↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/20

十五話

 まるで人のように手足と頭を生やした機械は、鈍色の足を動かしながら二人に迫り始める。二人の身の丈の倍以上もあるその機械の威圧感は、二人を固まらせるのには十分だった。二人の目の前へと立った機械が腕を振り上げた時、足を震わせる短髪の少年がもう一人の少年を突き飛ばす。

「逃げるぞ!」

 二人は一目散に駆け出す。ランタンも持たずに廊下に飛び出すと、暗闇の中を階段へと走る。途中、土砂に足を取られながらも、階段を滑るように降りて一階へと辿り着いた。全力で出口へと駆ける二人の視界に、ホバー船を引きずって出口へと進んでいるウルとソラが現れた。ソラが駆け下りてきた少年たちを見つけると、目をつり上げて怒りを露にする。

「お前ら一体何した!何が起こってる!」

「俺らも知らねぇよ!」

 その時だった。重い打撃音と共に天井に亀裂が走る。打撃音は止まることなく二度、三度と響き渡る。四人は、ゆっくりと後ずさりながら天井を睨みつけた。ひと際大きな打撃音とともに、あっけなく天井が崩れ落ちる。施設に差し込む朝日に照らされて、瓦礫と動く機械が四人の前に姿を現した。


 モクモクと立ち上る砂煙の中、低い機械の駆動音が空気を震わせる。四人の行く手を阻むように立ち上がった機械は、天井から落ちたにも関わらず不具合は見当たらなかった。頭部がぐるりと回転すると、まるで狙いを定めるようにウルとソラへと向けられる。

「なんだこれ、初めて見た!」

「言ってる場合じゃない!」

 心なしか浮ついた声でそう叫んだウルに、ソラが渇を入れる。そんな掛け合いをよそに、機械が周囲を薙ぎ払うように腕を振り回した。よろけながらもそれを躱したウルとソラは、上から逃げてきた二人へと駆け寄る。

「すごい、動いてる!人間みたいな形してる!」

 目を輝かせるウルには目もくれず、少年たちは口を開いた。

「なんとか隙を見て逃げ出すか、それとも動きを止めるかだ。なんかいい手はあるか?」

「天井ぶち抜いて落ちてくるくらいだもん、動きを止めるのは難しい。なんとか隙を見て逃げよう」

 早々に結論を出した二人に、ソラが口を挟む。

「ホバー船は雪の上まで持ってかないとエンジンを掛けられない。そんな隙どうやって作るの!」

「そんなもん知らねぇよ、なんで俺たちがお前らの手伝いしなくちゃなんねぇんだ!」

「お前たちが連れてきたんだからなんとかしろ!」

 短髪の少年とソラが声を荒げる。機械はそれにかまわず、四人を蹴散らすように足を振り回す。他の三人が素早く避ける中、反応が遅れたウルを長髪の少年が後ろへと引き倒した。短髪の少年が人の頭ほどの大きさがある瓦礫を投げつけて動きを止めると、機械は狙いを変えるように短髪の少年へと顔を向ける。短髪の少年は鋭くウルを睨みつけると、喉が裂けんばかりに声を張り上げた。

「埒が明かねぇから手伝ってやる。でも方法はお前が考えろ、過去からの遺産とかで何とかしてみろよ!」

 短髪の少年のその一言で、ウルの目に力が入る。勢いよく顔をこすると、目を凝らして機械の観察を始めた。

「黒髪のチビ、お前はこっち手伝え!」

「チビっていうな、でかぶつ!」

 言い合いながらも、機械を攪乱するように二人は動き回った。機械の手が届く限界の所でソラが待ち構えると、伸ばされた機械の手を紙一重で躱す。その手を叩きつぶすように、短髪の少年が抱えるほど大きな瓦礫を投げつけた。だが、腕に小さな傷をつけただけだった。ぎりぎりの攻防を続ける二人の様子を、長髪の少年は瞬きもせずに見ていた。痺れを切らしたのか、微動だにしないウルの背に小突くように膝を当てる。

「この状況で、あの調子で動き続けてたら、二人とも体力が持たない。解決策はまだ見つからないの」

 焦りを押し殺したように語りかける長髪の少年だったが、ウルの耳には届かないのか、返事は返ってこない。そんなウルの様子に、長髪の少年が忌々しげにウルの頭頂部を睨みつける。それに気付くこともなく観察を続けるウルだったが、やがて唐突に立ち上がった。

「……あった、見つけた」

「えっ?」

 ウルの背後で零れた声を気にすることもなく、ウルはあらん限りの声を張り上げた。

「その機械の胴体の下の方、赤いボタンが停止スイッチだ!」

 その声に、三人は素早く胴体へと目を凝らす。ウルが言った通り、胴体の腰元あたりにコインほどの大きさの小さなボタンがあった。機械を攪乱する二人は隙を見てそこへと手を伸ばすが、しかし妨害されて胴体に触れることすらままならない。

「こんな、ちいせぇもん、どうやって、押せってんだよ……!」

「むーりー!」

 息を切らしながらも、二人は機械の攻撃をよけ、そして隙を伺い続ける。しかし、その動きは目に見えて精彩さを欠き始めていた。機械の腕が少年のジャケットの裾をかすめた時、後方で様子を見守っていた長髪の少年が深く息を吸い込んだ。細く息を吐きながらライフルに弾を込めると、そのまま流れるようにウルの前に腰を下ろして左膝を立てる。

