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群れの中、たくさんの魔物にまとわりつかれて、ポイズンアントは、がむしゃらに頭を振り、体を振っていた。あの動きだと消耗が激しくて、敵が疲れる前にポイズンアントがばてる。続けさせてはいけない。
「ポイズンアントさん! 今助けます!」
マルメロの声に、ポイズンアントの動きが緩んだ。止まったなら、それはそれで、絡みつく魔物たちに好きに動くことを許す。
突風が吹く。青い風が吹いて、ポイズンアントの背中に付いていたいくつかの魔物たちが、体に裂傷を刻んで空を飛んでいく。直後、マルメロが群れの中を飛び出し、魔物の頭を蹴って跳躍する。
「はぁぁあ!!」
オオアリの頭部にしがみついていた網目模様のトカゲの胴体を、上からマルメロがぶん殴る。爆発がトカゲの背中を撫でる。トカゲはそのまま地面に滑り落ち、ひっくり返って、それから地面に染み込むように体が消えていく。
「ブルーバード! 聞こえるか! いったんお前のレッドパールを渡せ!」
俺は壁にしがみ付いたまま、空間のどこかを飛んでいる青い影へと呼びかける。
俺は、片手で壁に差し込んだ刀の柄を握り、もう片方を空中に差し出す。
きら、と、何か赤いものがきらめいた。それはそこの空中から現れ、勢いを付けて俺に飛んでくる。俺はそれをキャッチして。
そろそろだな。
「マルメロ! 少し離れろ! ポイズンアント! 体を思いっきりぶん回せ!」
俺の声に、即座に黒い人影は後退し、振り向きざまそこの魔物を殴っている。
ポイズンアントに、俺の指示は通ったみたいだ。俺の言った通りに、彼女は体を回していき。
呼吸が途切れ、苦しくなってきた魔物たちが次々とポイズンアントの体を滑り落ちる。落ちた後に、小さな体の魔物たちは、そのまま青い甲殻の大きな足に踏み潰される。
俺は刀を握って壁を蹴り、再び空中シューズを使い、ポイズンアントの背中に飛び乗る。まだ残っていたゼリー質の不定形な魔物を、中に浮かべた核を突いてその粘体を引き剥がす。
俺はブルーバードから受け取ったレッドパールを、ポイズンアントの体に押し込む。青い、細かい毛の生えた甲殻は赤い宝石を受け取った。
「戦うのが怖いか?」
俺は、オオアリの背中に手を当て、呼びかける。
「負けるのが怖いか? 囲まれるのが、前みたいに、自分が一人窮地に陥って、救われないのが怖いか?」
一度、体を振り払って落とし切った魔物たちの一陣だが、この空間にはまだまだ、数えきれないほどの魔物たちが残っている。
「聞け、ポイズンアント。お前は強い側だ。お前は負けない。張り詰め過ぎた、その心持ちを、今からお前が、ほんの少し緩めるだけで。お前はこの世界を自由に生きていけるようになる。お前が持っているのは力だ。飛び切り強力な力。いいか、よく聞け。もう一度だけ、お前に同じ命令を与える」
落ちた魔物たちの体は、元気があればまた立ち上がり、倒れたものは地面に吸収されていく。空いた魔物の隙を踏み越えて、また新しい魔物たちが近づいてくる。
「好きに暴れろ! 蹂躙しろ! 与えられたその暴力を、お前が見えているそれらすべてにぶつけろ! さぁ、ここからは! ただお前の独壇場だ!」
俺が平手で、足元の青い背中を叩けば。
オオアリが、体を持ち上げる。三対六本の足が、動き出す。
最初は、彼女は控えめに動き出した。こちらが歩き出したのを見て、俺たちの前方に居る魔物たちは怯み、足を止める。
彼女は走り出す。だんだん速く、やがて、その足が出せる最高速へと。顎を振り、先に立つ魔物たちを押しのけ、跳ね飛ばし、噛みつき叩きつけて。
