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15 神官少女視点→暗殺者視点



「ま、待って待って待って! なんでわたしの名前が出て来るの!? 何かの間違いですよ!?」


 スタスタとこちらに歩んでくる暗殺者の女に対し、必死でわたしは叫んだ。

 どう考えてもおかしい、わたしが人から恨みを買う覚えなんて1つもない!

 完全に人を間違えてるじゃねぇか、この猟奇殺人鬼!


「え~? 代々神官の家の出自で、今くたばった司祭の姪っ子で、冒険者してるピンク髪の女の子のソアラちゃんが他に存在するの?」


 糞が! わたしだ!


 でもじゃあ、まさか殺害を依頼したのって――アレッサか!?

 司祭と自分、両方に因縁があるとしたら、あの女しか考えられない。

 おそらくだが、暗殺に来たこの女を懐柔して逆に司祭への刺客として雇い返したんだ。

 そしてついでにほんの少しだけアレッサと確執のあったわたしのことも始末してくれと依頼した。


(だとしたら完全にとばっちりじゃねえか!)


 確かに神聖魔法を失う羽目になったのはわたしが司祭にチクったからだが、それは結果論であって不可抗力だ。

 蹴り飛ばしたり生ゴミを頭からぶっかけたこともあったけど、他には何もしていない。逆恨みも甚だしかった。


「落ち着いて! 誤解です! わたしはアレッサさんの暗殺には何の関与もしていません! ギルドをクビにされたとかつまんない理由で司祭に復讐を願い出たのは……このナナリという女です!!」


 わたしはびしりと指を突き立てて、全ての元凶である彼女の罪過を告白した。


「……は? はああああ!!?? いや、テメーが……っ!」


 バカが頓狂な声を上げるが実にうるさい。

 お前がつまんねえプライドのために復讐しようなんてしなければ誰も不幸になることはなかった。嬉々として股開いてたクセにこっちを巻き込むんじゃねえ、そんなだから事務員も務まらねえんだ。


「わたしはアレッサさんへの復讐を思い留まらせようとしてたんです! でも全く聞く耳を持ってもらえずに司祭を焚き付け暗殺依頼を……! 今日だってわたしは2人に改心を促すためこのスイートルームを訪れたんです!」

「なぁっ! テメーがヤれヤれ言うから乗ってやったんだろ!? 適当こくなこの糞ピンクが!」

「適当ほざいてんのはオメーだカス! とにかく、すぐにでもわたしはアレッサさんのところへ行って誤解を解きます! つきましては、この場は真の標的であるこちらの生ゴミの首1つでどうか手打ちということに……!」

「!!?? ふ、フザケンなああああああ!!!」


 逆上した無能が顔を真っ赤にして襲いかかってきた。

 ベッドの上で取っ組み合いになるわたし達。

 ええい、髪をつかむな、爪を立てるな! 


