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09

 わたしとエコー君が向かったのは、町から離れた丘陵地。

 その一帯に巣食うようになったゴブリンを退治して欲しいというのが依頼内容だ。難易度は『銅』級。

 この間戦っていた狼が『鉄』級くらいなので、明らかに背伸びをしていると思う。


「たぁぁぁっ!」

「ギィッ!? ギィッ! ギィッ!」


 前に狼と戦っていた時と比べて、太刀筋や立ち回りにほとんど成長は見られない。

 とにかく大振りで、動きが読みやすい。だから、攻撃を簡単にかわされてしまうのだ。


「あ、痛! やったなこの!」

「ギィィィ!」


 エコー君よりも小柄で小回りも利き、数も多く武器も使うゴブリンに対して、大剣の相性は恐ろしく悪い。

 というかエコー君の小柄な体格で扱うには明らかに重量オーバーなのだ。

 近接で戦うにしてもダガーとか、もっと軽くて扱いやすい武器を使ったほうがいい……と思う。

 待合所では先輩冒険者相手に大きく出ていたけど、その実力は目を覆いたくなるものがあった。


「うう、来るな、来るなあ!」


 やがて岩壁に追い詰められてしまうエコー君。

 それからはパニックになってしまい剣を振り回すのがやっとだった。

 ひとりでもやれるところを見て欲しいというから言われた通りに手を出さないでいたけど、そろそろ限界だろう。

 わたしは生み出した血剣を投擲して彼を取り囲むゴブリンの群れを牽制すると、その間に割って入る。

 そして、同じく手の平で再生させた剣のひと振りを彼に差し出した。


「これを使ってください」

「へ? あの……」

「素人のわたしが見てもわかります。その大剣がエコー君に不向きなんです。預かっておきますから、こっちを使ってください」

「あの、でも」

「こだわりがあるなら、それに相応しい実力を身につけてください。もう冒険者なんですよ」

「……! は、はい!」


 わたしから剣を受け取ったエコー君は再びゴブリンの群れに対峙する。

 血剣は赤く染まっているという以外、強度は同じ長さの鉄の剣と遜色は無い。

 預かった大剣と比べると重さは半分以下。まだこちらのほうが扱いやすいハズだ。


「たあっ!」


 それから、彼の立ち回りは激変した。

 ゴブリンの攻撃速度を超える動きで剣を振るい、1匹、2匹と仕留めていく。

 まだまだ足腰が不安定な気はしたけど、ずっと大剣を振るっていたせいか腕力はそれなりに身に付いていたのだろう。


(もっとも、わたしを警戒してゴブリンが踏み込めなくなったのもありますけどね)


 明らかに異質な存在のわたしが側にいることで、注意を払う対象が増え、エコー君ひとりに飛びかかっていく数はずいぶん目減りしていた。

 やがて10数匹はいたはずのゴブリンは段々とその数を減らしていく。


 そして残り3匹となったところで彼らは逃げ出した。巣のある洞穴とは反対方向に走っていったため、丘陵地は放棄したと見ていいだろう。

 念のため巣の中も見てみるがゴブリンの姿はない。依頼達成だ。


「や、やったぁ! 見てくれましたか!」

「喜んでる場合じゃないですよ。やっぱりソロじゃ無理じゃないですか」

「うう……あっ、この剣、ありがとうございます」

「それはあげます……と言いたいところですけど、ちゃんと武器屋で自分にあったものを改めて購入したほうがいいですね」

「はい! 報酬をもらったら早速行ってみます!」


 ……引き受けたから仕方ないとはいっても、こんな誰にでも言える上辺だけの意見を言ってどうするのか。

 本当はわたしより、戦闘職の冒険者に師事してもらったほうが成長するだろうし、スキルの修得だってちゃんと専門の機関に通ったほうがいい。

 それに何より、このままではパーティーが組めない。


「あの……エコー君。やっぱりさっきのこと、みんなに1度謝ったほうがいいと思います」

「へ? 誰に、ですか?」

「ギルドのみんなにです。エコー君の発言に不満そうだったでしょう? これからあなたは彼らとパーティーを組んでクエストに挑戦したりするんですから、揉めたりしちゃダメです」

「え、でも……」

「納得いかないことがあっても、我慢することだって大事なんです。それとも、誰か冒険者のお友達がいるんですか?」

「いない……ですけど」

「じゃあ、あなたはギルドの中で出会いを探してください。その人達と一緒に成長してください」

「あの、お姉さんとじゃ――」

「わたしは、近い内にギルドを去ります」


 エコー君とわたしの行く道は違う。

 誰も一緒に歩くことのできない一本道だ。

 ただ逢いたい人達がいる。それだけで冒険者をやっている。

 こんな死霊が、ちゃんとした冒険者になろうとしている彼につきまとっちゃいけない。


「もうすぐわたしは冒険者をやめます。……ギルドで聞いたでしょう? 仲間を見捨てたっていうのは本当です。ずっと一緒に夢を追ってきた大切な人達を、わたしは見捨てたんです」


