04
わたし達のパーティーは、構成からもう破綻していると思う。
「ほらエコー、来るわよ!」
「うわわっ!」
「わたしに攻撃が向いてる時以外、仕掛けちゃ駄目です!」
人数は最小限、全員が近接職。しかもひとりは実際の階級と齟齬がある。
だから作戦らしい作戦も立てられない。
「背中の腕が思ったより伸びます! みんな気をヅゲベッ!!」
「お姉さん!? 大丈夫――みたいですね、良かった!」
「明るいとこで見ると再生って思ったよりキモいわねぇ」
先行するとは言ったけど実際には攻撃を一手に引き受けるなんて不可能だ。
攻撃対象なんて相手の考えで変わるし、たった一撃が命取りになるのに、それでも全員が果敢に前へ出る。
エコー君を守ろうとしたけど固まっているほうが攻撃を向けられやすく、必然的にバラけたわたし達は3人で魔獣を取り囲む陣形になった。
「腕の振りだけで塵旋風が!? うわっ!」
「ちょっと! もっとちゃんとヘイト取りなさい!」
「そんなこと言われても! ……なっ、エコー君の頬に傷がっ! すぐにポーションを……え、全部使い切ったァ!?」
常識を無視していることなんてお構いなしの、命知らずの集まり。
今日死ぬことなんて……いや、3人の誰かが死ぬことなんて考えられない。
スキルがあるからでも、慢心からでもない。
なんとなく今日は絶対に死に別れない、そんな気がする。
「グホッ……! アハハハ、見て! 毒針2本も打ち込んでやったわぁ!」
「頭から血を垂らして何笑ってるんですか!」
「痛いなら無理しないで引いてくださいね! その間は僕が引きつけます!」
もちろんそれは一瞬でも気を抜かなければ、だ。
4本の腕から繰り出される魔獣の攻撃は威力も速度も段違いで上昇していた。
もし《セルフヒール》が無かったら何回死んでいたかわからない。
だけど魔獣も集中力が3つに分散しているため、その動きは単調になる。
そして無策だとしても、戦っていれば息も合ってくる。
やがて陣形は変化し、わたしとディーは常に挟み打ちにする位置取りで側面攻撃を、エコー君は背後から気をそらす形になる。
「だんだんっ! 動きが! 追い付いてきた! わねぇ!」
そう呟くディーの回避は凄まじく、魔獣の腕を掻い潜ってはその体に傷を刻んでいった。
ただ回避するだけでなく、腕をぎりぎりまで引き付けて身を反らすことでカウンターを確実にあてていく。
本当に同じ人間かと疑ってしまうほど、その動きは時間と共に研ぎ澄まされていった。
「僕も……! わかってきた……! 気がします……!」
エコー君のことは心配だったけど、そんな気持ちを跳ね除けてしまうほど彼は真剣だった。
たとえ死角だろうと魔獣は正確にエコー君へ攻撃を仕掛けてくるものの、彼は間合いを見切るのがうまく、背部に迫ると思いきや、ぎりぎりで足を止めてあからさまに後退するなど徹底して囮になることで魔獣を苛立たせた。
ついこの前まで『銅』級の魔物にさえ苦戦していたとは思えないほどの立ち回り。
生傷は絶えない、死と隣り合わせに違いはない。
それでも強敵を前にしてか、明らかに反応速度が上がっている。
エコー君はこの短期間で立派に成長していたのだ。
(わたしも役に立たないと)
2人の姿に奮起したわたしは、可能な限り肉薄して少しでも多く攻撃を受け止める。
そうしてわたし達は次第に魔獣を追い詰めていき、その時が来る。
「見てください! また角が!」
「ちっ! 面倒くさい!」
魔獣の角が光を帯び始める。
(あれは、確か魔竜の――)
わたしは同じような輝きを見たことがあった。
そう、広範囲に拡散する雷撃と同じ色の技。
あれを放たれたらわたしはともかく2人には防ぎようがない。
だったら撃たれる前に元を断つ。
「ディー、煙幕を!」
「っ! 了解!」
意図を読み取ってくれたか、彼女が魔獣目掛けて懐から取り出したつぶてを投げる。
それは魔獣の体に当たり、もくもくと白い煙が巻き起こった。
最初に命を狙われた別れの際、目の前で使われた煙玉だ。今回は単純に魔獣の視界を奪うために使ってもらう。
もちろん逃走のためではない。その逆、取り付くためだ。