「好き放題言いやがって! 殺してやるぅぅぅっ!!」

「うるせえ放せ! 体臭がオヤジ臭えんだよ!!」


 なに涙目になって被害者面してんだ。中年と乳繰り合うのが趣味の変態が。

 いくら回復職だってこっちは冒険者だ。体力では負けてない。

 わたしはがら空きの下半身を思い切り蹴り飛ばしてやった。


「げぶっ! ぐ、ぐぞぉ……っ!」


 ナナリはたまらず床に転がったが、その弾みで髪の毛を何本か持っていかれた。

 女の命を傷つけた罰として追撃の腹蹴りを食らわせる。

 満遍なく何発もお見舞いしてやると、やがて白目を剥いて見るからにアレな液体をびちゃびちゃと嘔吐した。


「グェっ! オゲエエエエ」

「ハァ……ハァ……またゲロ吐いてら。下の口がユルいと上もユルくなるみてえだな」


 これで頭もユルいんだから完全に救いようがない。まさに汚女(おんな)代表。

 最後に後頭部を踏みつけて慈悲を与えると、ナナリは痙攣したまま気を失った。


「あのさぁ……急にケンカ始めたりとか、元聖女サマに復讐とか、さっぱりなんだけど。どうしてそんな話になるわけ?」


 今の今まで傍観していた暗殺者がいささか引き気味な様子で尋ねてくる。


 何言ってんだ、全部知ってるくせに白々しい。

 さすがに依頼したのが誰とかぺらぺら喋るのはプロとしてするわけにはいかないのだろうが、今はそんなことどうでもいい。早くこの女の首を手土産にお帰り頂かねば。


「ですからね、わたしは勘違いで標的にされて――がっ!?」


 暗殺者は片手でわたしの胸ぐらをつかむと、信じがたいことにそのままわたしの体を持ち上げる。


「ちゃんと“事情”もしっかり聞いてるんだから、間違えるわけないでしょ。ワタシの標的はあんたと司祭。依頼内容の変更及びキャンセルができるのは依頼主だけよぉ」


 彼女はまっすぐにこちらを見据えていた。その瞳に宿るのは、一度やると言ったらやるという鋼の意志。

 駄目だ、このままじゃ殺される。


「こ、このっ! 放せゴラアアア!」


 必死で抵抗するけど、いくら腕を殴りつけてもナナリと同じようにボディや股間を蹴り飛ばしても、全く微動だにしない。

 ただのメイド服にハイヒール。バランスもなにもあったもんじゃないだろうに、どうなってんだ。


「まあまあ、少し実験に付き合いなさい。あんた《セルフヒール》って使える?」

「へ……? 使えるけど、あんなゴミスキルがなんだってんだ!」


 次の瞬間、わたしの右腕に熱い衝撃が走る。

 なんだかおかしい、手首から下の感触がない。指を動かせない。


 まさか。


「あ……あ……あああああ……?」


 右腕の肘から半分が無くなっていた。びちゃびちゃと音を立てて血がこぼれる。


 うそ……嘘おぉぉぉぉ!?


「う、うぎゃあああああああ!!??」


 痛い、痛……いでえええええええええ!!!!


「ほら、回復してみて。《ヒール》じゃなくてセルフのほうで」

「そ、そんなの【星】1つしか振ってないのに意味ねーよぉ……!」


 わたしの手が……手がぁっ! やだやだやだぁ! 早く教会に、いや、王都のお姉ちゃんを呼んで!

 お姉ちゃんなら最大レベルの《ゴッドブレス》を使えるから、きっとくっつけられる! 早く! 時間が経つと手遅れになる! お願いだからぁっ!


「早くしないと左も切り落とすわよ」

「ひっ! ……ぐうううう! 《セルフヒール》!」


 ぴちょんと、レベル1の情けない光が全身を覆って、気休めにもならない回復効果が発動する。案の定、出血も再生もまったく止まってない。そもそも手首が床に落ちたままなんだから接合なんてするわけなかった。

 暗殺者は「やっぱそんなもんよね」と他人事みたいに呟いている。

 何でもいいから早く治療させて……!


「他の部位も試してみたいから、次行くわよ」

「!! ま、待ってっ!! 顔はやめで!」

「……あん?」

「わ、わだし、好きな男の子がいるんでずっ!!」


 そう、この世でたったひとり愛した男の子が……!


 代々聖職者を輩出している家系の三女に生まれたわたしは、何一つ不自由なく生きてきた。

 教会に籍を置く親族が勝手に金を稼いでくるため家は裕福だったし、優秀な姉がいたため両親の期待に晒されることもなく好き勝手生きられた。

 結婚相手だって、うちはこれ以上家を大きくする必要がないから好きにしていいと言われた。

 同じ金持ちでも、基本的に政略結婚でブ男とも付き合わないといけない気の毒な貴族令嬢と違って、誰でも好きな男子を捕まえられるのがわたしの立ち位置だった。

 そう、わたしは生まれた時から自由と権力を手にしていた超勝ち組だったのだ。

 冒険者になったのだって、底辺で生きる連中の生活を体験してみたいというちょっとした気まぐれだった。

 だけど、そこでは運命的な出会いが待っていた。


 ラビ様。


 ああ、森でへたりこんでこちらを見る彼を前にしてわたしはもう一瞬で恋に落ちた。

 中性的な容姿もあって童顔で線が細くて、男としてはめちゃくちゃ頼りにならなそうでも、いざって時には能力はともかくそれなりに頑張ってくれちゃって。

 本当、好き好きぞっこんラヴ。

 待合所でたまたま顔見知りになっただけで、そろそろ解散しようかと思っていたクソゴミみたいなパーティーを建て直したのも好感度青天井。

 何より、今の調子付いて自信家ぶってる彼が好き!

 ああいうタイプは一生尻に敷ける! 言うこと何でも聞こうとする! ああいう男子をかしずかせるのが、わたしの夢だった!


 これがきっと《愛》なんだ!!


