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14 ???視点



「えっ、こ、このメイドが?」

「女の人だったんですか……意外です」


 メイド服姿の暗殺者を見て後ろの2人もそれぞれ口を開く。

 意外といえば、ディーは仕事の報酬を全て前金で要求し、依頼を遂行した後は顔を合わせないと聞いていた。


「なんじゃ、どうかしたのか? わざわざ報告に来たわけではなさそうじゃが」

「……あー、あんたから受けた依頼は……悪いけどもう少し時間がかかるわ」

「はぁっ!? たかが娘一匹始末するのに何を手間取っとるんじゃ!?」


 王国最強の暗殺者の口から出た信じがたい言葉にわしは激高した。

 たかが人ひとり殺すのに時間がかかる!? 

 空いた口が塞がらないとはこのことじゃった。


「別に期限なんて決めてなかったでしょうが。っていうか、あんな化け物だってんなら事前に言いなさいよぉ」

「やかましい! 何が最強じゃ聞いて呆れるわ! 使えない屑が大したぶって前金なんぞ取るんじゃないわい、このヤブがぁ!」


 人差し指を思い切り突き付け、アバズレ以下の無能女に最大限の屈辱を味合わせてやる。

 クソが、これならそこらの物乞いに金つかませて殺しに向かわせた方がまだマシじゃ。

 すると――


「なんだとこのジジィ」


 暗殺者が腕を振ったのが視界の端に映ったかと思うと、次の瞬間、わしの指が潰れた。


「あ……アギャアアアアアアア!!!???」


 爪が砕け骨が潰され関節があらぬ方向に曲がっていた。

 とんでもない激痛を受けて体中から汗が吹き出した。


 い、イダイイダイイダイ痛い――!


「言葉は時として物理攻撃以上の暴力を生むのよぉ。誰がヤブだコラ」

「痛えぇぇえ!! ち、畜生! 《ヒール》! 《ヒール》ぅ!」


 床に膝をつきながら回復魔法を必死に唱える。

 まずい、この女キレると手が出るタイプか! 

 こういう理屈や説教が通じん手合いが最も厄介なんじゃ。


「スゴ、もう血が止まってる。関節は戻ってないけど、さすが司祭ね」

「ハァ……ハァ……! このアマ……っ! い、いや、わしが悪かった。じゃあ一体何をしに来たんじゃ?」

「そんなの決まってるじゃない。“仕事”しに来たのよ」


 ぐぅぅぅ、まだ痛ェ! しかし仕事じゃと? 暗殺者の仕事といえば暗殺しかないが、まさか――!?


「き、貴様ら、暗殺の標的にされるようなことをしたのか!?」

「「……はっ!? 何で私達が!?」」


 後ろで固まって震えておるソアラとナナリは心外だとばかりに声を張り上げる。

 じゃが、部屋の中にいるのはこやつら2人だけで他に考えられん。

 とんでもないとばっちりじゃ! こいつらのせいでわしの指が――


「いや。これからぶち殺すのは、あんたよ」


 ………………はへ?


 ごぎっ。


 顔を向けると丁度ハイヒールのつま先が鼻にめり込んで、わしの体は壁まで吹っ飛ばされた。


「に゛ゃに゛ゃ……! に゛ゃぜぇ!!??」


 鼻が潰れてまともに呼吸が出来ない……! ひ、ヒール! ひーる、ひーる、ひーる゛ぅ!!


「させるか、おらっ」


 ごぎっ、べしゃっ。


「治じた傍から攻撃ずるなぁっ! わじは何もしどらんぞおっ!」

「まぁ、恨みって自分じゃ何とも思ってないことで買うものよ」


 なんじゃそりゃあ! 生まれた時から神への献身を続けるわしのどこに恨まれる要素があるんじゃあ!

 はっ! そうか教会じゃな! わしの名声を妬んだ連中がわしを亡き者にしようと卑劣にも消しにかかったんじゃな!

 ぐぞぉ! もっと内部のものも懐柔しとくのじゃった!

 とにかくここから逃げないと、逃げないとぉ! 


「あ、が……!? な゛んじゃ、わしの゛背が急に小さく……!? ごげっ!?」


 暗殺者の横をすり抜けてドアに向かうものの、何故かその景色はいつもより低く見えた。

 さらには足元の感触がなく、バランスが取れず顔から床に転倒してしまう。


「な、なんなんじゃこればぁ……!? あ、あでぇ!? わしの足が無……!? に゛ゃんでに゛ゃんでぇ!?」


 わ、わわわわしの足首から先が無い! 付け根の部分からすっぱりとその先が! 代わりに、湧水みたいに吹き出す赤い液体漏れていく。

 あれは……血か!? だ、だだだ……誰の!?


