3話『月読命』
気が付くと、また俺は知らない空間に立っていた。
「……?」
俺は周りを見渡すが、何も無い。
真っ白で、壁も空も地面も無い空間だった。
「ここは………」
【ここは虚無の間だ、宮野 小春。】
空から女性の声が聞こえてきた。
声の聞こえた方を見ると、先程は居なかった筈なのだが、黒髪で長髪の若い女性が宙をフワフワと浮いていた。
彼女の容姿は驚く程に整っており、純白の着物に体を包んでいる。
彼女は、少しキツめな目つきで小春のことを静かに見下ろしていた。
「あんたは……?」
「……私の名は月読命だ。」
「ツクヨミ……?」
小春は聞き覚えのある名前に首を傾げる。
(確か、月の神様だったと思うんだが……)
「早速だが、お前は死んだ。鉄の荷車に撥ねられてな。」
その神様は、あっさりと重大な発言をしてきた。
「…そう、か………」
普通の人なら、とても信じられない発言だったが、
小春はすんなりとその事実を受け止められた。
小春が撥ねられた直後、小春自身も自分の死を悟ったからだ。
(それに、あの首の衝撃……確実に首の骨はやられてたと思うしな………)
そんな小春の反応を見て少し興味深そうな顔をした彼女は、ぼそりと呟く。
「……ふむ、まぁ手間が省けたな。」
そして、ゆっくりと降下して地へと降り立つ。
「こちらも忙しい、大人しくしていろよ。」
そう言いながらスタスタと俺に近づいてくる彼女。
「えっ、何をするんだ?」
「腕を出せ。」
俺の質問には答えずに命令してくるツクヨミ。
有無を言わせない雰囲気があったので困惑しつつも腕を差し出す。
すると彼女はガッチリと俺の手首を掴み、口元へと運んだ。
俺の人差し指は、ツクヨミの艶やかな唇の中に消えていった。
「は?………痛っ!」
累が困惑していると、指先に痛みが生じる。
どうやら彼女は俺の人差し指に噛み付いているようであった。そして、チュルチュルと吸い始める。
「……んむ………」
慌てる俺とは対象的に微動だにせずに吸い続ける彼女。
この程度の痛みには耐性があった小春は次第に冷静になっていく。
(……血を吸ってる?)
この指先に感じる痛みは出血している時と同じ…だと思う。
待っていると、なんだか指先の感覚が鋭くなってきた。
彼女の俺の指を弄る舌使いに集中していると、なんだかいけない事をしている気になってしまう。
舌の柔らかさと……目を瞑って吸っている彼女の顔に意識が持っていかれる。
「……ん、よし、大人しくしていたな。」
どうやら用事は済ませたらしい、彼女は何事も無かったように俺の指を解放した。
解放された指を見ていると、少し寂しくなってきた。
(……って、あれ?)
指の1部分に血が付いているが、傷口は見当たらない。
「一体何を……?」
俺は問うが、彼女はすまし顔でハンカチで口を拭いている。
「……記憶を読ませてもらった。宮野 累は本当に転生させても問題無い人物なのか、を知る為にな。」
「…転生。」
「ああ、そしてお前は見事。転生する権利を得た、おめでとう。私自ら祝福してやろう。」
そう言い、ツクヨミが俺の頭に手を翳すと、俺の体から力が湧いてくる気がした。