「あなたも女の子だからわかるでしょっ!? 好きな人に振り向いてほじぐてっ! だがら、だがらっ! まだ死にたくないのおおおお!!」


 頬を伝うこの涙は痛みから来るものではない。ましてや命が惜しいのでもない。

 彼への想いが極まって噴出してしまったものだ。

 同性ならば、この気持ちがきっと伝わるはず。


「……好きな人がいるから見逃せと言われたのは初めてだわ。でもさぁ、それと元聖女サマがなんたらって、どういうことなの?」

「だっで! 彼が昔の女を忘れてくれないんだもん! わたしに夢中になって欲しかったんだもん! 他に女がいたら消えてもらいたいって思うのは当然でしょ!? 好きな男子のために張り切り過ぎちゃう時ってあるでしょおっ!?」


 ラビ様がアレッサに向ける表情。あれを見させられたらすぐにわかる。

 常に憎悪しているけど、反対に言えばそれだけあの女に気があったのだ。

 あいつが生きている限り、本当の意味で彼はこっちを向いてくれない。

 だから排除してやろうとしたんだ。そうすれば諦めもつくだろう。

 ナナリと司祭を焚きつけたのも、全ては愛しのラビ様のためにやったこと。


「でももう反省しだからぁ! アレッサさんに謝るから! 顔も見たくないっていうなら、今日からは絶対関わらない、近づかない、冒険者もやめるっ! だから助けてええ!!」


 まさか暗殺者を逆に送りつけてくるなんて、完敗だ畜生。

 癪だけど、これからはこっそりラビ様と逢瀬を重ねる。あの2人には差をつけられてしまうけど、夜にしか顔を合わせないとかのほうが新鮮さが失われずに良いかもしれない。

 するとそれを聞いた暗殺者は舌打ち1つすると、不快そうに顔を歪めた。

 何か機嫌を損ねるようなことを言ってしまったのだろうかと思ったが、彼女は「やっぱすぐにヤっとくべきだった」と溜め息を吐いてこちらに向き直る。


「実を言うとさぁ。あんたは場合によっては命を奪うまではしなくていいって言われてるのよ」

「……へっ?」

「さっきから見てれば、お友達をボコボコにしたり、恋がどうとか自分の話ばかりで救いようなかったから、酌量の余地なしってことで適当になぶり殺して終わりにしようと思ったんだけどねぇ。“反省”って言葉が出たんじゃ、しゃーないわねぇ」


 何を言ってるんだ、この女。

 暗殺者の癖に、ヒトゴロシの癖に反省がどうとか人を値踏みするような資格があると思ってんのか。

 でも……なんだか空気が変わった。

 命まで取られることは、無さそうか?


「でも、肝心の()()()()()()()が無いのはいただけない。だからこうしましょう」


 ざりゅっ。


「………………え゛」


 突然、視界が真っ暗に染まる。

 目隠しでもされてまったのかと思うくらい、何も見えなくなる。

 おかしい、目蓋の感覚がない。

 目の奥がひゅうひゅうする。無事なほうの手で触ってみるとぬるりとした感触。

 そして、やってくる激痛。

 ……これって、まさか。


「目……目がぁあああああああ!!??」


 両目が、眼窩の中にあるべきものが、無くなってる。嘘、うそうそうそ――


「あがああああ!!! やべでっ!!! 目をがえじ――ごぶぉっ!!??」


 次いで、喉に何かが突き刺さる感触。

 息が止まったのも一瞬のこと。


「お゛っお゛っ……! ごっ、おごっ!」


 何かはすぐに引き抜かれたけど、声が思うように出せない!

 なにこれ、なにこれぇ! わたしに何が起きてるのおっ!!


「暗殺なんてやってるとね、人体の構造にやたら詳しくなるの。たとえば、どの辺を狙って潰せば声帯を奪えるか、とかねぇ」

「ごおっ!? お゛お゛お゛お゛っ!?」


 声帯? 声? 話せなくなるってこと!? この先ずっとこんなサルみたいな声を出して生きろと!?


「次は耳イクわよ」

「おごお゛お゛お゛お゛!? お゛――!!!!」


 さらに、耳も!?

 なんで、何の権利があってこんな酷いこと!?

 イヤだ、やだやだやだやだやだああああ!!!!


「え? 何でこんなことするのって? あんたに心の底から反省してもらうためよ。何も見えない言えない聞こえなくなったら雑念が入らず反省に集中できるじゃない?」


 だから反省したって言ってるじゃねえかああ!!


