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翌日の正午前、エコー君と一緒にギルドへ入ったわたしはウィノナさんに詰め寄られた。
「昨日の夕方はどこにいた?」
「……宿にいましたけど」
「それを証明できるものは?」
「……1階でホットミルクを飲んでいましたから、店主が知っていると思います。エコー君も一緒でした」
暗殺者ディーさんの襲撃を受けた後、どうも目が冴えてしまったわたしは1階の食堂で眠くなるまで事情を聞きに来たエコー君も交えて暇を潰していた。
ちなみに、彼女のことは「うっかり部屋を間違えた酔っ払い」とはぐらかしておいてある。
少し無理がある気がしたけど、酔った勢いで窓から飛び出したので慌てて後を追っかけたのだと押し通したら何とか納得してもらえた。
「ちっ……この分だとアリバイ有りか」
「何かあったんですか?」
「……昨日の夜、色町にある宿の一室から教会の司祭……いや、元司祭の惨殺死体と、ソアラが瀕死の重体で発見された。さらに部屋の窓から落ちたと思われるナナリも重傷だ。現在猟奇殺人事件として国が捜査している」
「えっ!?」
ラビ君の席を見ると、確かにいつも彼にぴったりくっついているソアラさんの姿がない。心配そうな面持ちでアーシェさんひとりだけが彼に寄り添っている。
一応顔見知りが3人も不幸に見舞われたことになるけど、一体何があったのだろうか。
「3人がどうして同じ部屋にいたのかは不明だが、どうやら元司祭は複数の重犯罪に関わっていたらしい。一昨日の内に教会からの破門が決まり、兵士が行方を追っていた矢先の出来事だったそうだ。……良かったな、君の破門も不履行になって教会に戻れるかもしれないぞ」
そう言ってウィノナさんが渡してきた紙には、主教様の名前で司祭様の破門が決定された旨が記載されていた。
確かに元司祭様が勝手にわたしの破門を決めたのなら名誉を取り戻せるかもしれない。でも、神聖魔法を奪われてしまったことも含めて今さら取り返しのつかないことだ。
覚悟は決めている。2人に再会するため『白銀』になるまで冒険者をやめるつもりはない。
「いえ、わたしは……」
「……まあいい。問題は3人に共通して確執のあるのが君だということだ。はっきりいって犯人だと思っている。どうなんだ?」
それでさっきの質問だったのか、と合点がいく。
だけど、わたしとしては3人の誰にも思うところはない。
確かに司祭様には酷いことをされたけど、今となってはどうしようもないことだ。
ナナリさんとソアラさんにしても、とにかくわたしが目障りだったのだろう。嫌われてるとわかりきってるのにギルドを離れなかったわたしにも非はあると思う。
そもそも誰かを憎んだり恨んだりなんて資格はわたしにない。逆はあってもそれは受け入れるべき責め苦だ。
ただ、やってないものはやってないのだから認めるも何もない。
「わたしじゃありません……あのでも、ナナリさんとソアラさんは一命は取り留めたんですよね? 2人に話を聞けばいいんじゃないですか?」
「……いや、惨いことにソアラは両目を抉られ喉と耳を潰されていた。高位の神聖魔法を使えるものが町に不在で治療が遅れたこともあって、機能が回復する見込みはないそうだ。ナナリも完全に気がおかしくなってしまっていて、何を話しかけても「知らない、死にたくない」の一点張りらしい」
「そう、なんですか……」
だとすると、真相はともかくソアラさんの冒険者への復帰は絶望的。それどころか普段の生活もままならないだろう。
……もしわたしが神聖魔法を奪われていなかったら、ソアラさんを救えたのかな。
たらればを話してもしょうがないけど、そんな風に考えてしまう。
「ちなみに第一発見者である従業員の証言によると、部屋に入る直前メイド服を着た若い女とすれ違ったそうだ。しかも衣装には血痕が付着していた気がすると言っている。残念ながら黒髪という以外人相は覚えていないらしいが、町の兵士はその女が犯人だと見て目下捜査中だ」
…………へ?
