05
来たときと同じ日数をかけ、わたし達はラクシャの町へと帰還した。
ギルドで依頼達成の報告を済ませて報酬を受け取ると、きっちり3等分して2人に手渡す。
『真鍮』級は『銀』級の倍近くまで報酬額が上がっていて、人数の少ないわたし達は1人当たりの取り分も大きい。
ゼノビアさんの話にあった通り王国からの報奨金も加算されるようになったため、ひと月くらいなら何もしなくても暮らせる程の大金が手に入った。
あと6回クリアすれば次は『黒晶』。そしてその先には『白銀』が待っている。
まだまだ頑張らないと。
「それでは2人とも、今日はこれで。また明日会いましょう」
日も暮れてきたこともあってパーティーは一旦解散。
わたしは力をつける意味でも久しぶりにお腹一杯ご飯を食べようとひとりで酒場へ向かった。
☆★☆★
「イェイ、かんぱぁ~い♪」
「かんぱいです!」
「…………」
席に座って料理を食べるわたしの前で、エールの注がれたジョッキを片手にディーが音頭を取る。それに合わせてエコー君が葡萄ジュースの入ったジョッキの口を重ねると、小気味良い音がなった。
「く~! 仕事の後の一杯は格別ねぇ! エコーもそう思うでしょぉ?」
「お酒はまだ飲んだことないです……! 未成年なので!」
「あら残念。お酒が強い男はモテるわよぉ」
「そうなんですか、早く飲める年齢になりたいなぁ」
「ウフフ。ちなみにあんたはイケるの?」
「……わたしは苦手なのであまり」
いや、そんなことよりも。
ひとりで席についたはずなのに、いつの間にかテーブルの両サイドにはさっき別れたばかりのエコー君とディーが椅子に座ってくつろいでいた。
堂々とおつまみまで注文している。
「あの……2人とも何してるんですか?」
「何って祝勝会よぉ。初めて3人でクエスト達成したんだもの。せっかくだから一杯やろうと思って」
「……どうしてここで」
「リーダー抜きで勝手に盛り上がったら薄情じゃない。あ、美味しそうなもの食べてるわねぇ。一つくんない?」
「自分で注文してください」
事情は察したものの、祝勝会などと浮かれることなどできない。ヴィクト君達を差し置いて、別に作った仲間と喜ぶ資格なんてあるはずがないのだから。
2人をよそにわたしは料理に目を向ける。
いまだに熱い鉄板の上でジュウジュウ音を立てているのは、コショウをこれでもかと振りかけた“ミノスの最上級フィレ・ステーキ”だ。
中はまだ赤みが残っていて、ナイフを入れるたびに肉汁がしたたり香ばしい匂いを解き放つ。
一口大に切ったそれを、形を崩さないようゆっくりとフォークを突き刺して、したたる脂ごと口内へ運び丁寧に咀嚼する。
もっきゅもっきゅ。
ふああ、美味しい。
「見たことないほど幸せそうねぇ……あっ、きたきた。やっぱエールのおつまみは鳥肉よね」
「うわぁ、初めてムニエル頼んだけど美味しそうです!」
各々勝手に料理を食べて満足している。
別に同じテーブルを囲むのは構わないけど、盛り上がるのは他でやってほしい。
そんな思いが顔に出てしまったのか、ディーが訊いてくる。
「もしかして騒がしいのは苦手だったかしら? 前のパーティーじゃ、こういうのしなかったの?」
「……苦手じゃないですけど。そんな気分になれないので」
「大金入った今じゃなくていつ気分になるのよ。もしかして死んだ仲間に顔が立たないとかってヤツ? 堅いわねえ。たまにはぱーっとやんなさいよ」
「ぱーっとやれない性分なんです。あ、それはこっちに置いといてください」
そうこうしている内に注文した2皿目が運ばれてきた。
貴重な“プレコのシチュー”だ。これまたコリコリした感触とシチューの組み合わせがハーモニーを奏でる絶品料理。
早々にステーキを片付けると、薄切りにされたプレコ肉とシチューを口に運ぶ。
こりこり、もぐもぐ。
ふああ、美味しい。
「死なれてそんなにヘコむんじゃ、どうして冒険者になんかなったのよ。命懸けの商売なのはわかってたでしょうが」
「……それは」
孤児院を出た子どもは、大抵の場合、院長さんが見つけてくれた仕事のどれかを選んで別々の道を行く。一生懸命働かないと暮らしていけないから、再会することなんて滅多にない。
だけど、わたし達は離れ離れになりたくなかった。
4人で世界を見て回りたい。
みんなと、いつまでも。
ずっと家族のように育ってきたから、この先もずっと一緒にいられるように、共通の夢が欲しかった。
……それなのに。
