりにして攻撃を阻害した。鳥のそれと同じく見た目以上に伸縮が利くようだ。
2人に生まれた隙を逃さず、プレイアが空いた手を掲げて魔力を収束させる。
「まずは邪魔な男子から」
「くっ!」
「あ、やっぱこっちの糞女から。《ヒドゥンインパクト》」
「なっ!? ディー!」
「……っ!」
意表をついた攻撃魔法が彼女に向けて放たれる。
近くまで迫っていたわたしは、その体を突き飛ばす形でどうにか間に割って入った。
(……まさか)
彼女の反応の遅れに、一抹の不安が頭を過ぎる。
懸念の正体がはっきりとした形になる前に、頭上に生まれた不可視の重圧がわたしを押し潰した。
体をめちゃくちゃにされながら魔法の効力が失われると共に再生したわたしは、まだ起き上がる途中のディーを庇うように彼女の前へ立つ。
横目で見た彼女の顔色はあまり良いものでは無かった。
「ディー、まさか」
「何、どうかした?」
……どうかした、じゃないのは自分でよくわかっているはずなのに。
でもそのことを話している余裕はない。
動きを止めたプレイアがエコー君へ首を向ける。
「今のでも《フリーズ》は使わないんだね。仲間が死んだらどうするの?」
「……お前の狙いはそれだろ。カウンターが怖いんだ」
魔物の唐突な問いかけにも、エコー君は臆さず答える。
プレイアが超級スキルを連発して来ないのは《フリーズ》からの反射を厭っているためだ。
自分を傷つけられるのは自分のスキルだけ。それがわかっているからこそ、彼女は時間停止からの避けようが無い反撃を警戒して、むやみに魔法を撃ち出して来ない。わたし達が接近戦を挑めるのも、そう言ったアドバンテージがあるからだ。
ただそれは、裏を返せば1度を使ってしまったら最後、CT内に全力でこちらを仕留めに来ることも意味している。
魔法を反射できるといっても全てを防ぎ切るには限界があるし、直撃は無理でも火炎魔法の熱を使うとか攻撃手段はいくらでもあるはず。
もちろん《フリーズ》を使えばエコー君がプレイア本体へ全力の一撃を叩き込むことはできるけれど、仕留め損なったら形勢は瞬く間に傾いてしまう。
今はお互いに牽制しあっている状況。
とはいえ戦いが長引けばこちらの不利は明らかだった。
「…………」
早くなんとかしなければ、2人がもたない。
そのためには――
「はぁ……めんどくさ。それなら――不本意だけど私も物理で行くしかないね」
一度嘆息した後、プレイアは空いた手を宙へ掲げて魔法を唱える。
それは攻撃魔法――では無かった。
「《アビリティブースト》――次に唱える支援魔法の効果を増幅。《フォートレスコマンド》――肉体強度及び物理耐性を極限強化。もっかい《アビリティブースト》して《レオンズプライド》――生命力を極限強化」
「なっ……!」
目の前で次々に展開される支援魔法。
そのどれもが上級魔法スキルであり、しかもわざわざ1つ1つの支援効果を更に上昇させている。
「《アビリティブースト》、《バーストアクセル》――敏捷を極限強化。《アビリティブースト》、《シャックスアイ》――反応速度を極限強化。《アビリティブースト》、《キャバリーハート》――精神力を極限強化。……とりあえずこんなものかな」
支援魔法の重ねがけによって、その体は複数の光が合わさった虹色の輝きを帯びていた。
その口元が動く。
「いくよ、雑魚共」
次の瞬間、石畳に亀裂を残してプレイアの姿が消える。
かろうじて目端に移った残影を追うと、腰を落とし槍を突き出した魔物が既にエコー君を捉える寸前まで迫っていた。
「ぐっ!」
エコー君は大剣の腹で何とか槍の一撃を払うものの、勢いまでは殺せずに体勢を崩して地面を転がる。
息を吐く間もなく追撃が入るかと思われたけれど、プレイアは意外そうな顔をして立ち止まっていた。
「あれ、今ので壊れないなんて、その剣はそこらの安物じゃないね。それともうまいこと威力を消されたのかな。こんなにバフ掛けて戦うのも初めてだから、加減がわからないんだよねぇ」
「……始めから武器を狙ったのか」
「即死はさせないよ。あの女の前で徹底的にいたぶってやらなきゃ精神ダメージを与えられないもの。お前は裸にひん剥いて歯と爪を全部抜いた後で全身を火で炙ってやる。だから、うんと泣き喚いて後悔してね」
「……ふふ」
「? 変な笑い浮かべて、どうしたの?」
「いや、あいつらと同じだなと思って。救いようのないクズって、考えることは似たり寄ったりで芸が無いなって」
「はぁ? ワケがわからない」
「そりゃ何百年生きててセンスが腐り切ってるんじゃ、理解できないだろうね。丁度いいや、ほんのちょっとだけ心残りだったんだ」
力の差はとっくに感じているだろう。それでもエコー君は少しも動揺せず、剣を構え直して魔物に対峙する。
「憂さ晴らしさせてもらうぞ、このクズ」
決意を秘めたその表情に幼さは立ち消え、代わりに浮かんでいたのは、まるで幾つもの死線を潜り抜けた熟練の冒険者のそれだった。
「……不快」
プレイアが再び槍を構えて動く。
今度は軌道を読んでいたかあっさり避けるエコー君。
それからも次々に繰り出される攻撃を紙一重でいなしていく。
一方的な蹂躙に近かったけど、それでも彼は一歩も引かずに前を向く。
「エコー君……!」
助けようと足を踏み出したわたしの肩を誰かがつかんだ。
ディーだ。
「あんたは“やるべきこと”をやりなさい。ワタシ達が時間を稼ぐから」
「……!」
「あいつに勝つ算段があるんでしょ。って言ってもあんまり時間かかるのはナシよ。……そろそろワタシも体力の限界だから」
おそらく初めて耳にする彼女の弱音。
ディーはもうとっくに疲労が頂点に達していた。
無理もない。彼女はずっと戦い続けてくれていた。
魔物と激戦を繰り広げ、激流を泳ぎ抜き、ここに来るまでも気を張り続けていた。
……そんなにまでして、ディーはわたしを助けてくれた。
「簡単に割り切れないことだってある。ためらうってことはそういうことでしょ? ……ワタシも信頼してるわ、あんたを」
「……そこまで言わせるほど、何かしてあげた記憶が無いです」
「あんたがそう思ってるだけで、意外ともらってたりするかもね。まあ、そろそろ行って来るわ」
「……ありがとう。ほんの少し時間をください」
「倒しちゃって取り越し苦労になっても知らないわよ」
一度だけ笑みを浮かべあって、わたし達は別れる。
迷いは無い――そう思ってもためらいが生まれてしまうのは、これがきっと“弱さ”だからなんだと思う。
でも、みんなが教えてくれた。
過去、未来、現在、それら全部を1つにしてアレッサがいるのだと。
「行こう」
今度こそ本当の意味で前を向くために。
わたしを支えてくれた全ての人に、感謝を届けるために。