「待ってください。もう容疑者が浮かんでるなら、わたしが疑われる筋合いなくないです?」
どう見ても特徴が一致しないじゃないですか。わたしの髪は金色ですし、メイド服も着ませんし。
「そんなの正体を隠すためカツラをかぶって変装したかもしれないじゃないか。君は目立つからな」
「……この量の髪を隠せるカツラなんてあると思います?」
腰まで届くわたしの髪は、女性としたって長いほうだ。
これを頭の中に詰め込んだら、どう考えても不自然になって変装どころではないだろう。
「うっ……じ、じゃあ染めたんだきっと!」
「ですから、この量を? 何時間かかると思ってるんですか?」
「くっ……! 屁理屈ばかり! 潔くすればいいものを……!」
そう言われてもやってないものはしょうがない。
「ウィノナ、もういいよ」
歯ぎしりする彼女を制止したのはラビ君だ。
「どのみち、アレッサちゃ……彼女ひとりで複数の人間をどうこうできるはずないよ。協力者や人を雇ったならともかく」
「まあ、そうだが……」
「真相解明は国に任せて僕らは今後のことを考えよう。このままじゃ大変だからね。……彼女なんて、もう終わりかもしれないんだから」
ラビ君と久しぶりに目があう。
なんだか勝ち誇ったような顔をしている。
……終わり? どういうことだろう。
そういえば、なんだか今日はギルドの中が静かだ。
ある程度のグループができていて、その人達だけで話し合っているような、変な雰囲気。
「お姉さん、もう行きませんか?」
「……ええ、そうですね」
今まで黙っていたエコー君が口を開く。
考えていても仕方がない、今日も彼の依頼を手伝うことになっている。もちろん『真鍮』のクエストが再開されていれば別だけど。
「来たのかい2人とも。他の奴には朝まとめて説明したんだけどね。ちょいと面倒なことになった」
受付に向かうとゼノビアさんが渋い表情でこちらを見た。
「何かあったんですか?」
「……ああ。まず全てのクエストの再開が決定した」
「本当ですか!?」
「えっ」
やった!
ずいぶん待ったけどようやく先へ進める。
だけど喜んだのもつかの間。
「冒険者ギルド全体の方針としていくつか大きな変更がある。まず今までの魔物の階級が1つ繰り下がることになった。『鉄』と『銅』は統合。たとえば今まで『真鍮』に区分されていた魔物が『銀』に降りてくることになり、単純に難易度が上がる」
つまり『真鍮』なら今後は『黒晶』、『黒晶』なら『白銀』、『白銀』なら『聖玉』の魔物と戦うことになるということだ。それと最上級の難易度である『神翠石』が2つに分類された。唯一降格されなかった『神翠石』の魔物達は『魔王』などと呼ばれているそうだ。
わたしはそこまで行く気はないからあまり興味はなかったけれど、名前からして災厄級のそれということだろう。
別に昇級を妨害したいというのではなく、現在の冒険者の実力とここ最近の魔物の出現状況を検討して十分な対策が練られるようにとの措置らしい。
「じゃあ僕の場合、今まで『鋼』に分類されてた魔物と戦わなくちゃいけないんですか。うう、せっかく昇格目前だったのに」
「……それなんだけどね、もう1つ面倒な変更がある」
ゼノビアさんはそう言って、ギルドの記録などを書き込んでいるノートを取り出した。
「今後、冒険者の階級は“パーティー”に与えられる」
「……え?」
「今までパーティーってのは単に同じクエストにあたるもの同士をさす言葉だっただろう。今後は正式にメンバーを登録してもらって依頼にあたってもらい、報酬もパーティーに対して支払われる」
「そ、それって……」
「違う階級のもの同士が組む場合、登録時点でもっとも高いメンバーの階級がそのままパーティーの階級になる。あんたらが組むならエコーは登録した時点で『銀』級になるというわけだ」
「は!? なんですかそれ!?」
意味がわからなかった。
壊れてるとしか言いようがないシステムだ。
そんなのじゃ、前以上に誰だって簡単に昇格できてしまうではないか。
「もちろん本人らが合意すればの話だ。普通は実力差のある相手と組むメリットはないから拒否するだろうけどね。高難度の依頼についていったって命がいくつあっても足りないだろう」
「そうですけど……!」
「まあ上が決めたことだ。あたしに文句言ってもどうにもならない。諦めな」
「……あの、ひとりでパーティーというのもできるんですか?」
そう、それだ。
そこが重要なのだ。
わたしは誰とも組むつもりはない。ましてやエコー君と組んだって危険な場所を引きずり回してしまうだけだ。
依頼さえ受けられればそれでいい。魔物の強さがどうだろうと、わたしはひとりで戦う。
「できる……が。それでクエストを受けられるのは『銀』までだ」
次の言葉は、新しい制度は、最大の障壁となって立ち塞がった。
「パーティーは3名以上の構成でのみ正式なものとみなす。『真鍮』以降の依頼に関しては正式なパーティーにのみ発注させる。だそうだ」