「一瞬で良い、そいつの動きを止めて!」

 そう言い放つと、立てた膝の上に左手を乗せ、その上にライフルを構える。一瞬相方へと顔を向けた短髪の少年は、目を見開いた後に強く唇を噛み締めた。

「絶対に、当てろよ!」

 そう言うと、床に落としていた鉄パイプを拾い上げる。そして、すぐさまソラへと指示を出した。

「チビ、そこから動くな!」

「だから、チビっていうな!」

 苛立ちを露にしながらも、ソラは言われた通りに足を止めた。ソラへと狙いを定めた機械が大きく一歩を踏み出す。その瞬間、短髪の少年が足の隙間を狙って鉄パイプを投げ込んだ。足をとられた機械はそのまま大きく前へと傾く。ソラが機械の前から飛びのくと、機械の背面に回り込んだ短髪の少年が力いっぱいその背を蹴りつけた。機械はなすすべもなく倒れ始める。機械が完全に倒れこむ直前、破裂音が辺りに響き渡った。白煙を上げる銃口の先は、小さな赤いボタンを完璧に捉えていた。


 漂う硝煙の匂いを嗅ぎながら、皆が一心に機械を見つめる。その中をウルが恐る恐る機械に近づいてその胴体を探り始めた。背面に付けられたパネルを外すと、中に取り付けられた計器の針をじっくりと確認する。皆が固唾を呑んで見守る中、安堵の表情を浮かべたウルが顔を上げた。

「大丈夫、完全に停止してる」

 その一言をきっかけに、ソラと短髪の少年が床に膝をついた。肩で息をする二人を気にしながらも、長髪の少年がウルへと駆け寄る。眉間に深いしわを刻みながら、機械の背面を覗き込んだ。

「本当に停まってる?」

「大丈夫だよ。ここの針が振れてたらエネルギーが流れてるけど、完全に止まってるから」

 長髪の少年がウルの手元を見ると、そこにはまったく反応を示さない計器があった。それを見た長髪の少年は、口を固く結んで涙を浮かべる。こぼれかけた涙を腕で拭うと、大きく息を吐いた。

「にしても、これなんなんだろう。上にあった機械をこじ開けたら急にすごい音が鳴り始めてさ。慌てて逃げようとしたら、廊下から出てきたこいつに襲われたんだ。」

「多分だけど、こいつはこの研究所の警備員なんだ。まだ壊れてなかった二階の機械を触られて起動したんじゃないかな」

「そんなことあるんだ……」

「僕も初めて見たよ」

 そう言ってお互いに顔を見合わせて頷くと、二人はどちらともなく歩き始める。そのまま地面にへたり込んだ二人へと近づき、声をかけた。

「大丈夫?もう落ち着いた?」

「結局撃つんなら、もうちょい早く撃つって決めろよな」

「はは、ごめん。今度からもう少し早く決めるよ」

 眉尻を下げながら微笑んだ長髪の少年が手を差し出すと、短髪の少年がその手を取って立ち上がる。同じように立ち上がっていたウルとソラへ向き合うと、短髪の少年がぶっきらぼうに言い放った。

「お前、あそこを押したら機械が止まるってよく分かったな」

「大体の機械は、非常停止ボタンを赤くするんだって。その方が目立つし、分かりやすいから」

 返事を聞いた少年が不貞腐れてそっぽを向くと、ソラが眉間に皺を寄せながら睨みつける。そんな二人を意に介さず、ウルは出口へと歩き始めた。

「今のうちに外へ出よう。他にも同じ機械があるかもしれない」

 ソラが大人しく後に続き、ホバー船を押しながら出口に進む。少年たちものろのろと後に続きながら、しかし口々に文句を垂れ始めた。

「お前らは良いかもしれねぇけど、こっちは何も収穫なかったんだぞ!」

「僕らこのままだと生きてけないなぁ!誰か何とかしてくれないかなぁ!」

 わざとらしく大騒ぎを始める二人へ、白けた目をしたソラが振り返った。

「こっちは昨日お前らに襲われたのに、その上なんでお前たちの面倒を見ないといけない。今だってお前たちのせいでひどい目にあったのに」

「まぁまぁソラ。僕たちはもう出ていく。しばらく経って何も異変が無ければ……」

 言葉の途中で、ウルの声をかき消すように甲高い警告音が響きだす。倒れた機械から発生するその音は、四人を焦らすには十分だった。それまでの気だるそうな動きが嘘のような速さでホバー船に駆け寄った少年二人は、ウルとソラと共にホバー船を押し始めた。

「なんだよこの音!まだなんかあんのか!?」

「知らない、あの機械は完全に止まってたはずだ!」

 四人が勢いよく施設を飛び出して間もなく、警告音も唐突に鳴り止む。施設から大きく離れて立ち止まった四人は、恐る恐る振り返った。

「なんだ、何も起こらないね」

 額に汗を浮かべた長髪の少年が安堵のため息をつく。そして、ソラが疑い深く施設へと目を凝らしたその時だった。轟音と共に施設から黒煙が噴き出す。爆風にあおられた四人が盛大にひっくり返る。呆然としながら四人がゆっくりと体を起こすと、ごうごうと火柱をあげる施設が目に入った。

「嘘だろ……」

 皆の心を代弁したような短髪の少年のその一言は、誰にも拾われることなく朝の眩い光の中に消えていった。

 

次回更新日は10/22(木)22時です。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。