「鋼線の強度に問題なし……ワタシの目がおかしくなったんでもないわね。ああ、良かった」

「キザマがやったのかぁああ!? か、返ぜ! わじの足をがえ゛ぜえ!!」

「うるさい。ふんっ」

「ごぇっ……!」


 体中を次々に踏みつけにされ、その度に“ごき”“がり”“ぐちゃ”と体がひしゃげる音がする。

 その細足のどこにそんな力があるのか。


 あ、あああああ止めて、止めてくれぇ!!! 何でなんでなんでわしが、こんな目に……!

 一杯い~っぱい、人を救ってきたのに! どうして、どうしてなんじゃ……!!!


「だ……何でごんな拷問みだいな真似ぇ……!? ひど思いに殺ぜばいいじゃろうがぁ……っ!」

「依頼者からのリクエストなのよ。あんたに人生を踏みにじられてきた多くの人間の無念を少しでも思い知らせてやって欲しいってさ」

「…………!!??」


 なんじゃと!? 誰が誰の人生を踏みにじったというんじゃ。人違いじゃ、そりゃ……!

 わしは人違いで殺されるのか!? 

 いや待て、じゃあ依頼したのは教会ではない……?


 く、くそくそくそぐぞぉ~~~、誰だ、誰なんだああ!!??


 ソアラ、ナナリ、何をさっきからぼーっと見とるんじゃ! 早く助けろ! わしが手を差し伸べてやった恩を忘れたか!

 どいつもこいつも何で肝心な時に使えねえんじゃああああ!!


「……く……ぐふふふ……」

「あら、どうかした?」

「どうやらわじはごごまでのようじゃなぁっ! だけどなぁっ、わじは聖職者! 主に仕えじ崇高な従僕っ! 神は高潔に生きたものの願いをがなえるんじゃあっ!」

「……はぁ?」

「わがらんがバガが! 偉大なる神はわしの願いをお聞き届けくださると言うどるんじゃ! わじは神にこうお願いずるっ! もう1回人間に生まれ変わらせてくだざいどっ! もう1度神に献身させてぐだざいどっ! そうやっで、何回でもやり直してや゛るっ! ごごでぇわじを殺しても無駄じゃああっ! ひゃひゃひゃ、ざばあみろおおっ」


 そうじゃ、わしは最初から勝っとる。

 味方なんぞ誰もいらんわ、わしのバックには神がついておる。

 この世界に何度でも生まれて人生を楽しむんじゃ。

 わしは神そのものじゃ、ズが高い、地に這いつくばって控えんかあっ!


「……あんたさぁ、今日ずっと教会に帰ってないでしょ」

「あああ!? それがどうじだぁっ!?」

「ラクシャの教会に赴任してきたのよ。()()()()()()()に代わって()()()()()がね」


 そう言って奴は懐から紙を取り出す。

 どうやらそれは教会からの告知のようじゃった。



『ラクシャの町の皆さまへ。この度、同町の教会を預からせていた司祭が多くの重大な犯罪に加担していることが発覚いたしました。人身売買、姦淫、教会税の横領など発覚しただけでも数10件に及ぶ余罪が明らかとなり、事態を重んじた教会としては、当該司祭を破門の上、王国への身柄の引き渡しを決定したことを報告いたします。総主教さまもこの事態を深く憂慮され、被害に遭われた方々の速やかな調査と救済を――』



 …………………………ほえ!?


 は、はもん……? わしが……?


 ばいばい? かんいん? おうりょう? 


「あ゛……あ゛……あ゛……?」


 待て、まてまてまて。


 どのことを言っとるのか知らんが濡れ衣じゃ。


 知らん知らん。


「あんたはもう聖職者どころか無職よ。……まぁ個人的には、人間なんて死んだら土に返るだけだと思うんだけどさぁ」


 説明させてくれ。

 ぜんぶ事情があるんじゃ。


 弁明の機会くらい与えてくれてもいいじゃろうが。


 わしが、どれだけ敬虔な――


「何やら満足して死なれると依頼者の要望に反するから、念のためね」


 嘘じゃ。

 わしが何のために神につかえてきたと思って……!


「じゃあねぇ、バイバイ」

「だれがだずげ……っ!」



 ごぎっ



 ☆★☆★



 やべぇ。

 やべぇ、やべぇ、やべぇ。


 全身の毛穴が開いて汗が噴き出る。

 聖職者の証たるローブがしっとりと濡れていく。


(嫌な予感がしてたけど、まさか自分がいるときにやってくるなんて……!)


 クエストも再開しない今、手持無沙汰でヒマ過ぎたのが良くなかった。司祭とナナリの救いようのないコンビを見学しようと来てみればこのザマだ。

 大人しく愛するラビ様のところに行ってれば良かった。

 デートにでも誘って、ゆっくりアレッサが死ぬのを待ち焦がれてれば万々歳だったんだ……!


 暗殺はこっそりやってこその暗殺だ。

 なのに堂々と、ばっちりと犯行現場を目撃させながら司祭を殺した。


 それは、つまり――


「さ、次はあなたの番ね、()()()ちゃん」


 名前を呼ばれて、ゴマ粒ぐらいに心臓が圧縮された。

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