怪力を宿したオオアリが、一方的な進軍を始めた。俺は揺れる背中に屈みながら、ただ力に散っていく魔物たちを眺める。
素材進化で、ポイズンアントの身体能力は引き上げられ、さらにブルーバードの分のレッドパールを重ねて持たせることで、さらにポイズンアントの力は強まっている。
この空間には、いったい何十の、何百の魔物が居るのだろうか。そして、この場に何体の魔物が存在しようが、このポイズンアントと面して同時に戦えるのは、せいぜい十匹か二十匹が限度だ。
なら。ポイズンアントの力が、その“同時に襲い掛かってくる二十体の魔物の力”を上回ってしまえば。どれだけ数に囲まれようが、ただポイズンアントは“常に敵に有利な状態”で動いていることになる。
ポイズンアントは体を振り回し、突撃し、顎で魔物をすくい上げ、次々と魔物たちを地面に転がしていく。ここには大勢の魔物たちが召喚されたようだが、この中に“特筆して強い個体”は混ざっておらず、よって、ポイズンアントを止められる力を持つ魔物もまた居ない。後ろでマルメロも一匹ずつ殴って倒しているようだが、ポイズンアントはそれを上回る勢いで敵の数を減らしていく。
今日は、この日のために用意して、グリーンオーブを多めに持ってきている。もちろん数には限りがあるが、折れやすく止まりやすく沈みやすいポイズンアントの闘志を維持するために、彼女の背中の上から、グリーンオーブの光を浴びせる。
要るか要らないか分からないが、ポイズンアントの背中に乗って、赤い笛の音を吹き続ける。
そのうち、群れの三割ぐらいが減ってきた。ポイズンアントの勢いは、まだまだ止まることはない。
眩むような光が、俺たちの左手の方向から浴びせられる。
「止まるな、ポイズンアント」
俺は彼女の青い背中に乗りながら、注意深く左の光の出どころを見た。
光っていたのは、壁だ。向こうの一面の、地面近くの壁の一点が明るく光っており。その光の中から、何かが体を出して現れる。
それはパカパカと、植物の木の根が絡まった地面を歩き出す。首のない黒い馬、首や足首からは、青緑色の怪しげな炎が湧き出ている。
「まだこっちが終わってないのに、もう追加か?」
「“うるさい。この子まで含めて、この第一部屋だから”」
空から声が降って来る。姿は見えず、ただヴァンピの声だけ。
「最初でもなく途中から出したってことは、最後に出すところを、俺たちの強さにビビッて、慌てて数が残ってるうちに出してきたってこと?」
ヴァンピからの返事がない。
「“その子。わたしの、友達だから”」
空から降る声は、俺に告げる。俺は向こうの、首のない黒馬を見つめる。
「へぇ、随分いかしたお友達だね」
「“軽口叩いてるあんたらなんて、今からみんなやっつけちゃうんだから”」
ぷつんと、何かが途切れた音がする。それきり彼女の声は聞こえない。たくさんの魔物たちの波に阻まれて、首のない黒馬は、あっちの壁でうろうろと回り、歩いている。
俺は、またがって座っている下の青い甲殻へと手の平を触れさせる。
「ポイズンアント。もう、俺が居なくても大丈夫か?」
返事はない。オオアリの形態では人語を喋れない。敵に囲まれ、ただオオアリは激しくその体を動かし、ただただ見える敵をぶん投げまくっている。
「マルメロはそっちに置く。今から、俺はあっちの馬の対処に行ってくる。なんかあれば、俺の居る方まで突っ込んで来い。疲れたならシェルの中に戻ってもいい。あるいはマルメロに俺を呼ばせろ」
俺は立ち上がり、空を見上げる。
「マルメロはポイズンアントと協力して魔物の群れを減らしていけ! ブルーバード! 俺たちであっちの馬をどうにかするぞ!」