わたしは魔獣の頭部へと飛び移り、ばちばちと稲妻を帯びる魔獣の角へ自分の腹部を吸い込ませた。
「ごふ……っ」
鋭い角はわたしの皮膚をたやすく貫いて、熱波が内臓を灼き打ち震えた。
ほどなくして始まる放電。
本来ならば即死どころか人間など形も残さず消し炭にするハズの電流が全身を駆け巡る。
心臓が何度も止まりかけ目の前を稲妻で真っ白にしつつも、完全回復を続けるわたしの体内はその拡散をゆるさない。
それどころか内部を次々に焼き尽くす電撃を“吸収”し、わたし自身も帯電していく。
これがスキルレベル80で得た《セルフヒール》の吸収効果。
刺し込まれた刃など物質を体の一部に取り込む一方で、それが魔法や技ならばその事象ごと吸収して、自分の技として再使用する能力。
わたしは右手に血剣を創出。吸収した電撃を纏わせ集中させる。
青白い光を迸らせる刃の向く先は1つ。
さっき再生したばかりの、魔獣の瞳だ。
「!?」
相手がその意図に気付いてわたしを引き剥がそうとするものの、もう遅い。
「お返し……します……っ!」
躊躇なく刃を瞳の奥まで貫かせると、魔獣の内部に電撃を解放する。
「ン゛グギガァァ――――――――――ッッッ!!!!」
喉奥から稲妻と絶叫を噴出させてのたうち回る魔獣。
わたしは胴を鷲掴みされて渾身の力で岩壁に叩きつけられてしまうものの、刺さった剣からの放電はしばらく続く。
頭部のほとんど灼き切られたにも関わらず魔獣はまだ何とか2本の足で立っていたけど、体中の至る所からは煙が吹き出し、もう片方の目もでろりと飛び出してしまっていた。
「エグいわねぇ。可哀想だし、さっさと終わらせてあげましょうか」
立ち込める煙の中に入り込んできたディーは、満身創痍の魔獣に組みすると胸部の甲鱗にダガーを潜り込ませる。
そして魔獣が片割れにそうしたように、付け根を切り取ってまるでプレートのような鱗を引き剥がした。
それでも最後の力で腕を振るう魔獣の攻撃を避けながら、叫ぶ。
「エコー、とどめよ!」
同じく煙幕を抜けて少年剣士が飛び込んでくる。
彼は気合の雄叫びと共に手にした剣を外皮の先の心臓へと潜り込ませた。
「――――――――」
断末魔の悲鳴は、もはや声の域を外れていた。
やがて、だらんと腕から力が抜けて仰向けに倒れ伏す魔獣トゥカファ。
「討伐完了……ですね」
ハプニングはあったけれど、初めて3人で挑んだクエストはなんとか無事に達成することができた。
「2人とも、お疲れ様です。傷の手当てをしないと」
「あー、そうね。ほら、傷薬。あの子に使ってあげて」
「……あなたは?」
「暗殺者は他人に体を触らせないモンなのよ。自分でできるわ」
「そうですか……」
まだ魔獣の傍で動かないでいるエコー君のところへ足を向きかけて、ふと気になったことを聞いてみる。
「あの、初めて組んだんですか? パーティー」
「そうよぉ。どうしたの急に」
「慣れてる感じがしましたから」
「予習したのよ。ワタシ、仕事人だもの」
「……あの、エコー君のこと、ありがとうございます」
もしディーがいなかったら、2人だけだったらおそらく彼の命はなかっただろう。
「それだけど、妙に静かじゃない? あの子」
「そういえば……大丈夫ですか、エコー君?」
さっきから一言もしゃべらない彼のことが気になり急いで駆け寄る。
もしかして大怪我をしてるんじゃないかと思ったけど、まだ魔獣に刺さったままの剣にもたれかかるようにしてエコー君は寝息を立てていた。
今までにない激戦の後で、もう体力も限界だったのだろう。
ほっと息を吐きながら、剣を引き抜くとエコー君を抱きかかえて戻る。
「疲れて眠っていただけでした」
「そう。良かったわねぇ、カレが無事で」
にやにや意地の悪い笑みを浮かべるディー。
カレじゃないです、と言おうとしたけどわたしも疲労が溜まっていたのだろう、それ以上は言葉を次げなかった。
残念ながら《セルフヒール》で疲労感までは回復できない。
簡単な手当だけすると、少し休んでからまだ眠ったままのエコー君をおぶってわたし達は村までの帰路を歩いた。