 誰も両親の顔は覚えていなかった。

 物心がつく頃には、孤児院にいた。

 偶然出会ったわたし達は、お互いを家族だと思って生きてきた。

 同じ空の下を、同じ世界を、一緒に歩いていこうって決めた。


 なのに、その絆を手放したのはわたし自身だ。


「今ギルドに在籍してるのは区切りを付けるためです。エコー君とは理由が違うんです。……あなたは人との絆を大切にしてください。ギルドの中で居場所を見つけるんです」


 生きてください、わたしみたいにならないように。

 そう願いをこめて言ったつもりだった。


「でも僕、あの人達好きじゃないです」


 彼はきっぱりと言った。


「……え? さっきのことなら悪いのはわたしなんですから、気にしなくていいんですよ?」

「それでも僕、ひとの悪口を平気で言う人とパーティーなんか組みたくないです」

「だから、それは――」

「それに似てるんです、あの人達。……よってたかって僕の両親を殺した奴らに」


 そう語る彼の顔は、今まで見たことのない昏い色を落としていたと思う。


 わたしは何も言えなくなるとともに、そういえば彼がどうして冒険者を目指しているのか、その理由を知らないことに気付いた。

 聞いたほうがいいのか、聞いてどうするのか。

 逡巡しているうちに、彼の方が先に口を開く。


「僕、一緒に戦う人は自分で選びたいです。命を預ける仲間だからこそ、信頼できる人はちゃんと見極めたいんです」

「……そう、ですか。そう決めているなら仕方ないです。見つかるといいですね」

「はい! というわけでこれからもよろしくお願いします!」

「お願いされませんよ、もうこれきりです。わたしは暇じゃないんですから」


 ああやっぱりそういう流れに持ち込もうとする。

 でも拒否だ。

 わたしが彼のクエストを手伝ったって何の得にもならない。エコー君からしたってただの寄生だろう。強くなりたいという意志に反するし、分不相応な昇級をしたって何の得にもならない。


「えええ!? で、でも後1回はついてきてもらえるんですよね? っていうか『真鍮』以降のクエストが再開するまでは暇なんですよね!?」


 ここぞとばかりに詰め寄ってくるエコー君。

 甘え上手というか、本当は処世術のスキルでも持っているのではないだろうか。発揮する相手を間違えているけれど。

 程なくしてわたしは折れた。


「……いいですか。どんなに長引いても『銅』までしか手伝いませんからね。それはそれとして、ちゃんと依頼をこなせる力をつけるんですよ?」

「はい! よろしくお願いします!」


 本当に何なのだろう。

 でも元気なエコー君と話してる間だけは、心が軽くなる気がする。


 もう少しだけ彼に付き合おう。

 今はすることがないのだから、息を抜いたって問題ないはずだ。


 ……ごめんね、ふたりとも。


 それ以降も『真鍮』級クエスト再開の話は上がらず、結局わたしは3日に渡ってエコー君の手伝いをしてしまった。

 それだけではなく、彼の剣を始めとした装備の買い出しにも付き合った。

 さらには仮宿を見つけたいと言っていたので、ちょうど空いていた隣の部屋を紹介した。

 ヴィクト君とラビ君が使っていた部屋だ。


 ……本当に、わたしは何をやっているのだろう。

 身にならない日々はもう少しだけ続いた。



 ☆★☆★



「え……えぇと、これはどっちに持ってくんだっけ……」

「ちょっとアンタ、仕分けは終わったかい? まだたんまり積み荷は残ってるんだからね」

「は……はい。すみません。……あ、げふっ!」

「……何転んでんだい、鈍臭いねぇ。この前まで事務職だったか知らないけど、仕事なんだからしっかり働きなよ」

「す、すみません、すみません……!」


 みじめ。


 今の私を端的に表す言葉だ。

 ギルドをクビになってからというもの、私は不幸のどん底にいた。

 生活のために事務職の求人を探したけどほとんど見つからず、たまに面接を受けても私は不正を働いた人間ということが出回っており、入室と同時にその場で帰されてしまった。

 不正を働いたものに不正で対抗しただけなのに、上はギルドに献身を重ねてきた私を裏切り、あろうことか放逐したのだ。


 お陰で、こんな場末の商会の積み荷下ろしをする日雇いくらいしか仕事にありつけない。


 今頃だったら、お茶を飲みながら花を変えたり冒険者の皆とおしゃべりをしたり、充実したライフワークを送っていたはずなのだ。

 それを……たった1回の躓きが全てを変えてしまった。


「ちくしょう……ぢくじょぉ~~~……っ!」


 悔しくて涙が溢れ出す。

 お先真っ暗になってしまった私の人生。

 こんな日々がこれからも続くと思うと堪えられなかった。


「大変そうですね、ナナリ」

「っ!? だ、誰!」


 みっともなく泣きわめいていたところを見られていた羞恥で顔を染めながらも、涙をぬぐって名前を呼ばれたそちらに顔を上げる。

 するとそこには、見知ったピンク髪の少女の姿があった。


「ソアラちゃん……!」

更新ペースに関して、クオリティを維持するために2日に1回程度になってしまいそうな感じですぅ!

最近アクセス回数を確認できる機能を知りましたが、かなりのユーザー様に読んでいただいていることがわかって嬉しい限りですううううう!


ぼちぼち1章も佳境、少しでも皆さんに楽しんでいただけるよう、がんばりまっするうううううう!!


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