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俺は片腕を上げていれば、何かが俺の体を掴んだ。がくんと俺は体を横に引っ張られ、宙に連れらされ、風に揺れながら空中を滑っていく。
ブルーバードは重い荷物が運べるほど翼に余裕がないし、もちろん俺を乗せて飛べもしない。勢いを付けて俺を掴めば、まぁ、この部屋の中央から端くらいまでは移動できる。
「もういいぞ! 離せ!」
進む勢いが落ちてきて、地面が近づいてくる。必死にばたつかせる荒れた羽音。俺は黒い鳥足をぺしぺしと叩き、それが離されるか離されないかの瞬間に空中シューズを使い、空を三歩蹴って、宙を移動する。
魔物たちの群れは、壁の一角と、俺たちが暴れていた壁の一面に偏っていた。その反対の、馬が現れた方の壁は、魔物たちの数は少なく、俺たちが降りて歩けるぐらいのスペースもある。
魔物たちの頭上を飛び越え、俺は地面へと着地し、隣にばさばさと羽をはばたかせ、青い鳥が降り立つ。つんつんと、俺の肩を青い巨鳥が突いている。
「なに? レッドパールがないブルーバードと俺で、勝てるか分からない、って言いたいの? 甘えるなどうにかしろ」
首のない馬は、どうにかして群れの合間を抜けようとうろうろとしていたが、俺たちが降り立ったのを見て、こちらに体の正面を向けた。
「ま、最悪時間稼ぎでもいいさ。ポイズンアントはともかく、マルメロはあれ越えてもまだ元気だろ。俺たちの仕事はまず、この不確定因子をこっちに引き付けておくこと。そして、その特殊性を先に調べておくことだ」
俺は青い巨鳥の首の下を撫でる。ふさふさで、もふもふの、青い羽毛。手触りには高級感があり、顔を埋めて楽しみたいところだが、それをやれば戦闘時でなくてもどつかれる。青い鳥は不満げにのどを鳴らし、鼻息をふんすふんすと吐いている。
魔物たちの群れは、なぜか降り立った俺たちに近寄ってこないし、あっちの首なし馬の周囲にも、波を引いたように魔物たちが存在しない。首無し馬だけ群れの仲間じゃないのか、それとも俺たちの勝負を群れの方は見守ってくれるのか。
あるいは、仲間にさえ避けられるような能力を、あの首なし馬は持っているのかもしれない。例えば、この相手にその雰囲気はないが、強力な自爆技なんて持っていたりしたら、俺は仲間に近づけさせないだろう。
なんにせよ、俺たちに群れの魔物が近づいてこないのはありがたい、が、それは注意しておくべき要素でもある。まぁ特に理由なんてないかもだけど。
「勝つ必要はない。俺たちのやることは、負けない、出来れば勝つ。分かった? ブルーバード」
鳥の横目が、俺をじっと見据えている。
植物の木の根っこや蔦が複雑に絡み合った硬い地面。壁も、天井も、同じように絡み合った植物の面で出来ている。ここは立方体の広大な一つの部屋。植物の隙間の向こうからは、何やら明るい光が見えている。
「今日は、テンション高いね」
隣を見れば、彼女はいつの間にか、人の形態に戻っている。
「戦闘中だぞ。人の姿で戦えるのか?」
「わたしたちがここで負けたら、どうなるの?」
彼女は俺の言葉を気にするそぶりも見せず、ただ俺に聞いてくる。
「さぁな。考えてない」
「わたしたちがここで勝ったら、じゃあどうなるの?」
「分からないけど、きっと良い方向に進むよ」
「そこまでして、ヴァンピを倒したい理由をわたしたちに話さないのは。わたしたちを、信頼してないから?」
隣を見れば、ブルーバードはあちらの馬ではなく、ずっと俺を見ている。
「わたしたちを巻き込んで。わたしたちに恩を売って、協力させて。そこまでして、これが、トリジのやりたい事なの?」
幸いにも、向こうの首なし馬は好戦的なタイプではなく、ただあちら側で足踏みを繰り返している。向こうで今も起きている戦闘の音が、遠く聞こえていく。
「それは、今答えるべきこと?」
「今ここまで、あなたが答えなかったんでしょ」
確かに、そうだ。ここまで、それで連れてきたのは。ただ俺がヴァンピを倒すって、それだけでずっと、ブルーバードやポイズンアントのことを引っ張って来ている。
「俺だって、すべてのことが、先に見えてるわけじゃない。そのすべてを君に説明できるほど、俺はすべてが分かってるわけじゃない」
首のない馬は、ただ向こうで足を地面に踏みつけ、青緑の怪しげな炎を吐き出し、揺らしている。
「ただ、俺は俺の思うハッピーエンドを目指して、見えない未来の中を進んでるだけだよ。それに付いてくるか、従うかどうかは、ブルーバード。君の好きにすればいい」
隣では、ただじっと、青いカッパを羽織った少女は俺のことを見つめている。
はぁ、と隣からため息が聞こえる。
「結局、確かなことは何も言わないんじゃん。ただ黙って、俺を信じて付いて来いってこと?」
「いや……俺自身も、俺のことはあんまり信じてないし。根拠なく信じられても」
「せめてさー。自信もって、腕引っ張って先導してくれれば、私だって安心して付いていけるのにさー」
「今後は善処しよう」
はぁ、と、もう一度、隣の彼女から溜め息が聞こえる。と、少女は動き出し、俺の隣から一歩、前に踏み出した。ぐっと膝を屈めて、少女の横顔が俺を振り返っている。
「あとトリジ、そのオラオラ系、あんま似合ってないよ」
「この戦闘が終わったら、好きなだけよしよしして甘やかしてあげるよ」
「きも」
白煙が立ち、青い翼が再び空へと飛び立つ。
向こうの首なし馬が、それに刺激されたかのように、こちらへと突撃を始めた。