 何でわたしがこんな目に遭うんだ!

 もしかして、本当にアレッサは関係ないの!?

 だとしたら誰!? ここまで恨みを買うなんて何1つ心当たりがねえぞ!?


「お゛――――っ!! お゛――――っ!!」


 くちゅり、と右の耳に細い何かが入り込んでくる……!

 痛い、やめて……! 痛いやめて、痛いやめて、やめてええーーーーーっ!


「まぁ、あんたイイとこの出なんだし、一生面倒見てもらえるでしょ。ああ、それと最後に一言」

「お゛お゛お゛あ゛お゛あ゛お゛お゛お゛――――!!!!」


 わたしの、左半分が無音になる前に。


「好きな男子が振り向いてくれないからって、命を狙うのはどうかと思うわ」



 ゴヂュ、びちゃ、ぷつっ――



 ☆★☆★



「げほっ……う、うう……」


 あら、時間をかけすぎたか。

 吐瀉物の海からナナリとかいう女が起き上がる。


「良がった、私まだ生ぎて……!「はぁい、ごきげんよう」ひっ! ひぃぃぃ!?」


 こちらの顔を見た途端に壁際まで引かれてしまった。

 ワタシは魔物じゃないのに失礼な。


「一体、なにがどうなって……そうだ糞ソアラは!? え、は!? 死!? な、何これえええ!?」


 ワタシが壁に貼り付けにしてやった神官少女を見て彼女は絶叫する。

 ちなみに殺さないと決めたので、右手や顔はちゃんと応急処置をしてある。


「さて、次はあんたの番ね」

「ひ、あひゃあ!? ゆ、許じてっ!!」

「……なんちゃってね。あんたは標的でも何でもないから、ここで見たことを口外しなければ――」

「たずげっ! 死にたぐない、助けでええっ!」

「命までは取らな……あ、あら?」


 よほど混乱していたのか、彼女は入り口のドアではなく窓のほうに向かっていった。

 そしてそのままガラスを突き破って身を乗り出した。


「ウソでしょ、ここ3階よ!?」

「あ、アアアアアア――っ!」


 なんとそのまま飛び降りた。

 慌てて窓の下を覗くと、変なポーズで地べたに寝転ぶ彼女の姿。


「…………し、知ーらない」


 知らない、ワタシは何も見ていない。

 そそくさと部屋を出ると、ちょうど本物のルームサービスが料理の乗ったカートを押してやってくるところだった。


「あ、スイートのお客さんお酒はいらないって言ってたわぁ」


 返事を待たずにトレーの上のワインボトルをつかんで、入れ違うように廊下の先の階段へと向かう。

 仕事の後の一杯が欲しかったのでナイスタイミングだった。


「は? 待ちなさい、あなた新人? あ……もう、どういうことよ……すみません、食事をお持ちしま……へっ!? な、何よこれ……! ひ、ヒィィィィ!?」


 後ろで悲鳴が上がったが、構わずわたしは階段を降りて裏口から外に出る。

 そしてメイド服を脱いであらかじめ路地の影に用意しておいた軽装に着替えると、色町の通りに踏み出した。


 少し先には人だかりができている。

 回復職がどうとか聞こえるから、さっき落下した女を救護しようとしているのだろう。彼女の無事を祈りつつ、ワインのコルクをダガーを突き刺してこじ開けた。


(にしても、妙なことになったわねぇ)


 ボトルに口をつけながら、ワタシは少し前の『依頼主』との会話を思い出す。



 ・ ・ ・



『あなたが“ディー”か。まさか若い女性だとは思わなかった』


『大体最初に言われるのよね、それ。不安ならやめとく?』


『いや、失礼した。そもそも予想外というなら、わたしが依頼主というのも驚いただろう』


『そうね、お子さん大好きな“孤児院の院長”さんが殺人の願い事なんて、教育現場も末だわ。さっそく本題をどうぞ』


『……先日、私の孤児院を2年前に巣立っていった少女がぼろぼろになって帰ってきた。布切れ1枚だけをまとって体中傷だらけ、それはもう酷い有様だった。にわかには信じられなかった。本当なら彼女は教会でシスターとして神に献身していたはずなのだから。私は彼女を介抱しようとしたが、もう体力の限界だったのだろう、間もなく彼女は息を引き取った』


