20 暗殺者視点
「やめてええええええ!!! ヤダヤダヤダヤダヤダぁっ!!!」
喚き散らすエルフの片足をつかんで引きずりながら、ワタシは森の中を移動していた。
てめぇが全ての元凶か、仕事の邪魔をしやがって。
ただじゃ殺さない、手足を捥いでゴブリンの巣に放り込んでやる。
体中喰い散らされて、苦しめばいい。
「こんなことになるなんて、思わなかったのぉっ! 本当に悪いことをしたと思ってる! 反省してるからぁっ! だから、ひどいことしないでぇっ!」
知るかバカ。
あの世でお仲間と反省会開け。
「アタシはやってない! 指1本手を出してない! 止められるものなら止めてあげたかったぁっ!」
エルフってこんな風に鳴くのね。くっそ耳に障るわぁ。
「あ、アタシ好きな人がいるのぉっ……! アンタ同じ年頃だからわかるでしょっ!? だから、だからっ……!」
流行ってんの? その命乞い。
「う……ぐすっ。うわああぁ~~~~~~~ん!! ごめんなさぁ~~~~い!!」
仕舞いには泣き落としか。
うるさいから2、3回叩きつけるか。
「あ……あ……アタシのせいで、アンタの友達を死なせちゃったぁ……! 取り返しのつかないことしちゃったぁ……! 」
……は?
トモダチ?
「エコーがっ……酷いことされてるのに、何もできなかったぁ……! アレッサが毒打たれてるのに、何もしなかったぁ……! 助けられたのに、悪いことだってわかってたのに、アンタの親友を助けられなかった……! 全部、アタシが悪かったのぉ……っ!」
だから待て、違うって。
友達とか親友とか、なんなんだ。
あの2人とは一時の付き合い。ついでに片方はどうにか始末しなくちゃいけないのよ。
どう勘違いしたらそう見えるの、頭エルフかよ。
「償っても償いきれないことをしたぁ……っ! ぜんぶあやまる、ゆるしてもらえるまで謝って来るっ! もう罪の意識に堪えられないのぉ……っ! だから、アタシのことは、せめてアンタが一思いに……っ!」
…………。
「エコー、ハーフエルフってだけで見下してごめん! アレッサぁ、蹴ってごめん! 酷いこと言ってごめん! アタシが愚かだったぁ……っ!」
…………。
「アンタから大事な人を奪ってごめんなさい……っ! うわああぁ~~~~ん!」
後悔の慟哭が夜の森に響き渡る。
しばらく歩いた後に、ワタシはつかんでいた手を放す。
肩が軽くなってどさりと音がする。
振り返ると、涙と鼻水まみれのみっともない顔を晒している馬鹿がいた。
ああ、もう。
彼女を見下ろして、一言。
「そ」
「ぐすっ…………そ?」
「そこまで改心する脳ミソがあんなら、初めっからくだらない事考えんじゃねええええええっ!!」
ワタシは絶叫した。
あーあー、マジで面倒くさいわぁ!
メンタル綿毛かよ。そんなんでよく冒険者なんぞなったわねぇ!
クズならクズなりに性根を捨ててかかってくるとか、度胸を見せろや!
