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21 ヨハン視点

19話のヨハンの装備【反魔の瀑布】の名称をディスペル・ホロウからリフレクト・ホロウに変更しました!

反射感を出したかったので……!

 楽しい時間も、もう終わりだなァ。


 オレサマ達のテスト相手としてこのプロト・アビスに送り込まれた人間は全部で536人。

 その数も残りあとわずか。

 大抵のヤツはあっさり逝っちまったが、それでも3回も殺されちまった。

 さすがに終盤まで生き残った連中は強ェなァ。


 坊主のありゃ《フリーズ》か。パルバライザーしか使えねェんじゃねェのかよ、面白ェな。

 チート女とも戦り合ってみたかったな。

 あと2人になっちまったが今相手したパーティーの連中だってなかなかのもんだ。

 特に鎧野郎、落ちてきた奴らの中じゃ最強かもしんねェな。オレサマを2回も屠りやがった。

 次はどんな手を使ってくるのか、どうやってやり返してやろうか、考えんのが楽しくて仕方ねェよ。


「はぁ……バケモンだね、お前。間違いなく『神翠石』級だよ」


 向かい合う鎧野郎が溜め息まじりの声を吐いた。


「? 神……? 何だそりゃァ」

「一番強いってことだよ。もし姿を現したら国が滅んでもおかしくない最強クラスの魔物ってこと」

「フーン、光栄だと言っとくか」

「まぁ、お前の場合は強いってよりしぶといかな。実際どうなの? お前、本当に不死身? 倒すことできんの?」

「あァ? 敵に攻略法を尋ねるなんざ、追い詰められてるって公言してるようなもんだぜ」


 んな萎えるこたァ言って欲しくねェ。

 すると鎧野郎はどこか面白い部分でもあったのか兜の中で吹き出した。


「あはは、そりゃそうだ。最高だなお前。やばい、お前のこと気に入りそう」


 すると、がくんと鎧が膝をつくと背部でガチャガチャと音がした。

 やがて鎧を足蹴にして金髪で痩身の兄チャンが姿を現す。

 こいつが鎧野郎の中身だろう。

 兄チャンはそのまま、反対側の野郎に向けて口を開いた。


「おーいジオさん。こいつとはサシでやりたいからさ、悪いけど邪魔しないでくれ」

「っ!? ま、待てよエイト。いくらお前でもこいつは手に負えねーよ! ここは協力してだな……!」

「ってか、もうビビっちゃって腰引けちゃったんでしょ? 大人しくしてればいいからさ。ま、オレが負けたらご愁傷サマってことで」

「ふ、フザけんなお前――」


 ふむ……。

 オレサマはおもむろに喚き散らす男へ向けて弩を撃ち込んだ。

 どてっ腹に風穴が空くと、そのまま白目を剥いて男はくたばった。


「世話かけて悪いね」

「イイってことよ。さっ、やろうぜ」


 戦わねェなら用はねェ。

 兄チャンが片手に大筒を小型化したような細長い武器を構え、もう片手に魔法剣を構える。

 まさにオレサマと似たような戦闘スタイルだった。

 こりゃ、ますます捗るってもんだ。



 そして――兄チャンとの戦闘は、これまでで最も苛烈を極めた。



 太刀の攻撃は魔法剣で弾かれ、弩と兄チャン曰く【魔銃】とやらの撃ち合いはマジで白熱した。

 前衛あっての遠距離職に見えて、兄チャンの本領はこういうタイマンでこそ発揮されるものなんだろう。

 兄チャンの仲間全員と戦うよりも長い時間戦っていた気がする。

 だが夢のような時間は、兄チャンの息切れと共に幕を下ろす。

 人間である以上、全力で動ける時間には限りがある。

 ほんの一瞬、足を取られた隙を見逃さず、兄チャンに連射のきく限り矢を掃射した。その内の一発が魔法剣を持つ手を腕ごと吹き飛ばしたのを確認すると、一気に詰め寄り胸を切り裂いた。