『…………』


『死の直前に彼女は言ったよ。自分は教会の司祭に奴隷として北の果ての国に売り飛ばされ、それから数か月間、見世物としてなぶりものにされ続け身も心も壊されてしまったと。10日ほど前に国内で反乱があり、その混乱に乗じて逃げ出したのだそうだ』


『…………』


『私は教会の伝手を使ってあの司祭の身辺を調べた。身内には甘い教会だが最後には何人かが口を割った。あの男は気に入った女の弱みを見つけては己の立場を利用して食い物にし、飽きたら奴隷として他国へ売り払い、おまけに寄付金も横領して贅の限りを尽くしていたそうだ』


『…………』


『あの子の同僚だった元シスターが打ち明けてくれた。自分の心が弱いばかりに司祭に体を許してしまい、取り返しのつかないことをしてしまったと。正義感の強かったあの子はいてもたってもいられず、主教様に全てを打ち明けようとした。だがその動きを察知した奴の姪だという神官の少女に密告され、その日の内にあの子は……奴隷として拉致されてしまったそうだ』


『…………』


『……奴の犠牲者には、私の子どもが他にもいる。みんな様々な事情で肉親から愛情を与えてもらえなかった子だ。あの子だって……孤児院の前に裸同然で捨てられていたのを私が拾ったんだ……! 私は子ども達全員に、不幸な生い立ちを背負ってしまった分だけそれ以上に幸せになって欲しかった。それなのに……!』


『…………』


『いつかは孤児院の手伝いをしたいと言ってくれるような、優しい子だった。それを……何だったんだ、あの子の人生は……!? このまま主教様に罪状を報告しても奴の家は名門だ。どんなに重くても破門がせいぜい、悠々自適な隠居生活を送るだろう。こんな不条理がまかり通るものか……! 絶対に許せない!』


『…………』


『私の依頼は、悪魔の化身のようなあの司祭の抹殺だ。……ただ殺すのではなく、あの男に人生を踏みにじられた者たちの無念を少しでもわからせてやって欲しい!』


『……ふうん、了解』


『それともうひとり。司祭と結託してあの子を嵌めた神官の少女だというソアラも同罪だ。ただ……彼女に関してはまだ若い。もし彼女に、一欠片でも反省の情があるなら、その言葉が聞かれたら、その時は君の裁量で手を緩めてやってくれないか?』


『あ、それは嫌。面倒くさい』


『……君は一流だから、ある程度の条件は呑んでくれると聞いていたのだが』


『……あーもう。わかったわよぉ。受ける受ける。一流だもの、ワタシ』


『ふっ……ありがとう。これであの子が戻ってくるわけではないが、これ以上不幸な人間を生まないためにも、よろしく頼む』


『…………ねえ、あのさぁ』


『うん?』


『まるでその子のこと、ずっと不幸だったみたいに言うけど。最後にその子が孤児院に戻ってきたのは……あんたに会いに来たのはさ。あんたなら絶対に自分を守ってくれると、また幸せにしてくれるって思ったからじゃないかしら?』


『…………っ』


『きっとあんたと暮らした日々は、その子にとって、紛れもなく幸せだったんじゃないかしら』


『…………ありがとう』


『礼を言われるようなことじゃないわ』


『なんというか、()()()()()だな、君は』


『っ!? 人殺しに何言ってんの。もう行くわ』


『……ああ、頼む』



 ・ ・ ・



(何がいい奴よ)


 ワタシはそんなものじゃない。

 その証拠に、本当に偶然現れた司祭の依頼も引き受けてやったのだから。

 案の定、聞いた通りのクソみたいな野郎だった。

 その場で殺しても良かったが、“中和”しないとヤバイような気がして、よくわからないが司祭の金玉を蹴ったとかいうなんとも過激な元聖女の殺害依頼を引き受けた。

 ともあれ、これで彼女のほうに集中できる。

 前金は受け取った。標的の善悪に関わらず、やる時はやる。

 それが暗殺者だ。

 まあお陰で、変な因縁を背負ってしまったけど。


(心配しなくてもそんなに死にたいなら、ワタシが必ず殺してやるわ、()()()()


 あれこれ考えている内に空になったワインボトルを路地に投げ捨てる。クソまずい酒だった。

 誰だこんなもん醸造したの。後でしめてやる。


「…………接近戦でいくか」


 月が輝いていた。

 暗殺にはまるで向いていない、煌々とした夜だった。

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