「ひいいぃぃ~~~~ん! おっしゃる通りですうううう!!」
泣くな、うっぜえ。
この分だと本当に自分じゃ指1本すら手出ししてないのだろう。
ガキじゃんこいつ。
長いものに巻かれてるだけの、主体性の無いガキ。
よくこんなみっともない生き方ができんなぁ。
(まぁ、今回はワタシもか)
なんだ、さっきのは。
人数差もあるのに相手の力量も知らないまま、素手で正面から乗り込んでいくとか、正気か。しかもダラダラ時間をかけて相手を痛めつけた。
ゴブリンの巣に突き落とすとか、なんでそんな無駄に時間かかることをしようと思ったのか。
全部、暗殺者のやることじゃない。
思い出すだけで頭を抱えたくなってくる。仕事を邪魔されただけで、こんなに精神が乱れるものなのか。
今回はたまたま力が上だったから良かったものの、プロセスは最悪。
己の未熟さと恥を晒したようなものだ。
――畜生。
「……生きてる」
「ひぐっ……ぐずっ……え?」
「だから、生きてるっての、2人とも」
「生き……? エコーが? アレッサが……? え……嘘……!?」
親切に教えてやったのに信じられないのか、エルフの女はへたり込んだまま真っ赤な目を丸くする。
「そんな……アレッサはエルフの毒をまともに注入されたのに……!」
「あいつが毒ごときで死ぬワケないでしょうが。……マジであいつのこと何も知らないのね」
「で……でもじゃあ、エコーは! 叔母様達に惨いことをされて、瀕死だったのよ!」
「……腕利きの錬金術士が何とかしてくれたお陰で、とりあえず無事よ」
「ぶ、無事って! 全身ズタズタだったのよ! 爪も全部剥がされ歯も抜け落ちて、目も潰れて顔の形が変わってた! あんなんじゃ助かったって、とても生きてるっていえないわよ!」
「いやそこまでされてたかしら……ていうか再起不能のが良かったように聞こえるわねぇ」
「い、いやそんなことは! ……で、でも、そっか。良かった、良かったよぉ……! うええぇ~~~~ん!」
気が抜けたのか、彼女は緊張を解いて今までと質の違う涙を流した。
本当に面倒くさい。
「良いワケねーだろ、あの子は死にかけたのよ!」
「ひっ、そうでしたぁ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
「はぁ……もういい。――今回は見逃してやる」
「……へ?」
ワタシは彼女を解放してやることに決めた。
でも、タダじゃない。
「生かしてやるって言ったのよ。でも、忘れるな。もし次にエコーがお前らエルフに襲われるようなことがあったら、関与していようがいまいが、お前の首を取りに行く。世界中どこに逃げようが必ず見つけ出してぶち殺すから、覚えておきなさい」
「あひっ!? そ、そんなの、いくらなんでも……!」
そりゃ、エコーがいつ他のエルフの目に留まって襲われるか、気が気じゃないわよね。
だけど要点は1つ。
「そうならないように、あんたがエルフ社会を変えなさい。『ハーフエルフ』を迫害しないようにって」
「え……!?」
別に本気で迫害を無くせるなんて思ってない。
あくまでワタシがパーティーにいる間、今回みたいなことにならなければそれでいい。
そのためには標的をそらす囮がいる。
こいつがハーフエルフへの迫害をやめようという声を上げれば、その分ターゲットはエコーからこいつに向く。
少しでも危険が減れば、それで十分だ。
「あんたらの事情は把握してるけど、思想はどうあれ、生まれてくる子どもに罪はない。違う? すぐに考えが変わらなくても、あの子が命を狙われないようにしてくれればいい。死に物狂いでやればできるはずよ」
「…………あぅ」
「それとも、さっきの謝罪はやっぱり上辺だけ?」
「……っ! や、やる! 絶対やる! アタシ、生涯をかけてハーフエルフへの差別を無くす啓発活動に励むことを誓うっ……!」
「よし、今日からあんたは冒険者あらため活動家よ。せいぜい頑張りなさい」
「う、うんっ! ……あの」
「なに」
立ち上がった女はもじもじすると。
「本当に、ごめん……大切な友達を酷い目に遭わせて……」
「――っ!! 友達じゃねーよ! さっさと行かねえと気が変わんぞコラァ!」
「ひぃっ! ごめんなさぁ~~~いっ!」
脱兎のごとく町の方へ駆け出していく。
最後まで人をむかつかせる奴だった。
「……これでいいんでしょうがぁ」
本当に疲れた。でもまだ最後の作業が残ってる。血の臭いを嗅ぎつけて魔物が寄ってくるとも限らない。
ワタシは残った仕事を片付けるべく、廃屋へと向かった。
☆★☆★
「ほら、持ってきた」
協会へと戻ったワタシは、エルフの耳4人分の詰まった袋を副会長室で待機していたゴアへと放り投げる。
中身を確認した彼はすぐに表情を綻ばせた。
「そうそう、耳だけでいいんだ。生首なんて持って来られても処分に困るだけだからね。さすがはディー」
「ケッ」
「……おや、4人分ってことは、1人は逃がしたのかい」
「全員分持って来いとは言われてない。残り1人は仕事に関係してるから生かした。これ以上は答えない」
「フフフ、すっかり嫌われたようだ」
「眠いからもう行く。あの子をよろしく」
「泊っていかないの? キミの友人は残ってくってさ」
「誰のこと言ってんの」
友人って何。
どいつもこいつも、そんなもの、この道選んだ時から持とうと思ったことはない。
無言のままワタシは背を向ける。
最後に奴の声。
「後払いになったけど後で報酬を届けるよ。それと、アレだ。お休み」
真っ暗だった夜の町。
ワタシが協会を出る時には、ほんのりと彼方の空が明るい色を灯していた。