「そうですね。他の道もあったかもしれません。でも4人で目指した夢でしたから。わたしが投げ出したら、2人が浮かばれないじゃないですか」
「……ん、4人? 後ひとりはどこいったのよ」
「もう1人は今もギルドに在籍してるラビ君です。ええと、ディーが初めてギルドに来た時、わたしと向かい合ってた男の子の……」
「ああ、あいつ。でもそれにしちゃ、かなり険悪じゃなかった?」
「……実は――」
わたしは、一時の感情から彼をパーティーから追い出してしまったこと。それきり関係が修復不可能になってしまったことを打ち明けた。
「ん~、どっちもどっちだと思うけどねぇ。長い付き合いなら1回やそこらのケンカで絶縁することもないでしょうに。あ、エールおかわり頂戴」
「信頼があったからこそ裏切られた時の傷だって大きいんですよ。わたしはそのことに気付けなくて……」
「ふぅん……信頼ね」
何か思うところがあったようだけど、彼女はそれ以上口を開いてはこなかった。
そうこうしている内にシチューを食べ終えると、丁度いいタイミングで3皿目が運ばれてくる。
50枚以上の新鮮なオーク肉を湯にさっと通して氷で冷やした後、野菜と合わせて綺麗に盛り付けられた“オーク冷しゃぶ”だ。
特製甘辛ダレに付けて食べる。
もぐもぐ、ごっくん。
ふああ、美味しい。
「……道中も気になってたけど、よくそんなに食えるわね。しかも肉ばっかり。エコーなんてまだ半分も食べてないのに」
さっきからやけに静かだと思ったら、エコー君は魚の骨抜きに苦戦していて、なかなか食が進まないようだった。サーモンは骨が大きいからしっかり取らないと危ない。こればかりは慣れるしかないだろう。
「むぐ……昔から食事だけはしっかり取らないと落ちつかなくて。男の子にも大食いだって言われてました」
「見てるこっちは胸やけしてくるんだけど、どこに収まってるのよ。あ、わかった。その分ひり出してんのね」
「下品なこと言うなら席を移ります」
「冗談よ。でもその割にスタイル良いわよねぇ。栄養がどこに行ってるかは想像つくけど」
「ああ、わたし太らない体質みたいなんですよ。だから体型とか気にしたことなくて」
「あっはっは、あんた女友達いないでしょ」
「なんなんですか、急に!?」
ヒトが気にしていることをずばり言うなんて!
いましたよ、1人だけ! 1人で十分なんですよ!
「あの……“依頼”のこと、ちゃんと覚えてますよね?」
「ん? もちろんよ。だからこうやって日常のさり気ない会話からヒントを得ようとしてるんじゃないの」
「……ならいいんですけどね」
「そうねぇ、たとえば餓死ならいけるんじゃないの? どっかにあんたを閉じ込めるとかして」
「…………そ、それは」
「ふふっ、そんなに悲壮な顔するとは思わなかったわ。まぁ、楽しみにしてなさい。綺麗に終わらせてあげるから」
「……お願いします」
「あの、さっきからなんの話をしてるんですか? 依頼って?」
今まで黙っていたエコー君が口を開く。そういえば彼もいたと気付いたけど後の祭りだった。
どう誤魔化したものか考えていると、先に答えたのはディーだった。
「あぁ。実はワタシね、お姉さんの命を狙ってる暗殺者なのよ」
「な、ディー!?」
「いいじゃない。パーティーメンバーに隠し事は良くないわ」
それにしても、こんな堂々とばらさなくても……!
「そんな……ディーさんはお姉さんの幼なじみじゃなかったんですか?」
「その設定まだ覚えてたのね。残念ながらまだ知り合って半月も経っちゃいないわ」
「……僕、お姉さん達には仲良くして欲しいです……」
「ワタシを諦めさせたいなら方法が1つだけあるわよ」
「本当ですか!? 教えてください!」
「簡単よ。あんたがワタシより強くなればいいのよ。ワタシが彼女にいつ襲い掛かっても全部防いじゃうくらいにね。そうすりゃあワタシも断念するしかないわ」
「確かにそうですね! よし! 僕、頑張ってもっと強くなります! そして、いつかディーさんを超えてみせます!!」
「その意気よ、エコー。ワタシも協力するわぁ」
……なんだろう、この展開。
なんだかいい感じに話が纏まってしまっている。
「いいんでしょうか、これで」
「こんなもんよ、世の中なんて」
そう言って3杯目のエールを注文するディー。
何だか本当に悩んだり落ち込んだりするのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
現実を考えるだけ頭が混乱してしまう気がして、わたしは目の前の料理の片付けに無心を決めこんだ。