 ごぽりと口から血を吐き出し、兄チャンはついに膝をついた。


「ごほっ……! ……やっぱ無理かぁ。お前をソロで倒せるようなら、いよいよオレが最強ってことで、誰も文句を言わないのに」

「ようやく1勝だなァ。やられてばっかじゃ格好悪ィから助かったぜ」

「……ふふっ。ん~……それはヤダな。せめて勝負には勝ちたい」

「……? ウオッ!?」


 不意に、背後で大気が動く。

 他に人間の気配は感じなかったはずだが、振り向いた時には野太い2本の腕がオレサマを取り押さえた。

 コイツは――兄チャンの着てた鎧だ。

 遠隔操作もできたのか。


「これでオレの3勝ってことで。はぁ……またやっちゃったな、オレ」


 スカスカの大鎧の内側に配置された大量の刻印(ルーン)が輝き出す。

 鎧の中で圧縮された途方も無い魔力が解放され、観覧席どころか闘技場を吹き飛ばすほどの大爆発が起こった。

 爆心にいたオレサマの体は、当然ながら消し炭となる。

 ――クソが。

 自爆とかマジかよ、考えるか普通。


「面白ェなァ、人間はよォ」


 思考が冥府よりも暗い闇に落ちて、オレサマは通算4度目の死を迎えた。


 暫くの後。


 取り込んだ魂を消費して、オレサマは新たに装備と能力を手に入れ復活を遂げる。

 周囲は、まだ粉塵が立ち込めていた。

 超級魔法も凌駕する衝撃で、闘技場は全壊に近い状態だ。観覧席にいたはずだが今や影も形もない。どうやら闘技場のど真ん中まで吹っ飛ばされたようだ。


(良い殺し合いだったぜ、兄チャン)


 充足感と共に訪れるのは、もっと殺し合いを愉しみたいという切望だ。

 まだだ、まだ人間は残ってる。

 後、何人だ。

 頭上を見ると、信じられないことに生存者の残数が“9”になっていた。

 ――は!? ウソだろ、おい。

 まだ30ちょいは生きてただろ、まさかプレイアがやっちまったのか?

 この分じゃ後は坊主と騎士連中くらいしか残ってねェだろうが。凄ェのがいたかもしれねェのに、ここまでかよ。


 こんなので終わりなのかよ。

 どのみち、オレサマは今日までの命だってのに。


 テストが終わったら、試験体のオレサマは否応なしに廃棄される。

 オレサマから抜き出した戦闘データを元に本物のヨハンが造られ、ドゥーム・アビスのボスとして配置されるからだ。勝とうが負けようが、それが運命。

 たった半日しか与えられていない命だからこそ、全力で駆け抜けたかった。本気で人間(お前ら)と戦いたかった。


 今度は虚しさが込み上げて来る。

 まだだ、まだヤリ足りねェぞ、オレサマは。

 こんな呆気ねェ終わりでいいのか? つまんねェ一生で満足なのか? 


 ――オレサマの命は何だったんだ。


「……ッ!」


 気配を感じて、振り向く。

 塵の晴れた先に、ヒトが1人立っていた。

 さっき少しだけやり合った、坊主やチート女と知り合いらしい黒髪の姐チャンだ。

 片手だけじゃなく両手にダガーを握り、上半身は外套を脱いで今は肩出しヘソ出しの肌着一丁。

 殺気は感じない代わりに、伝わってくるのは――覚悟か。

 絶対にオレサマをここで倒す、それ以外のことは考えない。そういう面をしていた。



 ……そうだ、どうしてこいつを忘れてたんだ。



 正面から本気で斬りかかったのに、姐チャンには一発も当たらなかった。

 スキルを一切使わずオレサマと対等に渡り合った。


 見つけたぜ、オレサマが生まれてきた意味を。

 こいつだ。

 こいつと戦うために、オレサマは生まれたんだ。

 ……いや、それも正確じゃねェな。


「坊主とウィノなんとかチャン、あと騎士の野郎はどうした」

「あァん!? 敵に策を訊いてくるってこたぁ、てめぇを追い詰めてるってことでいいのかしらぁ!?」


 く、くく……!


「クク……クヒャヒャヒャ! そうだ、そうこなくっちゃなァ!」


 そうだ、オレサマは。

 ()()()()と戦うために生まれてきたんだ!


「楽しそうねぇ。か弱い人間をいじめるのがそんなに好き?」

「か弱いだァ? バカ言うな。人間は“最強の生物”だろうが」


 弱いだと、アホぬかせ。

 その叡智と団結力で世界に君臨するテメェらが最強じゃなくて何なんだよ。

 だからこそ、力だけなら何倍もあるオレサマの仲間達を散々葬って来たんだろうが。


「油断なんか一瞬足りともしねェ。オレサマの目の前にいるのは過去最強最大の“敵”なんだからなァ! ――《冥府の報復(スカヴェンジ)》!!」


 喰らったダメージはもうスキルを発動できる段階まで溜まってる。

 これが最後だ。オレサマの全力をこいつらにぶつける。


「はぁ……最高に面倒臭いわ。……そんなに死にたいなら望み通り、最強生物代表のワタシらがあんたをぶっ殺してやる」


 改めて言われるまでもねェ、本気でオレサマを殺しに来い!


 光を纏い力を滾らせ、オレサマは地を蹴る。 

 こうして、最後の殺し合いの幕が上がった。



 しかしあれだな。

 さっきの兄チャンといい、人間は本気を出すと着てるもんを脱ぐんだなァ。



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